整形外科・スポーツ診療科
低侵襲医療の取り組み
当科は、内視鏡(関節鏡)手術に関しては1982年にスポーツ選手の膝のけがである前十字靭帯損傷の再建手術を、5代主任教授であった黒澤尚が世界に先駆けて関節鏡手術として実用化したという特筆すべき歴史を持っています。現在、膝関節をはじめ肩関節、肘関節、足関節のいろいろなけがや疾患にも応用し、この分野では我が国のトップを走っていると自負しています。
低侵襲手術の具体例
近年、内視鏡下技術の発展に伴い安全かつ短期入院で患者さんの負担の少ない手術が提供できるようになりました。内視鏡を用いない手術に比べて、(1)正常な組織を傷つけにくい(2)術後の痛みが少ない(3)滅菌された潅流液を流しながら手術を行うため術後感染が少ない(4)手術の傷が小さい(5)術後リハビリテーションの負担が少ない(6)早期スポーツ復帰が可能である、などの利点があります。
整形外科・スポーツ診療科では膝関節前十字靭帯損傷や膝半月板損傷、反復性肩関節脱臼や肩腱板断裂などの手術に積極的に用いています。
これまで、日本代表クラスを含めたプロ選手から高校生、ママさんバレークラスのアマチュアの方など、多くの方々に再びスポーツを行うことができる喜びを提供し続けています。
膝前十字靭帯損傷の手術
スポーツでけがをした膝前十字靱帯を治療するためには、自分の組織を用いて再建するのがベストな方法とされています。当院ではこの治療は1978年から開始し、1982年には世界で初めて大きく切らずにできる関節鏡手術として行うことに成功し、世界でもこの分野ではもっとも経験を積んだ病院の一つとなっております。
当院で主に行っている膝屈筋腱(ハムストリングス)を用いた関節鏡視下膝前十字靱帯再建術は、大きな合併症がなく術後の成績も安定しているため、有効な治療方法として確立されています。手術は膝関節を構成する大腿骨と脛骨の至適部位に関節鏡を用いてトンネルを作製し、そこに採取加工した腱を貫いて上端と下端を金具で固定することで膝の安定性を得ることを目的としています。
前十字靭帯損傷といっても靭帯のすべてが消失してしまうわけではなく、手術時には損傷した靭帯(遺残靭帯)が残っていることがあります。私たちはこの遺残靭帯を温存して再建手術を行う方法に取り組み、その成果を報告してきました。遺残組織内にある血管や神経をできる限り残すことで、移植した再建靭帯への早期栄養供給にメリットがあると考えています。
手術翌日から手術した脚を軽く地面に着き、歩行訓練を開始します。早期に足の裏を池面に接することは、関節機能や筋力、姿勢保持、バランス維持などに大きなメリットがあると考えています。手術手技の進歩により現在では術後装具を使用せずに安定した膝関節機能を獲得できるようになりました。入院日数は術後7日間以下(最短3日、平均5日ほど)です。
反復性肩関節脱臼の手術
関節鏡視下バンカート病変修復術を行っています。肩関節脱臼がくせになる原因は、上腕骨頭(腕の付け根)の骨が削れてしまうことと、関節前方の関節唇(軟骨様の関節の堤防)がはがれてしまうことです。痛んだ関節包(関節の袋)や関節唇を関節鏡で確認し、アンカーと呼ばれる糸付きの小さなビスを関節窩(関節の端)に挿入し、その糸を用いて関節包と関節唇を縫いつける方法を行っています。術後2週間は安静目的に三角巾での簡単な上肢固定を行います。個人差はありますが、約1ヶ月でデスクワークなどの軽作業ができるようになり、日常生活での不自由さがなくなります。その後3ヶ月で軽負荷のスポーツや作業、6ヶ月でスポーツや重労働への完全復帰を目指します。入院期間はおよそ4日間です。術後リハビリテーションは週1回の通院リハビリテーションと自主トレーニングとしてのホームエクササイズで行うことが可能であり、患者さんからも負担が少ないとご好評を頂いております。

関節唇損傷

関節唇修復後
低侵襲手術の診療実績
当院における関節鏡下膝前十字靱帯再建術は20年以上の歴史があり、もっとも手術実績のある大学病院のひとつです。
以下は、当院で行われた鏡視下手術の主な術式と、平成24年から平成28年の5年間の平均手術件数です。
主な術式 | 平均手術件数(平成24年~28年) |
膝前十字靭帯再建術 | 平均 91.2件/年 |
その他の膝関節鏡視下手術 | 平均 31.4件/年 |
肩肘関節鏡手術 | 平均 75.0件/年 |