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2020.05.25 
新型コロナ禍の“ステイホーム”生活から考える 「子どもの体力」と「体を動かす大切さ」

新型コロナ禍の“ステイホーム”生活から考える
「子どもの体力」と「体を動かす大切さ」

大学院スポーツ健康科学研究科長・教授
スポーツ健康医科学研究所長
内藤 久士

内藤久士先生

新型コロナウイルスの影響で学校の休校や“ステイホーム”生活が長引くことで、子どもたちの生活にも大きな変化が生じてきました。外出自粛によって遊ぶ場所もなくなり、運動する機会も減っている中で、子どもたちの体力低下も心配されてきています。
そこで、毎年スポーツ庁が実施する「体力・運動能力調査」の分析等を担当し、子どもから高齢者まで、運動・スポーツを介した健康づくりに関する研究・普及に携わる内藤久士 大学院スポーツ健康科学研究科長・スポーツ健康医科学研究所長に、新型コロナ禍の子どもたちの体力への影響や“ステイホーム”でもできる体の動かし方、これからの運動・スポーツの在り方について話を聞きました。

子どもの体力は成長に伴い向上するもの
外出自粛の影響も必ず取り返せるはず

外出自粛により部活動が休みになり、試合や大会も中止になったことで、つらい思いをしている子どもたちも多いと思います。また、自宅で過ごす時間が増えている中、子どもたちの体力低下を懸念する声が増えています。確かに、長期的に見た場合には今回の新しい生活様式が人々の体力に何らかの影響を及ぼすことが予想されます。しかし、このような状況でも子どもたち一人一人の体は日々成長し、それに伴って少しずつ体力も向上しています。3か月程度の期間ずっと寝たまま動かない生活を送っているわけではありませんので、子どもたちの体力に対する影響は、体力低下が進行していく中高齢期に比べればそれ程深刻なものにはならないでしょう。自粛が解除されて、これまでと同様な生活が始められれば必ず取り返せるものだと信じていますし、また、これまで以上に、健康を意識した運動や体力づくりへの組織的な取り組みが期待されます。ちなみに、中高齢者でも、健康づくりにおける運動の影響は、“過去”の実績よりも“今”が重要です。若い頃は余り運動をしていなかったとしても諦める必要はありませんから、今日からでも、感染防止に配慮しながら積極的に体を動かしてもらいたいですね。

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健康を意識した運動や体力づくりへの組織的な取り組みが、これまで以上に期待される

1日あたりの運動時間が10分未満
運動をほとんどしなかった子どもたちが
「運動の大切さ」を知るきっかけに

さて、日本中の子どもたちが運動ができなくなってしまったと嘆く以前に、実は今の子どもたちは、「運動をする子」と「運動を余りしない子」の二極に分かれてしまっていることに注目してください。スポーツ庁が毎年、小学5年生と中学2年生を対象に「体力・運動能力調査」を実施(本年は中止が決定)していますが、これまでの結果から、体育の授業や通学時間を除いて1週間の総運動時間が1時間にも満たない子ども、すなわち1日あたりの運動時間が10分間にも満たない子どもたちが相当数いることがわかっています。つまり、体育の授業と通学以外はほとんど体を動かしていないということになります。この運動をほとんどしない子どもたちにとっては、通学時間の10分間、20分間がなくなってしまったことは、とても大きな問題であると言えるでしょう。しかし、通学時の徒歩さえなくなってしまったことで、これまで余り運動をしてこなかった子どもたちが、もっと体を動かしたいと感じたり、体を動かすことの大切さに気づいてくれるのではないかと期待しています。また、これまでスポーツが好きな子や得意な子に関心が向かいがちだった大人たちも、体を動かすことはすべての子どもたちにとって非常に重要なことであると改めて気づいたはずです。今回の経験が、自分にあったやり方で楽しみながら運動やスポーツに関わることの大切さを見直すきっかけになってくれればと思っています。

内藤久士先生

「運動=体を鍛える、トレーニング」の思い込みをなくす!
遊び感覚で体を動かすことで自然と体力はつくもの

日本では、「子どもの身体活動ガイドライン」として、日本スポーツ協会が子どもにとって最低限必要な身体活動量を「1日60分以上」と提示しています。ここで言う「身体活動」とは、体を使った遊びや運動に加えて、生活の中で体を動かすことも含みます。エレベーターの代わりに階段を使うといったことだけでなく、家の掃除の手伝いなど、日常生活の中で体を動かすことすべてを広く「運動」と捉えて構いません。例えば床の雑巾がけや窓拭きなど、お掃除はとてもいい運動になります。「運動=体を鍛える、すなわちトレーニング」と特別なことのように考えてしまう人は多いのですが、この“思い込み”をなくすことがとても大切なことだと考えています。遊び感覚で楽しみながら体を動かすことで、自然と体力もつくもの。子ども時代に体を動かす気持ちよさを知り、その習慣を身につけていれば、大人になったときには体を動かすことがライフスタイルの一部となっているでしょう。このような状況だからこそ、今できるアクティブなライフスタイルを大人と一緒になって見つけ、楽しみながら運動やスポーツに関わる人が増えてくれることを期待しています。

窓ふき

床の雑巾がけや窓拭きなども、とてもいい運動に
ところで、ソーシャル・ディスタンスという言葉が一気に広まりつつあり、子どもが友だちと一緒になって遊ぶことが何か悪いことのように誤解されかねない状況です。しかし、厳密なルールの上に成り立つ競技スポーツとは異なって、遊びは子どもたち自身が工夫し、そのルールを変えられるところが重要なポイントです。ディスタンスを保って遊ぶ方法は実際にいくらでもありますし、創り出すこともできます。例えば、昔ながらの“影踏み鬼”は、もともと体に触れない鬼ごっこですよね。また、外出自粛によって大人たちは在宅勤務になり、ビデオ会議システムの活用も一気に進んでいますが、子どもたちの遊びも究極はオンラインでつながって行うのが当たり前になるかもしれません。そのようなときでも、これまでの先入観にとらわれることなく、運動や遊びの意義を考え工夫する、あるいは少し視点を変えるだけで、その可能性はますます広がってくるでしょう。
“ステイホーム”でもできることを楽しんで
小さなお子さんたちも楽しめるたくさんの遊びや注意点が、日本スポーツ協会や日本レクリエーション協会をはじめとするホームページ上で紹介されています。
その他、今、多くの子どもたちに向けて、たくさんのトップアスリートからメッセージとともに、面白い技や、日常生活では行わない運動に挑戦する動画がインターネットを通じて配信されています。もちろん、いわゆる筋トレなどの動画もありますが、トレーニングというより、できるかどうかで、挑戦して楽しめるかがポイントです。是非参考にしてみてください。

内藤久士先生

プロフィール

内藤 久士 NAITO Hisashi

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科長・教授
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 スポーツ健康医科学研究所長

1983年筑波大学体育専門学群卒業。順天堂大学大学院体育学研究科修士課程修了。博士(医学)。2009年順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授。2014年より同大学院スポーツ健康科学研究科研究科長、2016年よりスポーツ健康科学部学部長(2019年3月まで)を務め、2018年よりスポーツ健康医科学研究所所長を兼任。研究分野は運動生理学、体力学。毎年、体育の日(2020年より「スポーツの日」に名称変更)に発表される、国の「体力・運動能力調査」の分析等を担当するなど、子どもから高齢者まで、運動・スポーツを介した健康づくりに関わる研究や普及に携わっている。