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2021.06.09 
考える力を伸ばし、個性を活かす。 「箱根駅伝の先」を見据える長門俊介監督の選手育成法

考える力を伸ばし、個性を活かす
「箱根駅伝の先」を見据える長門俊介監督の選手育成法

スポーツ健康科学部 特任助教
陸上競技部長距離ブロック(駅伝)監督
長門 俊介

長門俊介監督

箱根駅伝で62回の出場、11回の優勝を誇る順天堂大学長距離ブロック。2016年から指揮を執る長門俊介駅伝監督は、駅伝での勝利の先も見据え、選手が自ら成長する力を引き出す指導を続けてきました。選手育成やチームづくりの方針、そして、今年の選手に感じるこれまでとの「違い」とは? 個性派揃いの選手たちを率いる長門監督にお話をうかがいました。

これまでにない意識の高さ
本気で優勝を目指せるチームになった

昨年の箱根駅伝の予選会で、ある程度戦える手応えをつかみ、今年の箱根駅伝では総合7位という成績でした。もう少し上を狙えると思っていた分、選手たちにも満足感はありませんでした。悔しさを抱えてスタートした今年のチームは、「優勝したい」という思いを表に出すようになり、これまでになく意識の高い集団になっています。今年のチームは、箱根駅伝優勝を目指せるチームだと思っています。
それでいて、先輩後輩の隔たりがあまりなく仲が良いところも、今のチームの特徴です。上級生は偉ぶらず、下級生は萎縮せず、しかもお互いにライバル心もある。バランスの取れた、かなり良い雰囲気だと思います。駅伝は、仲間のため、チームのためにという意識が強いほど、苦しくなった時にプラスの力を発揮できます。この仲の良さは、駅伝で勝つための強みになると考えています。

長門俊介監督

目標、練習、進むべき道について
自分で考えられる選手を育てる

指導で常に意識しているのは、指導者や練習環境に依存しない選手になってほしい、ということです。
大学から実業団に進んでも、過去の練習方法や指導にとらわれすぎて、伸び悩んでしまう選手は珍しくありません。そうならないためにも、選手たちにはどんな状況でも、進むべき道を自分で考えられる人間になってほしい。そのため、日頃の練習から、「こうでなければダメ」とは言わずに、「こういうやり方もあるんじゃない?」と声かけすることで、選手が自分で考える力を引き出すように心掛けています。
選手にどんな言葉を掛けるかは、個性に合わせて考えます。勝ち気な選手にはどんどんハッパを掛けるような言い方をしますし、そうではない選手には、悪いところを指摘するだけではなく、良いところを探して伝えます。僕が見つけた「良いところ」が彼らの個性ですし、その個性こそ、駅伝で戦う武器になるからです。今のチームは、個性派揃いで型にはまらない選手ばかり。そのあたりが今の順大の強みであり、良さだと思っています。

医療×スポーツサイエンス
“ONE TEAM”で選手をバックアップ

選手を支えているのは、指導者だけではありません。順天堂では、箱根駅伝強化特任理事の宮野武先生(練馬病院名誉院長)をはじめ、ワンチームで選手を育成する体制が整備されています。選手の体調管理に関しても、ラグビー日本代表チームドクターの経歴を持つ高澤祐治先生(スポーツ健康科学部教授)が中心となってチームを支えてくださっているだけでなく、附属病院からも医療面で全面的なバックアップをいただいています。選手が安心して競技に打ち込めるという点で、とても充実した環境です。また、キャンパス内にはアスレティックトレーニングルームがあり、チームには専属トレーナーもいます。リハビリだけでなくケガ予防の面でもトレーニングのサポートをしていただけるため、選手にとっても心強いはずです。
一方で、選手のパフォーマンス向上にはスポーツサイエンスの観点も欠かせません。そのため、学部内では運動生理学やバイオメカニクス分野との連携も図っています。例えば、運動生理学の視点では、体内に取り込める最大の酸素量(最大酸素摂取量)を測定したり、血中の乳酸値を測定することにより、トレーニング強度の指標にすることができますし、バイオメカニクスの観点では、個々の選手のランニングフォームから走りの特徴を分析することが可能です。選手である学生自身も、各分野の教員から直接話を聞いたり、大学の授業で学んだ知識とリンクさせながら、自らの競技力につなげるヒントを得ているようです。
このように医学部とスポーツ健康科学部の垣根を越えた多面的なサポートが受けられるのも、順天堂ならでは。多くの人に支えられて今のチームがあると思っています。

長門俊介監督

箱根での経験が指導者としての礎に

学生時代の箱根駅伝では、4年連続で9区を任されました。1年目に9区を走ったら成績が良くて、澤木先生(澤木啓祐・現名誉総監督)がそれ以降、変えてくれませんでした。
実際に走っていて、僕自身も、自分はこの区間に向いているなと思っていました。9区は、最初の権太坂の下りをうまく走り、終盤に向けて力を残しておかなければいけません。23キロの長丁場を一人旅になっても淡々と走り続けることも大事です。僕はその二つができていましたし、性格的にも合っていたのだと思います。往路も走ってみたかったのですが、「9区は復路のエース区間だから」と言われれば「エースなんだ」とその気になりましたし、横浜駅前の大声援を受けることで自分自身のモチベーションをさらに高めることもできました。そんな目立ちたがりなところがあったんです(笑)。
忘れられないのが、総合優勝した2007年。その年は、5区の今井正人(現トヨタ自動車九州)が後ろにかなりの差をつけて往路優勝を決めたのですが、実は僕は、そこで少しテンションが下がったんです。もう優勝は当たり前だと思ってしまって。先頭を走る喜びはあるけれど、自分で勝負を決められないのは面白くないな、と思っていたんです。それを見透かしたように、澤木先生から急に電話があって「6区から8区で抜かれるかもしれない。お前が勝負を決めろ」と。それでもう、気持ちが盛り上がってしまって!…でも結局、前の区間で抜かれることもなく、トップでたすきを受け取ったんですけどね(笑)
同じ言葉をかけられても、ガチガチに緊張してしまう選手もいるはずですが、僕はそう言われていなかったら盛り上がれなかった。学生の個性を大事にしながら指導する大切さを、僕自身が身をもって感じた瞬間かもしれません。この時の経験が、今の指導者としての礎になっています。
 

長門俊介監督

箱根駅伝では「性格的にも合っていた」という9区を4年連続で任された

真面目さの中に現れ始めた
「勝負師」の雰囲気

2011年に順大のコーチ、2016年から監督になり、指導者となって丸10年が経ちました。大学卒業後、JR東日本で選手を続けていたのですが、ちょうど引退を考えていたタイミングで、コーチの話がありました。順大の成績が良くない状況でしたし、仲村先生(仲村明・現長距離ブロックコーチ)が一人で指導されていて大変なことも分かっていたので、良い機会だと思って引き受けることに決めたんです。
僕が学生だった時代は、競技力さえあればいいだろう、という考えが多少あったのですが、今はそんなことはないですね。みんな真面目ですし、気持ちも優しい。ただ、その真面目さや優しさが、「いざ勝負!」となった時に勝ちきれない原因になっているとも感じます。最後の最後に「何がなんでも自分が!」という強さがほしい。それは、これまでずっと学生たちに話してきたことです。
今、その真面目さの中に、少しずつ「勝負師」の雰囲気を持つ学生が現れ始めています。僕が監督になる前の年に松枝博輝(現富士通)が主将となり、「順天堂は箱根で優勝を目指すチームでなければいけない」という意識をチームに植え付けて卒業していきました。その種が、芽を出し、時には枯れそうになりながらも、時間をかけて成長してきたんだと思います。僕自身も、これから先が楽しみです。
箱根駅伝のコースは各区間に特徴があり、その特徴に合う個性を持った選手を配置することが、勝ちに繋がります。選手には、自分がどの区間で戦えるのか、どんな役割を果たせるのかを自ら考えほしい。そして、戦うための個性をどんどん前面に出してくれることを期待しています。

陸上競技部_長距離ブロック

陸上競技部 長距離ブロックの学生たち

人と人が繋がり、支え合う
学びの場としての順天堂

順天堂大学スポーツ健康科学部は、自分の身体に関する科学的知識、競技に直結する学びが得られる授業が数多くあります。将来、競技者として活躍したい、指導者として頑張りたいと考えている人には、とても恵まれた学修の場だと思います。
僕は順天堂の学是である「仁」という言葉が大好きです。その志の通り、人と人の繋がりの強さも順大の良さだと思っています。卒業してからも「順天堂」の繋がりや誇りを大事にされている方は多く、箱根駅伝では、毎年たくさんの卒業生の方が、どの大学より熱く応援してくださっています。人を思いやり、人と支え合い、感謝の気持ちを持って学ぶ。そんな学生が集まってくれるとうれしいですね。
プロフィール

長門 俊介 NAGATO Shunsuke
順天堂大学陸上競技部長距離ブロック(駅伝)監督
順天堂大学スポーツ健康科学部 特任助教

2003年、順天堂大学入学。4年時の箱根駅伝では9区で区間賞を獲得し優勝に貢献した。卒業後、JR東日本に入社し実業団選手として活躍、現役選手を引退した2011年に陸上競技部コーチに就任、2016年より監督。リオデジャネイロ五輪出場の塩尻和也選手、日本選手権5000m2回優勝の松枝博輝選手などを育成した。