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2020.10.13 (TUE)

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アレルギー性皮膚炎を悪化させる樹状細胞集団を発見

~ ロイコトリエンB4受容体を発現する樹状細胞を標的にした治療法の開発へ ~

順天堂大学大学院医学研究科 生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦 教授、古賀友紹 非常勤講師(現熊本大学発生医学研究所)らの研究グループは、九州大学、大阪大学との共同研究により、生理活性脂質ロイコトリエンB4*1の受容体BLT1を発現し、アレルギー性皮膚炎を悪化させる樹状細胞*2集団(BLT1hi DC)の同定に成功しました。また、この樹状細胞集団が、一般的な樹状細胞とは異なり、リンパ節に移行せずに炎症部位に留まり、T細胞を炎症性のTh1細胞へと分化させて、接触性皮膚炎の症状を増悪させることを明らかにしました。この研究結果は、アレルギー性皮膚炎などの新規予防・治療法の開発につながる成果です。本研究は、免疫学の国際誌 Cellular & Molecular Immunology オンライン版 (2020年10月9日) に発表されました。
本研究成果のポイント
  • 生理活性脂質ロイコトリエンB4の受容体BLT1を発現する樹状細胞集団を発見
  • BLT1を発現する樹状細胞集団は、炎症部位に留まり多くのIL-12を産生し、T細胞を炎症性のTh1細胞へ分化誘導することで皮膚炎を増悪させる
  • アレルギー性皮膚炎の新規予防・治療法につながる研究成果
研究グループの横溝教授からのコメント
この研究は、私自身が遺伝子同定したBLT1受容体を認識する単クローン抗体を樹立したことがきっかけになって始まった研究です。私の研究室が九州大学にあった10年程前に研究を開始し、この研究のために遺伝子改変マウスを2ライン新たに作成するなど、時間と労力のかかる実験になってしまいましたが、古賀友紹君が粘り強く頑張ってくれました。一部のマクロファージ(順天堂プレスリリース、https://www.juntendo.ac.jp/news/20180920-01.html)や樹状細胞だけにBLT1遺伝子が発現する意義や分子メカニズムにはまだ分かっていないことが多いのですが、エピジェネティクスを専門とする熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野に移動した古賀君が、近い将来、その謎を解いてくれるものと期待しています。

古賀友紹さんと横溝岳彦教授

筆頭著者の古賀友紹さん(左、現在、熊本大学発生医学研究所 助教)と、横溝岳彦教授

背景

アレルギー性皮膚炎は、発症原因(抗原やアレルゲン)の特定とその除去がとても重要ですが、原因を特定出来ないことや、原因がわかっても日常生活から完全に取り除くことが困難な場合が少なくありません。そのため、発症原因の特定と除去に拘らない新しい治療法の開発が求められています。アレルギー性皮膚炎の発症機構にはいまだ不明な点が多く残されており、アレルギー性炎症の分子機構を明らかにすることは、分子を標的にした新しい治療法を開発することにつながります。
研究グループは、免疫応答の司令塔である樹状細胞の機能解析を行うことがアレルギー性皮膚炎の分子機構を解明するのに有用ではないかと考えました。また、研究グループが世界に先駆けて同定し、様々な炎症性疾患を悪化させることを報告してきた生理活性脂質ロイコトリエンB4の受容体BLT1を介した皮膚炎発症のメカニズムが解明できるのではないかと考えました。そこで本研究では、樹状細胞におけるBLT1の発現解析と、BLT1発現細胞の機能解析を行いました。

内容

まず、マウスの脾臓や肺などに存在する樹状細胞におけるBLT1受容体分子の発現を解析しました。その結果、興味深いことに樹状細胞には、BLT1を発現する細胞集団(BLT1hi DC)と発現しない細胞集団(BLT1lo DC)が存在することがわかりました(図1A)。次に、これらの樹状細胞の機能を解析するために、アレルギー性皮膚炎マウスモデルを作成し、細胞移植実験を行いました。BLT1hi DCを移植したマウスではBLT1lo DCを移植したマウスに比較して耳の腫れが増大し、炎症マーカーの発現も増強されました(図1B)。

図1

図1: BLT1陽性の新規樹状細胞集団によるアレルギー性皮膚炎の増悪

(A)脾臓由来樹状細胞にはBLT1陽性(BLT1hi DC)とBLT1陰性(BLT1lo DC)の細胞集団が存在する。CD11c/MHC class II両陽性が樹状細胞。陰性コントロール(Isotype control)では見られないが、BLT1抗体で染色すると陽性(右四角30.7%)と陰性(左四角65.1%)に分かれる。

(B)アレルギー性皮膚炎マウスモデル. BLT1陽性の樹状細胞(BLT1hi DC)とBLT1陰性の樹状細胞(BLT1lo DC)を移植して、皮膚炎病態を評価。BLT1陽性樹状細胞を移植すると、BLT1陰性樹状細胞を移植した時に比べて、耳介の炎症(左、HE染色像、浮腫と炎症細胞の浸潤が認められる)、耳の腫れ(中、浮腫・肥厚)や炎症マーカー(IFN-g)が増悪する(右、RT-qPCR)。
*, p < 0.05; **, p < 0.01.
さらに樹状細胞特異的にBLT1を欠損するマウスを作成したところ、アレルギー性皮膚炎が減弱したことから、BLT1hi DCにおけるBLT1が皮膚炎を増悪させることがわかりました。この細胞集団の機能的な違いを生み出す分子機構を明らかにする目的で、包括的な遺伝子発現プロファイルを解析したところ、BLT1hi DCが炎症性のTh1細胞を分化誘導するサイトカインIL-12を強く発現すること、一方でBLT1lo DCがT細胞の増殖を誘導するサイトカインIL-2を顕著に発現することがわかりました(図2)。さらに、BLT1hi DCは一般的な樹状細胞とは異なり、リンパ節へ移行せずむしろ生理活性脂質であるロイコトリエンB4に引き付けられ炎症部位に留まる傾向があることがわかりました(図2)。

図2

図2: 本研究により明らかになったBLT1陽性樹状細胞集団によるアレルギー性皮膚炎増悪のメカニズム
BLT1陰性の樹状細胞がリンパ節へ移行してIL-2の産生を介してT細胞増殖を誘導するのに対して、BLT1陽性の樹状細胞は炎症部位へ留まりIL-12の産生を介して炎症性のTh1細胞を分化誘導し(免疫ブースト)、アレルギー性皮膚炎を増悪する。炎症部位には多くの好中球が存在し、これらがロイコトリエンB4(LTB4)を産生していると考えられる。
以上の結果から、1)樹状細胞においてBLT1発現が異なる亜集団が存在すること、2)BLT1hi DC、BLT1lo DCはサイトカイン産性能とリンパ節移行能において異なる機能を有すること、3)BLT1hi DCがアレルギー性皮膚炎を増悪すること、が明らかとなりました。

今後の展開

本研究は、これまで知られていなかった新規樹状細胞集団を同定した点で意義があります。このBLT1hi DCは炎症部位に留まって大量のIL-12を産生し、末梢におけるTh1分化を促進させます。これは局所において免疫反応を増強する働きがありますが、一方、過剰に働くとアレルギー性皮膚炎などを引き起こすと考えられます。この報告も世界で初めてになります(図2)。アレルギー性皮膚炎は世界中で患者数が多い疾患です。本研究グループが発見した新規樹状細胞集団を標的とした、アレルギー性皮膚炎の新規予防法や新規治療薬の開発が期待されます。

用語解説

*1 生理活性脂質ロイコトリエンB4:ロイコトリエンB4は生体膜から切り出されたアラキドン酸から産生される特殊 な“あぶら”です。これは細胞膜上の受容体BLT1に結合・作用し、多様な生理活性を発揮します。BLT1は、 本研究の責任者である横溝岳彦教授により同定された分子で、炎症・免疫反応を促進することがわかってきています。さらに近年、X線構造解析にも成功したことから、創薬標的として注目されています。
*2 樹状細胞(DC) : 免疫応答の司令塔となる細胞。樹状細胞は、皮膚などの外界と接する末梢組織で抗原に暴露され、近傍のリンパ節に移行し、T細胞に抗原提示を行い分化・増殖を誘導します。分化したT細胞は炎症部位へと移行し、抗原の排除を行います。一方で樹状細胞は、大量のサイトカインを産生し、T細胞の特異的な分化(Th1、Th2、Th17など)を促進します。

原著論文

本研究は、Nature Publishing Groupの「Cellular & Molecular Immunology」 (https://www.nature.com/cmi/) に2020年10月9日付で公開されました。

英文タイトル: Expression of leukotriene B4 receptor 1 defines functionally distinct dendritic cells that control allergic skin inflammation
日本語訳:ロイコトリエンB4第1受容体は機能的に異なる樹状細胞を規定し、アレルギー性皮膚炎を制御する。
著者: Tomoaki Koga (1, 2), Fumiyuki Sasaki (1), Kazuko Saeki (1), Soken Tsuchiya (3), Toshiaki Okuno (1), Mai Ohba (1), Takako Ichiki (1), Satoshi Iwamoto (1), Hirotsugu Uzawa (1), Keiko Kitajima (4), Chikara Meno (4), Eri Nakamura (5), Norihiro Tada (5), Junichi Kikuta (6), Masaru Ishii (6), Yoshinori Fukui (7), Yukihiko Sugimoto (3), Mitsuyoshi Nakao (2), Takehiko Yokomizo (1)
著者(日本語表記):古賀友紹(1,2), 佐々木文之(1), 佐伯和子(1), 土屋創建(3), 奥野利明(1), 大塲麻衣(1), 市木貴子(1), 岩本怜(1), 鵜澤博嗣(1), 北島桂子(4), 目野主税(4), 中村衣里(5), 多田昇弘(5), 菊田順一(6), 石井優(6), 福井宣規(7), 杉本幸彦(3), 中尾光善(2), 横溝岳彦(1)
所属: (1)順天堂大学生化学第一講座、(2)熊本大学発生医学研究所 発生制御部門 細胞医学分野、 (3)熊本大学大学院生命科学研究部 薬学生化学分野、(4)九州大学発生再生医学分野、(5)順天堂大学遺伝子解析モデル部門、(6)大阪大学免疫細胞生物学分野、(7)九州大学生体防御医学研究所免疫遺伝学分野
Cell Mol Immunol. (2020) doi: https://doi.org/10.1038/s41423-020-00559-7
公開サイト:https://www.nature.com/articles/s41423-020-00559-7
本研究は、文部科学省JSPS科研費(新学術領域研究JP22116001, JP22116002, JP15H05901, JP15H05904、基盤研究JP15H04708, JP18H02627, JP15K19032, JP17K08664, JP15K08316, JP18K06923, JP15KK0320, JP16K08596)、AMED-CREST (JP20gm1210006)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、三菱財団および武田科学振興財団の支援を受け実施されました。

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