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【国際的学術連携】アスリートの育成・支援を多角的に考える VUB・Paul Wylleman教授による国際招待講演を開催
2026年9月18日(金)、順天堂大学さくらキャンパスにおいて、ブリュッセル自由大学(Vrije Universiteit Brussel:VUB、ベルギー)のPaul Wylleman教授を招き、国際招待講演「What Makes a Better Athlete? Rethinking Athlete Development and Support」を、対面で開催しました。

本講演は、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科、スポーツ健康科学部国際交流委員会、スポーツ健康医科学研究所の共催により、VUBと順天堂大学との国際連携活動の一環として実施したものです。共同研究の推進に加え、研究者や大学院生の交流、教育活動などを通じて、両大学の学術・研究協力関係をさらに発展させることを目的としています。
講演に先立ち、スポーツ健康科学部学部長・スポーツ健康科学研究科研究科長の和気秀文教授が歓迎の挨拶を行い、両大学の交流を今後さらに発展させ、教職員や大学院生、学生の交流につなげていくことへの期待を述べました。続いて、司会を務めた川田裕次郎准教授からWylleman教授の研究・実践活動が紹介されました。

スポーツ健康科学部学部長・スポーツ健康科学研究科研究科長・スポーツ健康医科学研究所所長の和気秀文教授の挨拶

コーディネート並びに司会を務めた川田裕次郎准教授
Wylleman教授は、スポーツ心理学を専門とし、アスリートのキャリア発達、メンタルヘルス、競技パフォーマンスに関わる行動(パフォーマンス行動:performance behavior)などをテーマに、国際的に研究を進めています。また、研究者としてだけでなく、オリンピック・パラリンピックを含むハイパフォーマンススポーツの現場においても、アスリートやコーチの育成・支援に携わってきました。現在は、日本のハイパフォーマンススポーツに関する助言にも携わっています。
アスリートを競技成績だけでなく「一人の人」として捉える

Spot psychology and sport psychologists in high-performance and Olympic sport(ハイパフォーマンス・オリンピックスポーツにおけるスポーツ心理学とスポーツ心理学者)と題するテーマで講演をおこなうWylleman教授
講演ではまず、アスリートの成長を競技能力だけで捉えるのではなく、心理的発達、家族やコーチ、仲間との関係、学業や職業、さらには経済的・法的環境などを含めて総合的に理解する「包括的アスリート・キャリアモデル(Holistic Athletic Career Model)」が紹介されました。このモデルは、アスリートのキャリアを競技面だけでなく、心理的発達、家族やコーチ、仲間との関係、学業や職業、経済的・法的環境など、複数の側面から総合的に捉える考え方です。
Wylleman教授は、トップアスリートとともに、その選手の競技人生における自信の変化や重要な転機を振り返った事例を紹介しました。競技レベルの向上だけでなく、けが、学業との両立、家族やコーチとの関係、競技引退後のキャリアなど、さまざまな出来事が相互に影響しながらアスリートの成長を形づくっていることが示されました。
また、アスリートの育成は、エリートレベルに到達した時点で終わるものではなく、その後も続いていくプロセスであることが強調されました。競技種目や年齢、文化、所属する組織によってキャリアのあり方は異なるため、一人ひとりの状況に応じて支援を考えることが重要であると説明されました。
メンタルヘルスを「問題の有無」だけで捉えない

Wylleman教授によるレクチャーの様子
続いて、近年のハイパフォーマンススポーツで重要性が高まっているメンタルヘルスについて、「精神的な疾患があるかどうか」と「本人のウェルビーイングが高いか低いか」を別の側面として捉える考え方が紹介されました。
スポーツ心理学の支援は、深刻な心理的問題を抱えたアスリートだけを対象とするものではありません。競技生活の中で生じるストレスや変化に適応したい、より安定して力を発揮したいと考えるアスリートやコーチへの支援も、重要な役割の一つです。
Wylleman教授は、本人に適応を求めるだけではなく、その人が持つ特性を理解し、力を発揮しやすい環境そのものを整えることも重要であると説明しました。アスリート、コーチ、医師、心理専門職、栄養やトレーニングの専門家などが連携し、それぞれの専門性を生かして支援することの必要性が示されました。
「パフォーマンス行動」をどのように育てるか
講演後半では、「パフォーマンス行動」を中心に、アスリートが身につけてきた能力を、必要とされる場面で発揮するための考え方が取り上げられました。
競技力を高めるためには、身体能力や技術の向上だけではなく、プレッシャーのかかる状況でどのように判断するか、予期しない出来事にどのように適応するか、コーチやチームメイトとどのようにコミュニケーションをとるかといった、実際の行動として現れる心理的コンピテンス(能力)を育てることが重要です。
例えば、「自信」「モチベーション」「レジリエンス」といった言葉を抽象的な概念のまま捉えるのではなく、それぞれが競技場面で「どのような行動として現れるのか」を具体的に考える必要があります。講演では、ベルギーのスポーツ現場において、コーチとともにこうした心理的コンピテンスを具体的な行動として整理し、長期的な選手育成に組み込んできた実践例も紹介されました。
また、パフォーマンス行動を支えるものとして、身体的・心理的・社会的な健康を含む「パフォーマンスを支える健康(Performance Health)」、持続的な競技生活を支える「競技生活におけるウェルビーイング(Performance Well-being)」、さらに競技団体や契約、デュアルキャリアなどの環境を含む「競技活動を支える制度・環境(Performance Welfare)」という視点も示されました。競技力向上を一つの専門領域だけで考えるのではなく、多職種が連携してアスリートを支えることの重要性が改めて示されました。
日本のスポーツにおける今後の課題についても意見交換
講演後の質疑応答では、こうしたモデルを競技種目や文化、組織の特徴に応じてどのように活用していくのかについて意見が交わされました。
Wylleman教授からは、理論モデルをそのまま当てはめるのではなく、それぞれのスポーツや文化、組織に応じて柔軟に適用していく必要があることが説明されました。また、エリートスポーツを取り巻く環境を踏まえながら、アスリート自身が状況を考え、判断して行動する力や、選手とコーチの間にオープンなコミュニケーションを育てていくことについても議論が行われました。
今回の講演は、「より良いアスリートを育てるとは何か」を、競技成績だけではなく、キャリア、心理、健康、社会的環境など多様な側面から捉え直す機会となりました。

Wylleman教授と参加者との集合写真
今後も本学スポーツ健康科学部およびスポーツ健康科学研究科とVUBは、それぞれが有する教育・研究・アスリート支援の強みを生かし、Performance Behaviourをはじめとするスポーツ科学分野での共同研究や、研究者・大学院生の交流、人材育成などを通じて、継続的な国際連携の発展を目指していきます。
Paul Wylleman教授 プロフィール
ブリュッセル自由大学(Vrije Universiteit Brussel:VUB、ベルギー)教授(スポーツ心理学)
Wylleman教授は、エリートアスリートのキャリア発達、デュアルキャリア、メンタルヘルス、心理的コンピテンシー、Performance Behaviourを主要な研究・実践領域としている。特に、アスリートが高いパフォーマンスを発揮するために必要な心理および行動の育成と支援に長年取り組んできた。
国際オリンピック委員会(IOC)、世界アンチドーピング機構(WADA)、欧州のErasmus研究プログラムなどの国際プロジェクトに参画し、ヨーロッパスポーツ心理学会(FEPSAC)会長を8年間務めた。2017年にはAssociation for Applied Sport Psychology(AASP)のDistinguished International Scholar Award、2025年にはInternational Society of Sport Psychology(ISSP)のDistinguished International Sport Psychologist Awardを受賞し、同年、FEPSACのHonorary Membershipを授与された。オランダのオリンピック委員会ではPerformance Behaviour領域を担当し、2016年リオデジャネイロ大会および2020年東京大会では「TeamNL」のチーム心理士を務めた。現在はベルギーオリンピック・パラリンピック委員会の心理学専門家を務め、2024年パリ大会ではTeam Belgiumのチーム心理士およびWelfare Officerを担当した。また日本スポーツ振興センターおよび国立スポーツ科学センターのアドバイザーとして日本のハイパフォーマンス支援体制の発展にも尽力している。
Vrije Universiteit Brussel Biography
Dr. Paul Wylleman
https://spmb.research.vub.be/paul-wylleman-phd