順天堂大学医学部生理学第二講座

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発表論文の解説

液―液相分離したp62 bodyのULK1によるリン酸化は、酸化還元非依存的なストレス応答を活性化する

Phosphorylation of phase-separated p62 bodies by ULK1 activates a redox-independent stress response
Ryo Ikeda, Daisuke Noshiro, Hideaki Morishita, Shuhei Takada, Shun Kageyama, Yuko Fujioka, Tomoko Funakoshi, Satoko Komatsu-Hirota, Ritsuko Arai, Elena Ryzhii, Manabu Abe, Tomoaki Koga, Hozumi Motohashi, Mitsuyoshi Nakao, Kenji Sakimura, Arata Horii, Satoshi Waguri, Yoshinobu Ichimura*, Nobuo N Noda*, Masaaki Komatsu*. (*co-corresponding authors)

EMBO J. 2023 Jun 12;e113349. doi: 10.15252/embj.2022113349. Online ahead of print.

 


液―液相分離とは、均一に混ざり合った溶液が互いに溶け合わない二相に分離する現象のことであり、細胞内ではタンパク質や核酸同士の弱い多価相互作用によって起こることが知られています。液―液相分離によって周囲の細胞質から区画化された構造体は液滴と呼ばれ、近年、様々な液滴が同定され、それらは遺伝子発現、タンパク質翻訳、ストレス応答、タンパク質分解など多様な生命現象を制御することが明らかになっています。p62 bodyは、p62タンパク質とユビキチン化タンパク質とが多価相互作用することで液−液相分離した液滴であり、選択的オートファジーにより分解されることが知られていました。一方、p62 bodyが持つ生理機能に関しての詳細は不明なままでした。
細胞の酸化ストレス応答は、KEAP1-NRF2経路により一元的に制御されており、これまで細胞はKEAP1が酸化修飾されることで酸化ストレスを感知し、転写因子NRF2を活性化、一連の抗酸化タンパク質の遺伝子発現を誘導することが知られていました。今回、私たちは、p62 bodyがKEAP1の酸化修飾がなくともNRF2を活性化する新しい仕組みを明らかにしました。
まず、高速原子間力顕微鏡によりULK1キナーゼとp62とが天然変性領域を介して直接相互作用することを観察するとともに(図1)、試験管内リン酸化反応によりULK1が p62の349番目のセリン(S349)をリン酸化することを明らかにしました。
図1


次に、試験管内液―液相分離実験により形成されたp62 condensateにULK1が局在化できること、GFP-ULK1発現細胞の光電子相関顕微鏡法観察によりGFP-ULK1が細胞内のp62 bodyに含まれることを確認しました。細胞をULK1特異的阻害剤により処理すると、p62 body内のS349リン酸化フォームの蛍光強度の低下とともに、p62 body内のKEAP1の蛍光強度の低下も確認されました。さらに、ULK1の特異的阻害剤によりNRF2の標的遺伝子の発現低下も認められました。S349リン酸化模倣、あるいはS349リン酸化不能p62 から構成されるp62 bodyにおけるKEAP1の動態を光退色後蛍光回復および光退色後蛍光損失法で解析した結果、p62 bodyがリン酸化されることで細胞質とp62 bodyとの間で平衡にあるKEAP1をp62 bodyに偏らせ、KEAP1がp62 body内に保持されることが分かりました。つまり、p62液滴の機能として、S349リン酸化依存的にKEAP1をp62 bodyに隔離することでNRF2を活性化する(レドックス非依存性ストレス応答と命名)ことが初めて明らかになりました(図2)。
図2


最後に、新たなストレス応答経路の個体における意義を明らかにするため、強制的にレドックス非依存性ストレス応答を活性化するp62S351E/+(ヒトのS349はマウスのS351に対応)ヘテロノックインマウスを作製しました。この変異マウスは、N rf2の恒常的な異常活性化により扁平上皮の過角化を伴った食道や前胃の閉塞を引き起こしました。その結果、極度の栄養失調や脱水による成長遅延を示しました(図3)。この表現型は全身性Keap1欠損マウス(全身性Nrf2活性化マウス)のフェノコピーであり、レドックス非依存性ストレス応答の生理的重要性を示すものです。
図3

今回の成果は細胞のストレス応答機構や液―液相分離の生理的役割について新たな知見を与えるものです。また、p62 bodyは肝疾患、神経変性疾患の病変細胞や肝細胞がんにおいて過剰に蓄積することが知られており、これら病態においてレドックス非依存性ストレス応答が調整不全となっていることが強く疑われ、それら重篤な疾患の病態発症機序の解明が期待されます。

 

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