「女性アスリート外来」のコンセプトは、「女性アスリートが健康で長期的に高い競技力を継続できるよう、医学的側面から総合的に支援」すること。対象年齢に制限はなく、ジュニア期から、たとえば趣味でランニングをしている高齢のジョガーまで、幅広い層の女性アスリートを受け入れています。
鯉川 なつえ
順天堂大学スポーツ健康科学部先任准教授
同大陸上競技部女子監督。
主な研究テーマは、スポーツにおける疲労の血液生化学的研究および女性トレーニングに関する研究。
女性アスリートが陥りやすい3つの障害
女性アスリート外来は、無月経や月経前緊張症(PMS)、疲労骨折や骨・関節の痛み、または摂取エネルギー不足など、女性特有の、または女性に多い症状に悩むアスリート対象の外来です。
トレーニングの量や質が高まったにも関わらず、バランスの良い食事を摂らなかったり、月経がきたりこなかったり、または完全に止まっていたり、疲労骨折や靭帯の損傷、怪我の治りが悪い、などの症状をそのままにしていると、『利用できるエネルギーの不足』『視床下部性無月経』『骨粗鬆症』へとつながってしまいます。
このような、女性アスリートが陥りやすい3つの障害を『
Female Athlete Triad(フィーメール・アスリート・トライアド:女性アスリートの三主徴)』と規定しています。同時に、これらの症状をそのままにしてはいけない、と警鐘を鳴らしています。

外来開設ははじめの一歩。情報共有で診療環境整備
2014年の秋から診療を開始した女性アスリート外来は、すでに多くのアスリートが受診しており、「こういう外来を待っていた」「やっと治療を受けられた」という喜びの声が続々と届いています。外来では、必要に応じて、総合診療科、糖尿病・内分泌内科、メンタルクリニック、リハビリテーション科とも連携を取ることとなっており、女性アスリートにとっては安心して治療を受けられる環境が整っています。これまで、無月経くらいで病院に行っていいのか、自分がアスリートであることを理解した上で治療してくれるのか、という悩みや不安を抱えていた女性アスリートにとって、理想的な診療体制と言えるでしょう。
また、妊娠出産後に復帰したいと考えるアスリートもサポート可能です。
「女性アスリート外来によって、女性アスリートの選手寿命が長くなり、ジュニアからシニアまで健康な身体でスポーツを継続する人が増えてほしい」と鯉川准教授は願っています。
ただし、女性アスリート外来開設は、はじまりに過ぎません。女性スポーツ研究センターには思い描く将来像があるのです。
「患者さんの理解、協力を得て、女性アスリートの基礎データ、処置方法や経過等を論文にまとめ、どんどんオープンにしていきます。それが指導者や女性アスリートの教育につながるのはもちろん、全国各地の医師の方と情報を共有し、アスリートが地元にいても適切な診察を受けられる環境が整っていけばいいな、と思っているからです」
日本で初めての「女性アスリート専門」の外来は、単なる診療科という枠にとどまらず、女性アスリートの環境改善と意識向上の役割をも担っているのです。