順天堂大学医学部生理学第二講座

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発表論文の解説

非膜型細胞小器官p62顆粒の機能を解明

p62/SQSTM1-droplet serves as a platform for autophagosome formation and anti-oxidative stress response
Shun Kageyama, Sigurdur Runar Gudmundsson, Yu-Shin Sou, Yoshinobu Ichimura, Naoki Tamura, Saiko Kazuno, Takashi Ueno, Yoshiki Miura, Daisuke Noshiro, Manabu Abe, Tsunehiro Mizushima, Nobuaki Miura, Shujiro Okuda, Hozumi Motohashi, Jin-A Lee, Kenji Sakimura, Tomoyuki Ohe, Nobuo N. Noda, Satoshi Waguri, Eeva-Liisa Eskelinen & Masaaki Komatsu

Nat. Commun. 12:16

 

本研究成果のポイント
・p62顆粒はオートファゴソーム形成の足場として機能し、オートファゴソーム局在たんぱく質との結合により選択的オートファジーで分解される。
・p62顆粒は酸化ストレス応答を制御する機能的液滴であり、p62顆粒の分解阻害は抗酸化ストレス応答を異常亢進させることを明らかにした。
・p62顆粒によるオートファジーの新たな生理機能を示したことにより、オートファジーや液滴の異常が関与する様々な疾患の発症メカニズムの解明につながる可能性がある。

背景
肝臓がんや神経変性疾患病変部の細胞で確認されるp62顆粒は不可逆的な機能が失われた凝集体あるいは封入体と考えらてきました。しかし、最近、p62顆粒は、その内部に流動性と生化学反応が維持されている可逆的な構造体、すなわち非膜型細胞小器官(液滴)の一種であることがわかってきました。一般に、液滴形成は環境の変化といった細胞外の影響によるストレス応答反応と考えられますが、p62顆粒の生理作用は不明でした。さらに、p62顆粒はオートファジーにより選択的に分解されることが示されてきましたが、その選択性を担う分子機構も未解明でした。そこで本研究ではp62顆粒の機能を明らかにする目的で行いました。

内容
今回、研究グループは、選択的オートファジーを阻害する人工プローブなどによりp62顆粒の形成を誘導し、p62顆粒上の様々なタンパク質や膜動態を電子顕微鏡などで観察しました。その結果、p62顆粒には多数のオートファジー関連たんぱく質が集積、p62顆粒上で多数のオートファゴソームが形成されること(図1)、p62とオートファゴソーム局在たんぱく質ATG8ファミリーたんぱく質との結合によりp62顆粒がオートファゴソームに取り囲まれ、選択的オートファジーにより分解されることを明らかにしました。

図1


さらに、p62顆粒は抗酸化ストレスのマスター転写因子Nrf2を分解に導くKeap1を隔離することでNrf2を活性化する機能的液滴であること、p62顆粒の選択的オートファジーはNrf2の活性化を抑制することを見出しました(図2)。
図2

事実、p62とATG8ファミリーたんぱく質との結合を阻害する人工プローブを利用し、p62液滴分解を阻害したところ、抗酸化ストレスが異常亢進されることをマウス個体で明らかにしました。これらの結果は、新たな選択的オートファジーの分子機構、生理作用を示しただけでなく、肝臓がんや神経変性疾患におけるp62構造体の病態生理的意義を再考させるものです。

今後の展開
オートファジーの研究分野は今なお成長を続けており、これは大隅良典博士がノーベル賞を単独受賞したことからも首肯できます。オートファジー領域の研究はこれまでオートファジーの分子機構あるいは基本的な生理機能の研究により発展してきましたが、依然と未解明の重要課題が残されています。オートファジーによる選択的基質分解に関しては個々の基質に関してメカニズムの一端が国内外の研究者により提供されているものの全容解明には程遠い状況です。
オートファジーは液滴あるいはゲル化したたんぱく質群の選択的分解により、様々な細胞の高次機能を制御し、個体の恒常性維持に貢献すると考えられます。しかし、どのような分子が相分離しオートファジーの選択的基質となるのか、それら選択基質の相分離の制御機構、相分離基質に沿ったオートファゴソーム形成機構、そしてそれらの分解の生理的意義はほとんど手つかずの状態であり、これらを解明することが求められています。今回の結果はオートファジーによる選択的な液滴分解の生理機能をマウス個体で示した初めての成果であり、オートファジーや液滴の異常が関与する様々な疾患の発症メカニズムの解明につながる可能性があります。

 

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