女性スポーツに特化したアメリカの研究施設、「タッカーセンター(The Tucker Center for Research on Girls & Women in Sport)」では、どんな研究をしているのか、興味ありませんか?
現在、タッカーセンターでは、アメリカの女性スポーツ史40年余りの変遷を社会の縮図と捉え、スポーツや身体活動が女性とその家族、地域、社会にどのような影響を与えているのか、4つの柱に分かれた研究が進められています。それぞれの具体的な研究の内容を紹介していきましょう。
1)女性アスリートのメディア描写について
スポーツとメディア研究の中で最も大きな論議は、「女性アスリートが男性アスリートと同じような待遇(カバー率、報道内容)を受けていない」、というものです。例えば、女性アスリートの活躍が目覚ましく、その参加率も男性と変わりない現在においても、メディアは男性スポーツ(主にアメリカンフットボールと男子バスケットボール)ばかりを記事にし、女性スポーツに関する記事はスポーツ紙およびスポーツニュース全体(オリンピックを除く)のうち、たったの4%という報告があります(タッカーセンター調べ, 2014 )。
また、女性アスリートの描かれ方は、その競技レベル、競技種目、メディア媒体に関わらず「競技場の外、ユニフォームを着ていない、女性らしさを強調したポーズ」で描かれている現状があります(Kane, LaVoi, Fink, 2013)。
このような社会的な背景を踏まえ、女性アスリートが「アスリートである本来の姿」を正当に評価してもらえていないことに対し、「アスリートとして描かれる」必要性を研究して、主張しています。
テキサスA&M大学女子バスケットボール部のポスター
(2009-2010年シーズン)
2)女性とコーチングについて
タイトルナイン(1972年)以降、女性のスポーツ参加率は増え続け、大学における女性アスリートの割合は1972年でわずか4%であったのに対し、2013年には43%と増加しています。一方、女性コーチの割合を見てみると、1972年には90%以上と女性コーチの占める割合は大変大きいものでしたが、2013年には40%となり、年々減少していることがわかります(LaVoi, 2014)。
そこで、女性コーチが抱える様々な問題について、経済、社会、組織の構造をひも解き、さらには、女性コーチの心理的なメカニズム、必要とされるサポート体制を解釈しながら女性とコーチングについての研究がなされています。
大学女子チームにおける女性コーチの割合について(LaVoi, 2014より)
<参考文献>
Cooky, C., & Lavoi, N. M. (2012). Playing but Losing Women’s Sports after Title IX. Contexts, 11(1), 42-46.
Kane, M. J., LaVoi, N. M., & Fink, J. S. (2013). Exploring elite female athletes’ interpretations of sport media images: A window into the construction of social identity and ‘‘selling sex’’in women’s sports. Communication & Sport, 2167479512473585.
Kane, M.J. (2012). Title IX at 40: Examining mysteries, myths & misinformation surrounding the historic federal law.
LaVoi, N. M. (2014, January). The status of women in collegiate coaching: A report card, 2013-14 [Infographic]. Minneapolis: Tucker Center for Research on Girls & Women in Sport.
LaVoi, N.M., & Norris, A.L. (2011). Youth Sport Report: Parent Perception of How Frequently Youth Sport Interferes With Family Time.
LaVoi, N. M., Strong, A., Pearson, L., Skeen, A., Bruening, J., & Lerner, P. (2009). Sports Based Youth Development Benefits for Girls. A factsheet provided the Up2Us Center.
Buysse, J. A., & Wolter, S. (2013). Gender representation in 2010 NCAA Division I media guides: The battle for equity was only temporarily won. Journal of Issues in Intercollegiate Athletics, 6, 1-21.
国立大学法人鹿屋体育大学修士課程修了。
2014年9月より、ミネソタ大学大学院身体運動学科(アメリカ・ミネソタ)にて、女性スポーツ及びヘルスプロモーションを専攻。