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脳血管内治療について


 

脳血管内治療は、「足や手の血管の中を通じて」、脳や脊髄の病気を治す治療法です。「カテーテル」と呼ばれる細い管を、「ガイドワイヤー」と呼ばれる細くて軟らかい針金を頼りに頚部や脳の中の血管まで進め、患部を治療します。脳血管内治療は、頭を切開する「開頭術」を行う必要が無いので、頭や顔に目立った傷が残ることはありません。また、頭髪を剃ったりする必要がありません。開頭術と比べて身体に対する負担も非常に少ないので、治療後も早期に元の生活に戻れ社会復帰が可能です。比較的新しい治療法ですが、既に多くの医学的エビデンスが構築されており、現在では脳血管疾患、特に脳卒中の標準的かつ第一選択の治療法になっています。

脳血管内治療では、カテーテルを通じて次のような処置を行うことができます。

  • @ 病変部を詰める (脳動脈瘤コイル塞栓術、脳や脊髄の硬膜動静脈瘻・動静脈奇形の塞栓術、脳腫瘍の塞栓術など)
  • A 血管を広げる (頚動脈ステント留置術、脳血管形成術など)
  • B 血管の詰まりをとる (超急性期脳梗塞に対する血栓回収術など)
  • C 病変部に薬剤を注入する(クモ膜下出血後の脳血管攣縮など)
 

脳動脈瘤に対するコイリング術

 

脳動脈瘤は、脳にある動脈壁の一部が嚢状(のうじょう)に拡張した“こぶ”です。脳動脈瘤には、何らかの理由で頭の放射線検査を行った際に偶然に発見されたり(未破裂脳動脈瘤)、大きくなって脳神経を圧迫して特有の症状(視力低下や眼瞼下垂など)により発見されるものなどがありますが、最も代表的なのは、脳動脈瘤が破裂して「クモ膜下出血」という脳の中の出血を引き起こし、激しい頭痛、嘔吐や意識障害などの症状で救急車で搬送されたりするものです。クモ膜下出血は非常に恐い病気で、発症した患者さんの約4割は生命に危険が迫り、約3割は寝たきりを含めて後遺症が残り、約3割の方しか元通りの社会復帰を果たせません。破裂した瘤からの出血は一時的には止まることが多いのですが、2度目の出血である「再出血」を起こすと生命を取り留めることは非常に難しくなりますので、急いで手術を行う必要があります。
未破裂脳動脈瘤は決して稀な病気では無く、中高年の方の脳血管を調べると100人中数名程度は発見されるものです。多くの場合は半年から年一回の放射線検査による経過観察で良いのですが、大きさが4〜5ミリ以上のもの、もっと小さくても、形が不整形なもの、ブレブと呼ばれる「おでき」があるもの、破裂しやすい場所(前交通動脈瘤や内頚動脈後交通動脈瘤など)のものなどは手術治療を検討する必要があります。
脳動脈瘤の破裂や再出血を防ぐために、以前は開頭して脳の隙間を分け入り母血管から動脈瘤への入口(ネックと呼ばれます)をクリップで閉塞する「クリッピング術」が主に行われてきました(図1)。 しかし、20年ほど前からは、開頭せずに血管の中から脳動脈瘤の中にプラチナ製コイル(細い金属の糸くずのようなもの)(図2)を詰めこんで出血を予防する「コイリング術」が世界的に普及し始めました(図3)。現在、国内ではコイリング術とクリッピング術がほぼ同じ件数行われるようになっています。
脳動脈瘤に対する血管内治療は、痛みがほとんど無いので、疼痛のコントロールと言う意味では全身麻酔を必要としません。しかし、患者さんの精神的な負担を減じて体動による危険を防止するため、原則は全身麻酔で行います。多くの場合、足の付け根にある大腿動脈から2mm前後のやや硬めのカテーテルであるガイディングカテーテルを進め、更にその中に直径1mm前後の軟らかいマイクロカテーテルをレントゲン透視で確認しながら慎重に動脈瘤内へ誘導します。その後、脳動脈瘤の中に血液が入らなくなるまでコイルを挿入します。コイリング術を行う上ではネックの広さ、特に脳動脈瘤の大きさに対するネックの広さ(ドーム対ネック比)が大切になります。ネックが広い場合(ワイドネック型)、カテーテルの先端部に軟らかい風船がついたバルーンカテーテルやステント(網目状の金属円筒)を用いて、コイルがネックから母血管の中に出てこないようにしてコイルを詰め込む必要があります。

  • 図1

  • 図2

  • 図3

 

脳動脈瘤に対するフローダイバーター治療

 

コイリング術の欠点として、治療して数ヶ月〜数年すると治療した脳動脈瘤の中に再び血液が入るようになる(再発)の頻度がやや高いことが指摘されていました。その理由は様々ですが、コイリング術では母血管から動脈瘤への入口(ネック)を完全に塞ぐことができないためと考えられています。しかし、この欠点も、フローダイバーターと言う新しい治療機器が開発されて解決されつつあります。フローダイバーターは細かいメッシュ状のステントで、極めて画期的な治療機器でひとたび脳動脈瘤が完全閉塞されると再発する心配がほとんどありません。フローダイバーターをネックを覆うように母血管に留置すると、動脈瘤内の血液の流れが変わり、血液が“よどむ”状態になります。すると、血液がゆっくりと血栓化をして治療から6ヶ月〜2年程度で完全に閉塞します(図4 A/B/C)。脳動脈瘤は、何らかに理由により動脈壁が傷ついたり弱くなることによって発生しますが、フローダイバーターを母血管に留置することで動脈壁を補強したり修復することができますので、脳動脈瘤が再発することが極めて少ないとされています。

  • 図4 A

  • 図4 B

  • 図4 c

 

頚部内頚動脈狭窄症に対するステント治療

 

心臓から分岐した総頚動脈は顎の近くで枝分かれしますが、その中でも脳に向かう内頚動脈はとても重要な血管です。この内頚動脈の起始部分は、動脈硬化による脂や血栓の塊(プラーク)が形成されやすい部位で、プラークが多くなると内頚動脈が狭くなり「頚動脈狭窄症」と言う状態になります。このような状態では、脳に十分な血液が届かなくなったりプラーク自体が壊れた時にその一部が血流に乗って飛散して脳梗塞になります。この頚動脈狭窄症に対して、全身麻酔下に頚部を切開して直接的にプラークを除去する血栓内膜剥離術が行われてきましたが、最近では「ステント」と呼ばれる網目の金属円筒を留置することで狭くなっている部分を広げるステント治療が非常に多く行われるようになっています。多くの場合、足の付け根にある大腿動脈からやや太め(2〜3 mm)のガイディングカテーテルを進め、レントゲン透視で確認しながら狭くなっている部分をバルーン(風船)カテーテルで広げつつステントを留置して、脳への血流を改善させます(図5A/B)。 頚動脈狭窄症の患者さんは、心臓の血管や糖尿病・脂質異常症などの基礎疾患を有している方が多いので、ステント治療は体に負担が少なく全身麻酔にリスクがある患者さんでは局所麻酔で治療できることも大きなメリットです。

  • 図5 A

  • 図5 B

 

超急性期脳梗塞に対する脳血栓回収術

 

脳は、体重の2%程度しか重さしかありませんが、心臓から送り出される血液の約 20% も必要とする特殊な臓器なのです。このため、少しの時間でも脳に血液が行かなくなると神経細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなるので最終的には脳梗塞になってしまいます。最近は、高齢の方に多い不整脈などが原因で心臓内に血のかたまり(血栓)ができて、突然それが飛び散って脳の血管が詰まってしまう心原性脳塞栓症が増えています。完全な梗塞に陥ってしまった神経細胞の機能は元通りには回復しませんので、麻痺や言葉の障害、意識障害など様々な脳虚血症状を出して後遺となり、時には生命に危険を及ぼします。しかし、脳に血液が行かなくなっても、瞬時に脳梗塞になるのではなく、一定の時間は神経細胞の機能が低下なるいは停止状態になっています。この間に、血液を再び流すことができれば脳梗塞になることを防いだり、その範囲を小さくすることが出来ます。この考え方から、脳梗塞の発症から4.5時間以内の場合は血の塊を溶かす薬を静脈から点滴することによって、脳の血液の流れを再開させる治療(t-PA 静注療法)が行われています。しかし、発症から4.5時間を越えていたり、様々な理由により血栓を溶かす薬を使用できない方は t-PA 静注療法を受けることができません。また、大きめの血栓が血管を詰めてしまった時には溶かす薬の効果は高くないとされています。そこで最近は、詰まっている脳の血管までカテーテルを挿入し、機械的に血栓を取り除くことによって血液の流れを再開させる「血栓回収療法」が数多く行われるようになっています(図6A/B/C/D)。この治療法により、脳主幹動脈急性閉塞症の治療は急速に進歩しました。この治療は、発症から再開通するまでの時間が短いほど、患者さんの後遺症が軽減することがデータで示されています。

  • 図6 A

  • 図6 B

  • 図6 C

  • 図6 D

 

脳動静脈奇形に対する血管内治療

 

出生の前、お母さんのお腹の中にいる最中に、脳の中で動脈と静脈が毛細血管を介さずナイダスと呼ばれる異常な血管の塊でつながってしまった病気を「脳動静脈奇形」と言います。高い圧力の動脈血が、直接的に本来低い圧力である静脈に注ぐ状態となり、このため静脈系には過大な圧がかかりますので、脳内出血やくも膜下出血などの頭蓋内出血を引き起こします。この他にけいれん発作も起こすことがあります。本来、周囲の脳を栄養すべき血液が脳動静脈奇形に吸い取られてしまうために、麻痺やしびれなどの脳虚血発作、認知機能の低下などを生じる場合もあります。脳動静脈奇形の治療は、開頭による摘出術、定位的放射線治療であるガンマナイフ、そして血管内治療を単独の方法で、あるいは組み合わせた方法で治療を行います。血管内治療では、主にマイクロカテーテルから液体の塞栓材料を流し込む方法を行います(図7A/B)。

  • 図7 A

  • 図7 B

 

脳硬膜動静脈瘻に対する血管内治療

 

脳は3枚の膜(軟膜、クモ膜、硬膜)によって覆われています。この中で硬膜はもっとも厚く硬い膜で、頭蓋骨を裏打ちしています。この硬膜も体の一部なので動脈-毛細血管-静脈と言う血液の流れによって栄養を受けています。しかし、何からの理由で、硬膜で動脈と静脈が毛細血管を介さずにつながってしまった病気を「硬膜動静脈瘻)」と言います(図8)。動脈の圧力(心臓から送り出される圧力)が、本来は圧力が低いはずの静脈(心臓に帰ろうとする圧力)に向かって流れてしまうために、脳が腫れ上がったり、脳梗塞や脳出血を起こしたりします。日本人では、中高年の女性で海綿静脈洞部と呼ばれる目の奥にあたる場所に多く発生し、物が二重に見えるようになったり、治りにくい目の充血などの症状が出ます。耳の後ろにある横・S状静脈洞部に発生すると、心拍に合わせて聞こえる激しい川の水が流れる音のような耳鳴りがして、うるさくて夜も眠れなくなりノイローゼ気味になります。脳硬膜動静脈瘻に対する治療は脳血管内治療が行われ瘻を閉塞します。動脈の方から治療する方法(経動脈的塞栓術)と静脈の方から治療する方法(経静脈的塞栓術)の2通りがあります。

  • 図8

 

腫瘍栄養血管塞栓術

 

髄膜腫など血管に富んでいる腫瘍性病変の摘出術は大量の出血が起こったり、出血によって腫瘍を取り切ること出来ず残してしまったりします。そこで、摘出術を行う前に腫瘍を栄養する血管を塞栓することで、手術中の出血を減らして手術の操作性と安全性を高めることができます。この場合、腫瘍に栄養を届けている血管にカテーテルを挿入して、粒子状塞栓物質や液体塞栓物質を用いて塞栓します。

 
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