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世界のトップアスリートを支えた陸上部員たち―世界陸上オーストラリア・ニュージーランド代表合宿をサポート―
 
 
      世界最高峰の選手たちが東京・国立競技場で9日間にわたって熱戦を繰り広げた東京2025世界陸上(9月13~21日)。順天堂大学スポーツ健康科学部は8月31日から9月18日にかけて、世界陸上に出場するオーストラリア及びニュージーランド代表チームの事前キャンプをさくらキャンパスで受け入れました。代表選手やスタッフを支えた中心的な存在が、本学陸上競技部の学生たちです。今回の受け入れをコーディネートした杉林孝法先任准教授(陸上競技部専任コーチ)と学生リーダーの松下怜さん(3年)に、受け入れの経緯や成果、代表選手たちとの交流について、お話を聞きました。
充実した施設と環境に高評価
オーストラリア・ニュージーランド代表チームの選手とスタッフを合わせて総勢160名が競技日程に合わせて入れ替わりで来日し、さくらキャンパスで調整を行いました。世界陸上本番では、オーストラリアが金1、銅3の計4個、ニュージーランドが金2、銅1の計3個のメダルを獲得しました。本学で調整した選手の中には、男子走高跳で優勝したハーミッシュ・カー選手(ニュージーランド)や、男子棒高跳銅メダルのカーティス・マーシャル選手(オーストラリア)もいました。

さくらキャンパスではこれまでも、北京2015世界陸上でのアメリカ代表の事前合宿をはじめ、さまざまな競技で海外チームを積極的に受け入れ、国際交流に取り組んできました。今回は、1年以上前から両国の代表チーム関係者が3回にわたりさくらキャンパスの視察をおこない、陸上競技のあらゆる種目に対応する充実した施設、100人近い選手がストレスなく練習できる広さと環境、成田空港からのアクセスの良さなどが評価され、本学が事前キャンプ地に選ばれました。
受け入れに当たって、現場で選手・スタッフを直接サポートする役割は、陸上競技部の学生が担うことになりました。部内でサポート役を募ると、多くの学生が手を挙げ、定員の35人はすぐに埋まりました。その中から学生リーダーに選ばれたのが、松下怜さんです。今年の日本インカレ十種競技で優勝を飾り、競技者としてさらに上を目指す松下さんにとって、今回の事前キャンプは世界のトップアスリートを肌で感じる絶好のチャンスでした。
「サポート役の話を聞いてすぐに手を挙げました。世界トップレベルの選手の練習をすぐ近くで見る経験はなかなかできません。十種競技の各種目のトップ選手が来るので、何か吸収できるんじゃないかと楽しみにしていました」(松下さん)

松下選手
「やりすぎない」サポートが肝心
杉林先生が準備段階でサポート役の学生に伝えた、ある心構えがあります。それは意外にも「サポートしすぎないこと」でした。
「学生は、選手と密接に関わってあちこち動き回る“派手”なサポートを想像していたと思いますが、代表選手とスタッフがやりたいようにやれる環境を提供することが大切で、こちらがしたいことをする場ではないということは事前に伝えました」(杉林先生)

杉林先生
三段跳の選手としてオリンピックに2度出場した杉林先生は、現在もコーチとして数多くの国際大会に参加しています。「サポートしすぎないように」という指示には、「サポートを受ける側」としての豊富な経験が生きていました。
「選手団側としては、予定していたことが予定通りに進んで、何か足りない時に誰かがサッと埋めてくれるとありがたい。ですからサポート役は選手のそばにいて、いざという時にパッと動けるようにしておく必要はありますが、派手に動き回ることはない方がいい。学生には『仮に何もしない日があっても、それはそれでいいよ』と言ったんです。やることがないということは、良い準備ができているということですから」(杉林先生)
「もっと動かないと」と焦る気持ちがあった
杉林先生のアドバイスを聞いていたものの、「最初はみんなガツガツ行きがちだった」と松下さんは振り返ります。
「サポートに行き過ぎないように、と言われていたのですが、どうしても『仕事しなきゃ』という意識が強く、選手が砂ならしや片付けをしていると、すぐ僕たちが行って代わっていたんです。ただ、それが逆に選手の集中を欠いてしまう可能性があると気付いて、僕たちに任せてもらえる時以外は、手を出すことはなくなりました」(松下さん)

ミーティングの様子

教員同士も連携
選手やスタッフの様子に常にアンテナを張り、練習道具の準備、シャワーや水飲み場への案内など、困りごとがあればすぐに対応する。そうした学生のある意味“地味”な働きぶりは、代表チームに「とても良いサポートをしてくれた」と喜ばれ、杉林先生は「こちらが想定したサポートはできたんじゃないか」と振り返ります。
また、サポートは人的なものだけではありません。陸上競技場のほか、トレーニングルーム、アスレティックトレーニングルーム(ATR)、プールなど、学内のさまざまな施設を練習に提供しました。特にATRでの交代浴は数多くの選手がコンディションづくりに利用しました。事前キャンプ期間中は、学生の部活動や授業も通常通り行われていたため、代表チームと一般学生でトレーニングルームの利用時間帯を分けたり、プールの1レーンを代表チームに割り当てたり、学内の通常の活動との調整も図られました。
「大学の活動にできるだけ支障がないよう教員同士で調整したのですが、やはり順天堂の先生方ですから代表合宿の経験がある方も多く、こちらの事情を理解して協力していただけました。本当にありがたかったですね」(杉林先生)

ニュージーランドのコーチとコミュニケーションをとる様子

トップ選手を支える様子
世界のトップと同じ空間で練習 得られた気付き
選手が練習に集中できるようサポートに徹していた学生たちですが、何気ない会話で交流する時間もありました。今年の夏、カナダの大学で練習していた松下さんは、その時に鍛えた英語力を活かして選手とコミュニケーションを取っていたと言います。特に印象深い選手は、男子砲丸投で4位入賞を果たしたニュージーランドのトム・ウォルシュ選手です。初めて会った時、松下さんはウォルシュ選手の体格に圧倒されたそうです。
「とにかく『デカいな!』と(笑)。背も高いし体も厚い。全てが大きくて、これが“世界”なんだなと感じました。でもとても明るく、砲丸投げのサポート学生に『一緒に投げようよ』と言ってくださるフレンドリーな選手でした」(松下さん)
代表チームの練習は、午前と午後にそれぞれ3時間のコアタイムが設定され、その時間には、松下さんをはじめ順大陸上競技部の一部の学生も、同じグラウンドで練習する機会が設けられていました。
「僕は跳躍の代表選手と一緒に練習させていただきました。もちろんメニューは違いますが、跳躍や投擲種目などでは同じピットに入るだけで、普段とは全然違う緊張感を持って練習できました。すぐそばで練習を観察していて、競技に役立ついろいろな気付きもありましたし、何より楽しかったです」(松下さん)

トップ選手の集中力の高さは、同じ空間にいたからこそ実感できたこと。普段は気さくなウォルシュ選手も、練習に入ると表情が一変し、納得のいく投てきができないと自分に向けて厳しい言葉を発することも。そうした姿から、学生たちは世界で戦う選手たちのオンオフの切り替え、そして競技に入り込む集中力を肌で感じ取りました。
さらに、代表選手が実施していたドリルやトレーニングの内容については、「日本ではあまり行われていないような動作が多かった」と松下さん。「そういうやり方もあるのか」と気付いたり、学生同士で「あのトレーニングは競技の中のどの動きにつながるのか」と話し合ったり、練習を見ることで多くの刺激と学びがあったといいます。
「自分の強化ポイントである跳躍と短距離の練習に注目していたのですが、多くの選手が身体や関節の可動性を向上させるような動的ストレッチをアップに取り入れていて、それが強さに繋がっているのだろうと感じました。僕は身体の硬さが課題なので、可動性を向上させるウォーミングアップはぜひ練習に取り入れたいです」(松下さん)
「松下君のほかにも、たとえば日本インカレ走高跳で優勝した原口(颯太)君が、同じ種目で今回金メダルを獲ったカー選手(ニュージーランド)と一緒に練習することができました。代表選手と同じ空間で練習し、自分と同じところも違うところもあると感じたことは、世界を目指す学生にとって大きな経験になったはずです。私自身も、代表選手のシンプルでよくプログラミングされた練習メニューは、コーチとしてとても参考になりました。今後の指導にどう取り入れようか考えているところです」(杉林先生)
 
 
世界を感じ、次の目標へ
今回、総勢約160名の大きなチームを1つのキャンパスで受け入れ、滞りなく大会へ送り出すことができたことは、「大学として大きな実績になる」と杉林先生は手応えを感じています。
「あれだけの規模のチームを受け入れるには、組織、人材、施設が全てそろっていなければ難しい。またこういうお話をいただいた時に、それができる体制であり続けることが、大学としても陸上競技部としても重要だと考えています」(杉林先生)
そして、練習補助などを通じて海外選手のトレーニング方法や人柄に触れ、成長のきっかけをつかんだ学生たちは、世界と自分のつながりをより強く意識し始めています。
「今“火が付いている”状態なので、この火を絶やすことなく、来年、愛知・名古屋で開催される予定の第20回アジア競技大会、2028年ロサンゼルス五輪を目指して頑張っていきます。部内でも混成ブロック主任、副主将という立場になるので、今回学生リーダーを務めた経験を活かし、さらに成長していきたいです」(松下さん)

今回サポート役として活躍した学生と先生方!
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