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2020.07.02 
研究対象はヒトの“パフォーマンス” スポーツ科学に欠かせない 「測定評価学」の魅力とは―?

研究対象はヒトの“パフォーマンス”
スポーツ科学に欠かせない
「測定評価学」の魅力とは―?

スポーツ健康科学部 准教授
河村 剛光

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

スポーツに科学的なアプローチをするためには、さまざまな測定や検査を行い、身体のパフォーマンスや変化をデータとして把握することが必要とされています。このスポーツ科学に不可欠な多種多様な測定、結果の評価、統計処理などを研究領域とするのが、河村剛光准教授が専門とする「測定評価学」です。河村准教授は、測定や評価にとどまらず、指導やトレーニングへの活用までを視野に入れた幅広い研究を展開。ヒトの行動やパフォーマンスを総合的に捉え、現場で活きる研究成果を発信しています。

ヒトの“パフォーマンス”を測定する
難しく、魅力的な研究分野

「測定評価学」は、ヒトを測定し、得られたデータを解析、分析して、パフォーマンスを評価する学問です。私は、そのデータを実際にスポーツの指導、練習、教育にどう活かすかまでをトータルで考察するさまざまな研究に取り組んでいます。運動生理学や機能解剖学などは、体の中で何が起きているのかを調べますが、私が研究対象にしているのは、ヒトの“パフォーマンス”です。ヒトの能力や動きは複雑で、その日の体調ややる気によっても変動するため、測定や分析には独特の難しさが伴います。しかし、その難しさも含めて魅力的な研究分野だと感じています。

スポーツ科学の分野ではこれまで、筋力、パワー、持久力など“発揮する力”、つまり“出力”の測定を行い、筋、遺伝子、酸素摂取量などの観点から分析する研究が数多く行われてきました。しかし、特に球技は、いかに強い力や素早い動きが“出力”できても、外部からの情報を正確に“入力”して処理できなければ、実際の競技力にはなかなか繋がりません。

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

そして、この情報の“入力”において、最も大きな比重を占めているのが視覚です。競技レベルの高い選手は視覚機能が優れているという研究結果は、これまでにも報告されてきました。スポーツの中でも、プロ選手になると150km/hを超えるボールをバットで正確に打ち返す必要がある野球は、その競技特性から、最も高度な視覚機能が求められる競技と言われています。しかし“見る力”とそのトレーニング効果に関する検証は、まだ十分行われているとは言えません。
「見る力をトレーニングすれば、スポーツの技能を向上させられるのではないか」――この発想を出発点に、私が近年取り組んできたのが、野球の打撃練習と視覚的なトレーニングの効果を、打撃能力と視覚機能の観点から検証する研究です。

球種・球速を考慮したトレーニングが
打撃能力の改善に重要

この研究で行った実験では、被験者を100km/hのストレート、 115km/hのストレート、100km/hのカーブの3条件について、それぞれ「打撃練習をするグループ」と「打席でボールを見るグループ」の計6グループに分けました。そして、予め全員に対して打撃能力測定と視覚機能測定を行い、4週間で12回の打撃練習または視覚的なトレーニングを実施。その後、再度この2つの測定を行い、練習やトレーニングによる変化を検証しました。
実験の概略

図1

まず、この研究には、2つの目的がありました。1つは「打撃練習が打撃能力に及ぼす影響を検証すること」です。打撃練習は打撃能力を向上させるために行うのですが、練習した球種・球速に限って打撃能力が改善するのか、また、練習していない球種・球速での影響はどうなのかを検討したいと考え、複数の球種・球速を設定して実験を行いました。その結果、実際に打撃練習を行った球種・球速で打撃能力が顕著に向上。つまり、打撃能力を向上させたい場合、改善が必要な球種・球速を対象に練習することで、より効率的なトレーニングができる可能性があります。また、早い球速での練習により、その球速以下の打撃能力についても改善が見られた点は注目すべき結果でした。
そして、実験のもう1つの目的は「視覚的なトレーニングが打撃能力と視覚機能に影響を与えるのか」を明らかにすることでした。この実験の結果、視覚的なトレーニングを行ったグループの一部では、動体視力に加え、目と手の協応に関する視覚機能の向上や打撃能力が改善する可能性が示されました。このような視覚トレーニングは、ケガをしてバットを振れない選手の練習メニューとしても活用できるかもしれません。

今回の研究から、球種・球速を考慮した打撃練習と視覚的なトレーニングが、打撃能力を向上させるために重要だということがわかります。この研究では、純粋な実験の影響を明らかにするため、あえて野球経験の少ない人を被験者に選んでいます。そのため、バットを強く速く振る力や技術を持つ経験豊富な野球選手であれば、今回のトレーニングの効果もより強く表れるのではないかと考えています。近年、部活動の長時間練習が問題になっていますが、打撃練習の球種や球速を絞ることで、練習の効率化や練習時間の短縮による選手への負荷軽減にも繋がるはず。競技現場に活かせる成果を出すため、今後もさらなる研究を進めていく予定です。

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

<関連リンク>
【プレスリリース】野球における打撃練習と視覚的なトレーニングの効果を検証 ~ 球速や球種に着目した練習の重要性を報告 ~
https://www.juntendo.ac.jp/news/20200415-01.html

千葉ロッテの選手に体力測定を実施
トレーナーとの意見交換でも収穫

「ヒトを測定する」と聞いて、多くのみなさんがイメージされるのは、学校などで経験した体力測定ではないでしょうか。体力測定には、50メートル走や反復横跳びといった一般的な項目だけでなく、競技種目に特化したテストなど、さまざまな種類があります。アスリートが体力測定を行う場合、さまざまな測定項目の中から、野球選手なら遠投やスプリント能力、バレーボール選手ならジャンプ力といったように、各種目で重視する能力を測定する項目を選んで実施していきます。
今年1月には、さくらキャンパスにあるスポーツ健康医科学研究所で、千葉ロッテマリーンズの新入団選手に対する体力測定を行い、私は握力、背筋力、垂直跳びなど計8項目の測定に携わりました。当日は、現場を熟知した球団のトレーナーの方々と一緒に測定を行いながら、どんな測定項目を選ぶべきか、どの程度のスパンでテストを行えばいいのかなど、さまざまな相談をし、意見を交わしました。トレーナーの方々から現場目線の生の声を聞くことができ、お互いに発見と収穫の多い貴重な経験ができたと考えています。

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

ランプの点灯に合わせてどれだけ早くジャンプできるかを見る“敏捷性”の測定について説明する河村剛光准教授(右から2番目)と千葉ロッテマリーンズの選手たち(左から佐々木選手、横山陸人選手、本前郁也選手)

体力測定のデータを使った
トレーニングの検証が求められている

体力測定を行うことには、大きく2つの意義があります。まず、選手本人が今の自分の特徴を理解できるということ。もう1つは、データを使ってトレーニングの効果を検証できるということです。
しかし、残念ながら多くのスポーツ指導の現場では、測定結果の検証や活用までは十分に実践できていないのが現状です。競技力の向上には、トレーニングと定期的な体力測定をセットで行い、トレーニングに効果はあったのか、狙い通りの強化ができているか、変更を加えなければならない点はないかなどをチェックし、トレーニングのプランを立て直すことまで、トータルで取り組むことが求められます。
選手自身も、自分の感覚だけではなく客観的データで体の変化を把握すれば、より効果的なトレーニングを実践できるでしょう。体力測定データの活用は、今度さらに取り組むべき課題だと考えています。近い未来では、データの種類や量も膨大になり、高い科学技術も活用しながらスポーツやトレーニングを行うことにもなると思います。もちろん一方では、ヒト(人)が“それら”をどう扱うか十分に議論する必要もあります。

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

ヒトの身体のサイズなど“形態”を計測する機器

いろいろな競技を経験した方がいい?
J-Fit+Studyを活用した研究

順天堂大学では、1969年以降にスポーツ健康科学部に入学した全ての学生を対象に、在学中の4年間毎年「体格体力累加測定」を行っています。2016年には、50年以上蓄積された1万人分を超えるデータを活用する研究プロジェクト「体格体力累加測定研究:J-Fit+ Study」が始まり、私もプロジェクトに携わっています。
これまで、学生の競技種目と体力特性の関連、卒業生の健康状態や運動習慣の調査などを実施してきましたが、今取り組んでいるのが、学生の競技歴と競技レベル、健康、運動習慣などとの関係についての研究です。
脳や神経系の機能は、子どもの頃に飛躍的に発達することが知られています。その時期に多様な競技に取り組み、さまざまな運動を通じて「見る」「捕る」「タイミングを合わせる」といった経験をすることは、その後の競技レベルや健康状態にプラスに働くのではないかと考え、大学までの競技レベルや競技成績の調査、アンケート調査などを通じて研究を進めています。

【順天堂スポーツ】体格体力累加測定

体格体力累加測定で垂直跳びをする学生

多様な競技経験が
将来スポーツ文化を支える力に

複数の競技を経験することは、競技力や健康への影響だけでなく、スポーツを「楽しむ」「観る」「支える」といった側面にも、良い効果が期待できると考えています。たとえば一旦競技から離れても、経験している種目が多いほど、もう一度スポーツを始める時に選択肢が広がります。幼いころにさまざまな種目を身近に感じた経験は、試合観戦や試合会場でのボランティアなど、スポーツに関わる幅広い活動に繋がっていくでしょう。
少子化が進む中、さまざまなスポーツで競技人口の減少が課題になっています。各競技で子どもを囲い込んでしまうことは、これからのスポーツ界にとって得策ではないはずです。スポーツ界全体が発展していくために、子どもがいろいろな種目を経験することの効果を明らかにすることには、大きな意義があると考えています。

「科学する」=本当かどうかを確かめる
経験や勘を謙虚に見直せる指導者に

【順天堂スポーツ】河村剛光先生

測定や検査は、スポーツや健康を「科学する」ために欠かせない方法です。それを私は「本当かどうかを確かめること」だと、常々学生に話しています。スポーツは、時に科学的アプローチ以上に経験や勘、感情が力を発揮することもある世界です。しかし、学生には、将来子どもたちにスポーツを指導する立場になった時、自分の経験や勘が「本当かどうか」を謙虚に見直す姿勢を持っていてほしいと思っています。
さらに、科学的アプローチは、スポーツの指導に限らず、現代社会のあらゆる場面で求められています。データを把握し、評価・分析し、現場や実社会に活かす。多くの学生にスポーツ科学、測定評価学を学んだ経験を、スポーツ界や社会全体の発展に役立ててほしいと願っています。
プロフィール

河村 剛光 KOHMURA Yoshimitsu
順天堂大学スポーツ健康科学部 准教授

2001年、順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科卒業。2009年、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ健康科学)。
ヒトを対象にした多分野の測定、評価、解析を行う測定評価学が専門。これまでに、視覚機能、野球・バレーボール・陸上競技選手の体力測定など幅広い研究に取り組み、成果を発表している。