教員紹介 教員インタビュー 杉本 幸子 先生

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身近な植物に眠る可能性を引き出し、未来の医療に貢献する

創薬科学領域 生薬・天然資源学分野
杉本 幸子 先生

漢方薬の原料となる「甘草」は、お醤油やお味噌の中にも含まれている、私たちの暮らしのすぐそばにある植物です―。杉本先生が専門とするのは、まだ薬として使われていない天然資源から新たな生物活性物質を見つけ出す「天然物化学」と、薬用植物を日本国内で安定して栽培する技術の確立。植物の中に眠る化学と、その植物を育てる農学。一見離れた二つの世界をつなぎ、未来の医療を支える研究に取り組んでいます。

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「捨てられる花」に眠る、未来の薬のヒント

朝鮮人参は、6年かけて育てた根が漢方薬として使われます。では、根を太らせるために毎年摘み取られる花は―。これまで、ほとんどが廃棄されてきました。「学生時代に与えられたテーマが、まさにこの朝鮮人参の花の研究でした。毎年たくさん収穫されているのに、誰も注目していない。それなら何か役立てられないか、というのが研究の出発点でした」
丹念に成分を分析していくと、朝鮮人参の花には、根よりも豊富にサポニン成分が含まれていることが明らかになりました。さらにその中に、胃粘膜保護作用やがん細胞の浸潤を抑える活性も見つかってきています。お茶の花からも、これまで知られていなかった有効成分が次々と発見されています。「天然物化学の研究の面白さは、ここにあると思っています。私たちのすぐそばに、まだ誰も気づいていない化学の世界が広がっている。それを丁寧に見つけ出していく仕事です」
世界中の研究者が長年見過ごしてきた「捨てられるもの」の中に、次世代の医薬品のヒントが眠っている―。基礎研究としての価値はもちろん、資源を有効活用するサステナビリティの視点からも、注目を集めている研究領域です。

醤油にも入っている「甘草」を、日本で安定して育てるために

もう一つ、杉本先生が取り組んでいるのが、薬用植物の国内栽培技術の確立です。
「漢方処方の約7割に含まれている『甘草』は、お醤油やお味噌の甘味成分としても広く使われている、私たちの食生活にとても身近な生薬です。ところが原料の多くは中国からの輸入に頼っており、近年は資源の枯渇と輸出制限が深刻化しています」
かつて日本でも栽培されていた甘草は、安価な輸入品に押されて生産者が激減し、国内栽培の技術は途絶えかけているのが現状です。薬用植物に使える農薬や農法が制限されていることもあり、栽培技術が確立されていない植物が数多く存在します。
「気候変動や貿易環境の変化を考えると、医薬品の原料となる植物を国内で安定して育てられるかどうかは、医療の安全保障そのものに関わる問題です。薬学部でこの分野に取り組んでいる大学は、全国でも限られています。研究期間が長く、すぐに成果が出にくいからこそ、続けていかなければならない領域だと感じています」
杉本先生の研究室では、農業の現場や異業種の企業とも連携しながら、化学者だけでは取り組めない領域に踏み込んでいます。薬として認められる品質を、再現性をもって作り出すための栽培技術とは何か―その答えを、複数の専門が交わるなかで探っています。

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甘草(かんぞう)

総合大学の強みを、研究の力に変える

順天堂大学は、医学部・医療看護学部・スポーツ健康科学部・データサイエンス学部などを擁する健康総合大学です。杉本先生は、その環境に研究の新たな可能性を見ています。「医学部との連携によって、見つけた成分が将来どんな疾患の治療に活かせるか、臨床の現場と接点を持ちながら研究を進められます。今後の構想として、データサイエンス学部との連携も視野に入れています。薬用植物の栽培で日々モニタリングしている膨大なデータを、データサイエンスの視点から俯瞰してもらえれば、思いがけないつながりが見えてくるかもしれません」
スポーツ健康科学部との連携も、これから挑戦したい領域の一つだといいます。「漢方薬の中には、スポーツ選手にとってアンチ・ドーピングの観点で気をつけるべき成分も含まれています。こうした知識を共有する勉強会など、学部を超えた取り組みを進めていきたい」一つの研究室の壁を越え、多様な専門が交わる中から、新しい発見が生まれる―。
総合大学だからこそできる研究の形を、杉本先生は日々模索しています。

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杉本先生
研究コラム:薬用植物の「品質」を、栽培環境からデザインする

同じ甘草でも、産地や栽培条件によって、有効成分の含有量は大きく変わります。薬として使うためには、ただ育てればよいわけではなく、薬として認められる一定の品質を「再現性をもって」作り出す技術が求められます。「薬用植物は、ただ大きく育てればいいというものではありません。土壌の状態、水分量、日照、気温、共生する微生物―こうした条件の一つひとつが、植物の中で作られる成分の種類や量に影響します。気候や土地に頼った栽培では、毎年安定した品質を出すことが難しい。だからこそ、栽培環境そのものを精密にデザインしていく必要があります」
杉本先生の研究室では、室内での水耕栽培の試みに加えて、土壌に複数のセンサーを設置して地温・水分量・土壌微生物の変化をモニタリングし、成分の生合成と環境条件の関係を一つひとつ解析しています。植物の中で「いつ」「どんなきっかけで」「どれくらいの量の」有効成分が作られるのか―その分子レベルの仕組みを解き明かしながら、最適な栽培条件を設計していくアプローチです。
化学者だけでも、農学者だけでも完結しない。複数の分野が手を組むことで、これまで日本で安定生産が難しかった薬用植物に、新たな道が開けつつあります。

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