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2021.07.06 
アスリートに多い膝の靱帯損傷。 理学療法士として研究と実践で競技復帰をサポート

アスリートに多い膝の靱帯損傷。
理学療法士として研究と実践で競技復帰をサポート

 保健医療学部 理学療法学科 先任准教授
相澤 純也

相澤先生①

けがをしたアスリートにとって、スポーツ外傷は競技人生を左右する重大な問題です。特に膝の靱帯損傷の場合、手術と長いリハビリテーション(リハビリ)を経て競技復帰を果たすためには、外傷・障害に対するリハビリの専門家である理学療法士の適切な関わりが欠かせません。膝の靱帯損傷を専門に研究し、現在も理学療法士として現場に立つ相澤純也先生に、アスリートをサポートする理学療法士について聞きました。

アスリートに多い膝の靱帯損傷

理学療法士は、病気、事故、スポーツ中のけがなどで体に障害がある人に対して、起き上がる、座る、立つ、歩くといった基本動作能力の回復のため、運動療法などを行うリハビリの専門職です。関節の可動域の拡大、筋力の強化、痛みの軽減といった運動機能に働きかける治療法、歩行の練習など能力回復のための治療法などを行い、元の動きを取り戻していきます。
私は、10年ほど前からアスリートに対する理学療法の臨床と研究に取り組み、中でも膝の靱帯損傷の予防、コンディショニング、再損傷予防を研究テーマにしています。
膝の靱帯損傷は、下肢のスポーツ外傷の中で特に多く起きているけがです。ラグビーのタックルや柔道の技など、競技中に相手と接触することで受傷するイメージがありますが、実は7~8割は、バレーボールでジャンプして着地した時、サッカーで急に切り返した時のように、膝に過度な負荷がかかったことが原因で起こっています。

相澤先生②

膝の靱帯には、前十字靱帯、後十字靱帯、外側側副靱帯、内側側副靱帯があり、特に前十字靱帯の損傷は、9割以上が手術をしなければ競技への復帰が見込めません。受傷から競技復帰まで短くて半年、長ければ1年ほどかかり、さらに長期間のリハビリやコンディショニングも必要です。
アスリートの競技復帰は、当然、一般の方の社会復帰よりさらに高いレベルで筋力やスピードを戻さなければならないという難しさがあります。受傷前のレベルで復帰できる選手は、全体の60~80%。つまり、20~40%の選手は、復帰しても以前のようにはプレーできないまま、競技生活を終えてしまうのが現状です。アスリートに特化した知見を持つ理学療法士が、適切な評価や指導を行うことで、より高いレベルでの競技復帰が可能になると考えています。

一次予防や再損傷予防も重要な役割

一般的に、理学療法士が患者さんに関わるのは、けがや病気をした「後」。しかし、スポーツ分野の理学療法士は、けがをする「前」に、けがのリスクを取り除く一次予防、さらに再損傷の予防に取り組むことも重視しています。
一次予防という点では、たとえばバレーボールなどジャンプする競技の場合は、接地の衝撃で靱帯にストレスがかかるため、着地した時にけがに繋がる姿勢にならないようにする練習や、接地の衝撃をうまく吸収する力とバランスを身に付けるエクササイズ・トレーニングなどを繰り返すことが必要です。
一方で再損傷の予防には、一次予防とは異なる難しさがあります。前十字靱帯損傷の手術では、損傷した靱帯の代わりに自分の腿裏などの腱を使い、骨に穴を空けて固定しますが、手術後も膝は構造的に弱い状態で、2年ほど経っても元の靱帯の強さには戻らないといわれています。さらに、体の使い方、力の左右バランスなど、さまざまな要素も受傷前とは異なることから、それに合わせて理学療法士のアプローチの仕方も変えなければなりません。そこで重要になるのが、競技復帰した後の動きも見据えて、将来けがに繋がりかねない潜在的な問題点をスクリーニングし、それを解消するエクササイズや指導をしていくことです。試合中に生じる偶発的なけがのリスクにも対応できるよう、エクササイズ・トレーニングでは単純な動きから段階的にステップアップし、さらに試合に復帰するときも、接触の少ない動きから始めて徐々に参加時間を延ばしていきます。

バレーボール

身体機能の回復が心理的準備に与える影響を研究

膝の靱帯損傷のような大きなけがをしたアスリートの中には、手術後、筋力や柔軟性が戻っても、またけがをすることを怖がり、動きをおさえてしまう選手もいます。逆に、まだ力が戻っていないのに自信満々で動いてしまい、症状増悪や再損傷してしまうという例もあります。再損傷を防ぎつつ、高いパフォーマンスを発揮するためには、身体機能の回復と心理的な準備の両方が整った状態で復帰することが重要です。
そこで、私が今取り組んでいるのが、前十字靱帯損傷の再建術を受けたアスリートの心理的な準備に関する研究です。心理的準備が整うには、筋力、柔軟性、動き、痛みの有無など、さまざまな身体的な要因が改善されていることが必要だと考えられます。その要因がどのように影響し合って「心理的準備が良い」状態になっているのか、身体機能の要素をどのように改善すれば心理的準備が向上するのか、といったことを、種目ごとに解明していきたいと考えています(科学研究費基盤研究C「前十字靱帯損傷・再建術後患者におけるスポーツ復帰に向けた心理的準備の因子解明(代表 2021-2023))。

リハビリ①

病院やスポーツチームで理学療法士として活動

順天堂の保健医療学部理学療法学科は、教員が現役の理学療法士として病院やスポーツの現場で患者を診ているため、学生にリアリティのある指導ができるという特長があると思います。私自身、順天堂医院のスポーツリハビリテーション外来で、術後のアスリートのリハビリを担当していますし、VリーグのNECレッドロケッツや日本スケート連盟のスピードスケート部門にも理学療法士として参加しています。
病院でのリハビリと、チームへの帯同では、仕事の内容も異なります。チームへの帯同中は、体や動きに違和感がある選手のチェックとケア、練習後の疲労解消のためのケア、さらに、けがに繋がる動作がないか、練習中の選手を観察することも欠かせません。また、現場には、理学療法士以外にも選手の身体に関わるたくさんの専門職がいます。医師、歯科医師、アスレティックトレーナー、スキルコーチ、栄養士など、さまざまな職種と連携しながら、サポートチームの一員として、理学療法士としての役割を果たしていくことが必要です。
授業では、そうした臨床での経験とデータを活かし、現場でアスリートの治療に携わっているからこそできる、実践的な説明を心掛けています。

けがに悩んだ経験から理学療法士の道へ

理学療法士を志したのは、自分のけががきっかけでした。
小学生で陸上競技を始めて、短距離や走り幅跳びを専門に、高校まで競技を続けていました。その間、足首の靱帯損傷、骨折、腱の脱臼など、いろいろなけがをして、手術も3回経験しています。ただ、最初のうちは、身近に専門的な知識がある指導者がいなかったこともあり、治療から復帰までの数カ月間、自分で工夫してエクササイズ・トレーニングをしなければならなかったので、その時期は苦労しました。
高校2年でけがをした時、高校の近くにあった整形外科のクリニックで、初めて理学療法士の先生に担当していただき、ようやく自己流のリハビリから脱することができました。リハビリのテクニックはもちろん、説明の仕方から声の掛け方まで、患者であるアスリートに寄り添ってくれる先生の姿に大きな影響を受けました。その時に、理学療法士という仕事がとても良い仕事だと感じて、この道に進むことに決めたんです。
とはいえ、スポーツの経験がなければスポーツに関わる理学療法士になれないか、というと、全くそんなことはありません。よく学生に「スポーツ分野に興味があるのですが、運動部だったことがないから無理でしょうか?」と相談を受けるのですが、「僕も陸上しかやってこなかったし、バレーやバスケは経験してないよ」と答えるんです。たとえ何かのスポーツを経験していても、それ以外の種目のアスリートを診ることの方が圧倒的に多いわけですから、経験の有無を考えすぎる必要はない。学生には、常々そう伝えています。
学生を教える際には、彼らの話を否定せず、しっかり聞くことを大切にしています。授業でも必ず質疑応答の時間を長めに取り、そこで学生の話を聞くようにしています。その時間が授業での学びをアウトプットする機会になり、学生の学びをより定着させることに繋がると考えています。学生のみなさんには、実践的な学びが得られる順天堂の環境を活かして、自主性を発揮して学んでいってほしいと思っています。

相澤先生③

スポーツ経験の有無を考えすぎる必要はない、と学生に伝えている。
プロフィール

相澤 純也  AIZAWA Junya
順天堂大学 保健医療学部
理学療法学科 先任准教授

1999年、東京都立医療技術短期大学理学療法学科卒業。2012年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系専攻加齢制御医学講座リハビリテーション医学博士課程修了。博士(医学)。大学卒業後、東京医科歯科大学医学部附属病院に理学療法士として入職。了德寺大学健康科学部理学療法学科専任講師、東京医科歯科大学医学部附属病院スポーツ医学診療センター理学療法技師長などを経て、2020年4月から現職。日本スポーツ理学療法学会理事長、日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)、日本スケート連盟スピードスケート強化スタッフ。