研究・分野紹介 医薬品化学
セラノスティクスを推進する次世代創薬化学の開拓
分野概要
セラノスティクスは、診断と治療を一体化して行う先進的な医療戦略です。本分野では、その中心となる「セラノスティクペア(診断薬と治療薬のペア)」を創り出すための次世代創薬化学を開拓しています。具体的には、病変部位を特異的に認識し、可視化(診断)や薬効発現(治療)を導く独自分子の開発を進めています。こうして生み出したセラノスティクスペアを基盤に、診断から治療へと一貫したセラノスティクスの実現を目指しています。

教員紹介
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研究テーマ:

研究テーマ:
研究概要
近年、「診断」と「治療」を一体化して行う「セラノスティクス」という医療戦略が世界的に注目されています。その核心となるのが、私たちが開発する「セラノスティクスペア」です。セラノスティクスペアは、疾患細胞を見分ける「認識分子」に、体内の分子の位置を可視化する「検出分子」を結合させた診断薬と、薬効を示す「薬効分子」を結合させた治療薬のペアです。これにより、検出した疾患細胞を治療に繋げることで、患者さんの身体的負担を最小限に抑えながら、治療効果を最大化することを目指します。
私たちの分野では、このようなペアを自在にデザインし、創製するための研究を行っています。特に、認識分子として、小さなタンパク質様分子である環状中分子ペプチドや、機能部位を繋ぎ合わせる接続分子として、放射性ハロゲンを生体内で安定に結合することができるネオペンチル標識基の開発を進めています。ネオペンチル標識基を活用したアスタチン標識薬剤は、現在臨床研究の段階まで進んでいます。

私たちの研究が目指すものは、「医療現場の課題」を「分子の力」で解決することです。そのために、順天堂大学の医学部、医療科学部をはじめ、国内外の臨床および基礎研究者とチームを組んだ研究を進めています。この「臨床と創薬」の両方を行き来する経験は、病院・薬局で活躍する臨床薬剤師を目指す人にとっても、研究職を目指す人にとっても、将来の大きな強みになります。
最後に、研究において何より大切なのは、「未来の薬づくりに挑戦してみたい」という前向きな気持ちです。有機化学などの研究を進めるために必要な知識や実験スキルは、研究に取り組む中で自然と、そして確実に身についていきます。教科書では見えなかった内容も、実際に手を動かして分子を合成し、その性質を自分の目で確かめることで、まったく違う次元の深い理解へとつながります。「思い描いた分子を形にした瞬間の喜び」や「失敗から原因を読み解く過程の面白さ」は、研究をすることでしか味わうことのできない貴重な経験です。私たちは、皆さんがその挑戦を通して成長していく過程を、全力で支えていきます。
| 研究テーマ |
|---|
| 1. ネオペンチル標識法を基盤としたセラノスティクスペアの開発研究 |
| 2. 環状中分子ペプチドを基盤としたセラノスティクペアの開発研究 |
1. ネオペンチル標識法を基盤としたセラノスティクスペアの開発研究
短寿命放射性核種で標識された薬剤は、これまで、診断や治療に幅広く利用されてきました。疾患特異的に集積する分子(キャリア分子)を、体外から検出可能な放射線放出核種で標識した薬剤は、病気の診断を可能にします。一方、キャリア分子を細胞殺傷効果のある放射線放出核種で標識した薬剤は、治療薬として機能します。近年、キャリア分子を、診断および治療に利用できる放射性核種で巧みに標識した薬剤を利用することにより、診断と治療を統合して行う治療法(ラジオセラノスティクス)が注目されています。
アスタチン-211(211At)は、強力な細胞殺傷能を有するアルファ線放出核種であり、治療核種として注目されています。しかしながら、生体内で非常に不安定でキャリア分子から外れてしまうことが大きな問題でした。我々は、世界に先駆けてアスタチン-211(211At)を生体内で安定に保持することできるネオペンチル(NpG)標識法を開発しました。そこで、我々の分野では、共同研究者とともに、NpG標識法を基盤とした診断と治療のペア(セラノスティクスペア)の開発を進めています。すなわち、キャリア分子を、18Fおよび、211Atでそれぞれ標識することでセラノスティクスペアを創出するものです。我々の分野では、主に、効率的かつ簡便に生体分子を放射性核種で標識する手法の開発を行っています。これまでに、標識に適した新しいNpG前駆体や、標識プロセスを効率化する自動合成装置(ME03)の開発に成功しています。さらに、我々の手法を利用した核種薬剤の開発も進められています。特に、211At-NpG標識PSMA結合分子は、福島県立医大にて、前立腺がん治療薬として臨床研究が進められています。現在、我々は、本技術をより汎用的な技術として確立するために抗体などの生体高分子を水中で効率的に標識する手法の開発を進めています。

ネオペンチル(NpG)標識法を基盤としたセラノスティクスペアの開発

我々が共同研究者とともに開発した211At/18F-NpG標識化合物
2. 環状中分子ペプチドを基盤としたセラノスティクペアの開発研究
医薬品は、疾患細胞に特有のタンパク質を認識することで薬理効果を示します。これまでの認識分子は分子量500以下の低分子化合物が主流でしたが、我々は分子量1000程度の環状中分子ペプチドに注目しています。環状中分子ペプチドは、環状構造を取ることである程度決まった立体的な“かたち”をとります。低分子化合物よりも表面積が大きいため、この“かたち”が標的タンパク質のポケットにはまり込みやすい場合、多くの非共有結合を介して、より特異的に結合することができます。特に、細菌などから単離された環状中分子ペプチドは、我々の想像を超える奇抜な構造を有しており、多く含まれる非天然型アミノ酸に由来して多様な生物活性を示すことから次世代の創薬シーズとして期待されています。

これまでに合成した天然由来の環状中分子ペプチドの例(赤: 非天然型のユニット)
本研究では化学合成を根幹に据え、高機能性をもった環状中分子ペプチドを創生し、セラノスティクスへの展開を目指します。
- 疾患に関係するタンパク質と特異的に結合する環状中分子ペプチドに着目し、独自の化学合成法を開発します。また、合成品を機器分析することで環状中分子ペプチドの立体的な“かたち”を明らかにします。
- 環状中分子ペプチドの立体的な“かたち”を参考にしながら、①で確立した合成経路を用いて、部分的に構造変換した類縁化合物のライブラリーを合成します。部分構造が標的タンパク質への結合能に与える影響を明らかにします。
- ②の構造-活性相関の結果を元に、接続分子を導入する位置を決定し、セラノスティクスにつながる高機能性環状中分子ペプチドへとブラッシュアップします。

環状中分子ペプチド由来のセラノスティクスの分子設計
2-1. ペプチド性シデロフォアを基盤としたセラノスティクペアの開発研究
鉄は生物が生存するための必須元素ですが、水に溶けにくく吸収しにくい三価の鉄イオンとして存在します。そこで、微生物はシデロフォアと呼ばれる鉄キレート化合物を分泌し、専用の輸送体(トランスポーター)を介して鉄を体内に取り込みます。すなわち、鉄-シデロフォア複合体を模倣した化合物は、本来のシデロフォアに成りすまして菌体内に潜入する「トロイの木馬」型の抗生物質として期待されています。本テーマでは、認識分子として大環状構造をもつペプチド性シデロフォアに注目し、その化学合成を通じた創薬研究を行います。多価イオンを捕捉する立体的な“かたち”を解析しながら構造をブラッシュアップし、新規ドラッグデリバリーシステムへの展開を目指します。

ペプチド性シデロフォア(赤: 金属キレートに関与するアミノ酸残基)
2-2. 天然物のダウンサイジングによる新規機能性分子の創製研究
自然界から単離された環状中分子ペプチドは、複雑な構造に由来する特有の生物活性を示します。一方で、その複雑な構造は合成難易度が高く、創薬研究への展開を難しくしています。本研究では、環状中分子ペプチドの立体的な“かたち”を保持したまま分子量を小さくし、構造を簡略化することで量的供給や構造-活性相関研究へ展開する「天然物のダウンサイジング」を行います。化合物に機能を付与すると通常は分子量が大きくなりますが、その逆を行うことで、より洗練された構造をもつ新規機能性分子の創製を目指します。

天然物のダウンサイジング(赤: 構造を簡略化する部位)