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2021.02.17 (WED)

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日本人の2型糖尿病発症に関連するミトコンドリア遺伝子多型を発見。高リスクの遺伝型でも運動により発症リスクが低くなることが明らかに

~ 個々の遺伝的体質に合わせた糖尿病の運動療法開発の糸口となるか ~

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の膳法浩史 協力研究員(東京聖栄大学 講師)、福典之 先任准教授ら、および佐賀大学と南カリフォルニア大学等の国際共同研究グループが、大規模コホート*1の調査分析により、日本人の2型糖尿病の発症に関連するミトコンドリア*2遺伝子多型*3を発見しました。本研究では、日本人に特異的なミトコンドリア遺伝子多型(m.1382A>C)で生じるミトコンドリア由来ペプチド(MOTS-c)のアミノ酸置換の型と2型糖尿病発症との関連を検討した結果、m.1382A型(MOTS-c 14K型)よりもm.1382C型(MOTS-cの14Q型)を有する方が2型糖尿病の発症リスクが高くなること、また、2型糖尿病発症リスクが高いC型であっても、運動量が多いと発症リスクが低いことを明らかにしました。本研究成果は、日本人において、個人の遺伝的体質に合わせた糖尿病発症予防やオーダーメイド型の運動療法の開発に貢献する可能性があります。本論文はAging誌に掲載されました。
本研究成果のポイント
  • 2型糖尿病発症に関連する日本人特異的なミトコンドリア遺伝子多型(MOTS-c K14Q)を発見
  • リスクが高い遺伝型でも運動量が多い(毎日20分程度の早歩きが目安)と2型糖尿病発症リスクが低下
  • 個人の遺伝的体質に合わせた糖尿病発症予防や運動療法の開発の一助となる可能性

背景

2型糖尿病は、国内で約1,000万人の患者がいるとされ、心筋梗塞や脳卒中、がんの発症リスクを高める疾患です。最近では、COVID-19の重症化リスクに関与する可能性も指摘されています。日本人は、欧米人に比べ肥満度が低いにもかかわらず2型糖尿病になりやすく、その理由は未だよくわかっていません。ヒトのゲノム*4は、核ゲノムとミトコンドリアゲノムから成り、ミトコンドリアゲノムには地域ごとに特徴的な遺伝子多型が存在します。最近、ミトコンドリアゲノムからMitochondrial Open-reading-frame of the Twelve S rRNA -c(MOTS-c、モッツシー)という新規のペプチド*5が産生されることが発見され、これが骨格筋において血糖値を正常域まで下げる能力(耐糖能)を向上させることが動物を対象とした研究で分かってきています。当研究グループは、ミトコンドリア遺伝子上の日本人特異的な遺伝子多型(m.1382A>C)には、MOTS-cのアミノ酸置換(K14Q)が生じていることを先行研究で明らかにしてきました。そこで本研究では、MOTS-cのK14Q遺伝子多型と日本人の2型糖尿病発症との関係を検討しました。

内容

本研究では、日本多施設共同コホート(J-MICC)佐賀研究、アメリカ多人種コホート(MEC)研究(日系人を対象)、および東北メディカル・メガバンク計画(TMM)コホートの3コホート(計26,994人)を対象としました。それぞれのコホートにおけるm.1382A>C遺伝子多型と2型糖尿病の発症率の関連を分析した結果、男性においてA型(日本人の頻度:約93%)よりもC型(日本人の頻度:約7%)を有する群の方が2型糖尿病の発症率が1.34倍高くなることを発見しました(図中央)。しかしながら、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多い(毎日20分程度の早歩きが目安)と、このリスクが低いことを発見しました(図右下)。なお、女性においてはm.1382A>C多型と2型糖尿病の関連はみられませんでした。

次に、m.1382A>C遺伝子多型が2型糖尿病の発症リスクを高くするメカニズムを検討しました。m.1382A>C多型は、ミトコンドリアゲノムの12S rRNA配列上に存在しますが、この配列からMOTS-c(16個のアミノ酸で構成されている)も作られることが最近の研究で分かっています。m.1382A>C遺伝子多型では、このMOTS-c配列の14番目のアミノ酸残基がリジン(K)からグルタミン(Q)に変化します。m.1382A>C遺伝子多型のA型の人は体内でMOTS-c 14K(リジン)ペプチドが作られ、C型の人はMOTS-c 14Q(グルタミン)ペプチドが作られます(図左円の細胞内)。このMOTS-c 14KペプチドとMOTS-c 14Qの耐糖能への違いを明らかにするために、それぞれのMOTS-cペプチドを3週間毎日投与したマウスに対して、ブドウ糖を与えその後の血糖変動を観察しました。その結果、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)を投与したマウスは血糖上昇が抑えられたのに対して、MOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)を投与したマウスでは、血糖上昇が抑えられませんでした(図右上)。また、細胞実験においても、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)で培養した細胞はMOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)で培養した細胞よりも糖の利用度が高く、上述した日本人の疫学的データを裏付ける結果となりました。

以上の結果をまとめると、①ミトコンドリア遺伝子のm.1382A>C遺伝子多型のC型は2型糖尿病発症リスクが高くなること、②2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多いと、2型糖尿病発症リスクが低くなること、③m.1382A>C遺伝子多型によって生じると考えられるMOTS-cのアミノ酸の違い(K14Q)が2型糖尿病の発症に影響することが本研究で明らかになりました。
<図>

図:本研究で明らかになった日本人の2型糖尿病リスクを規定するミトコンドリア遺伝子m.1382A>C遺伝子多型

図:本研究で明らかになった日本人の2型糖尿病リスクを規定するミトコンドリア遺伝子m.1382A>C遺伝子多型
男性においてA型(日本人の頻度:約93%、黒)よりもC型(日本人の頻度:約7%、赤)を有する群の方が2型糖尿病の有病率が1.34倍高かった(中央)。
しかし、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多いと、このリスクが低いことを発見(右下)し、運動が遺伝リスクをキャンセルすると考えられた。
m.1382A>C遺伝子多型のA型の人は体内でMOTS-c 14Kペプチドが作られ、C型の人はMOTS-c 14Qが作られている(左円の細胞内)。
それぞれのMOTS-cペプチドを3週間毎日投与したマウスに対してブドウ糖を与え、その後の血糖変動を観察。MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)を投与したマウスは血糖上昇が抑えられたのに対して、MOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)を投与したマウスでは、血糖上昇が抑えられなかった(右上)ことから、 MOTS-c 14Kペプチドが特に14Q保有者に対して新規糖尿病治療薬となる可能性が考えられる。

今後の展開

今回、当研究グループは、ミトコンドリアから産生されるMOTS-cの日本人特異的なミトコンドリア遺伝子多型(MOTS-c K14Q)が2型糖尿病発症リスクに関連することを明らかにしました。これにより、肥満度が低いにもかかわらず日本人が糖尿病になりやすい一因を説明できる可能性があります。今後、MOTS-cがどのようにして産生されるのかといった機序の解明や糖尿病発症を予測するバイオマーカーとしての有用性を明らかにすることにより、個人の遺伝的体質にあわせた糖尿病の予防や運動療法、新規治療薬の開発につながることが期待されます。

用語解説

*1 コホート: 特定の研究対象集団のこと。
*2 ミトコンドリア: 生物の細胞内に存在する細胞小器官。酸素を用いて身体に必要なエネルギーを作っている。ミトコンドリアは独自のゲノム、ミトコンドリアゲノムを有している。
*3 遺伝子多型: 遺伝子を構成しているDNA配列の個体差のこと。
*4 ゲノム: すべてのDNA配列に含まれる遺伝情報のこと。
*5 ペプチド: 2つ以上のアミノ酸とアミノ酸がペプチド結合により短い鎖状につながった分子のこと。

原著論文

本研究は老年学の学術誌Aging誌(2021年1月31日付)に掲載されました。
論文タイトル:A pro-diabetogenic mtDNA polymorphism in the mitochondrial-derived peptide, MOTS-c.
タイトル(日本語訳):ミトコンドリア由来ペプチド(MOTS-c)遺伝子領域に存在する2型糖尿病に関連するミトコンドリア遺伝子多型
著者:Hirofumi Zempo, Su-Jeong Kim, Noriyuki Fuku, Yuichiro Nishida, Yasuki Higaki, Junxiang Wan, Kelvin Yen, Brendan Miller, Roberto Vicinanza, Eri Miyamoto-Mikami, Hiroshi Kumagai, Hisashi Naito, Jialin Xiao, Hemal H. Mehta, Changhan Lee, Megumi Hara, Yesha M. Patel, Veronica W. Setiawan, Timothy M. Moore, Andrea L. Hevener, Yoichi Sutoh, Atsushi Shimizu, Kaname Kojima, Kengo Kinoshita, Yasumichi Arai, Nobuyoshi Hirose, Seiji Maeda, Keitaro Tanaka, Pinchas Cohen
著者(日本語表記):膳法浩史1),3), Su-Jeong Kim2), 福典之1), 西田裕一郎4), 檜垣靖樹5), Junxiang Wan2), Kelvin Yen2), Brendan Miller2), Roberto Vicinanza2), 宮本(三上)恵里1), 熊谷仁1),6), 内藤久士1), Jialin Xiao2), Hemal H. Mehta2), Changhan Lee2), 原めぐみ4), Yesha M. Patel7), Veronica W. Setiawan7), Timothy M. Moore8), Andrea L. Hevener8),須藤洋一9),清水厚志9),小島 要10),木下賢吾10), 新井康通11), 広瀬信義11), 前田 清司12), 田中恵太郎4), Pinchas Cohen2)
著者所属:1)順天堂大学, 2) University of Southern California, 3)東京聖栄大学, 4)佐賀大学, 5)福岡大学, 6)日本学術振興会, 7)Keck School of Medicine of University of Southern California, 8)University of California, 9)岩手医科大学, 10)東北大学, 11)慶應義塾大学, 12)筑波大学

DOI:10.18632/aging.202529
本研究はJSPS科研費JP17015018, JP221S0001, JP16H06277,JP17H01554, JP16K09058, JP16K13052, JP18K17943, JP17J10817および文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
<関連リンク>
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(インタビュー:大学院スポーツ健康科学研究科 先任准教授 福 典之)
https://www.juntendo.ac.jp/sports/news/20181204-01.html

福 典之 先生

福 典之 先任准教授

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