順天堂大学医学部生理学第二講座

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私たちの研究室では

研究室で進めてきたこと

私達の研究室では、オートファジー欠損マウスの解析を基軸に選択的オートファジーについて分子から個体レベルの解析を進めています。

1)どうやって選択性を発揮するの?

オートファゴソームは直径約1マイクロメートルのほぼ球状の構造体であることから、平均的な大きさのタンパク質であれば10万から100万個のタンパク質を取り囲むことができます。それゆえに、オートファジーは非選択的な分解経路であると考えられてきました。しかし、ユビキチン化タンパク質凝集体、ユビキチン化ミトコンドリアやユビキチン化バクテリアがオートファゴソームに局在するユビキチンレセプター群(図4)を介して選択的にオートファゴソームに取り囲まれることが明らかとなってきました(図5)。凝集化したタンパク質(やオルガネラ)をターゲットにすることで分解効率を上げ、ユビキチンシグナルを利用することで高い選択性を可能性にしていることが示唆されています。

図4

図4. Atgタンパク質(Atg12-Atg5結合体やLC3)と相互作用するユビキチン化基質レセプターないしはアダプタータンパク質。

図5
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図5. オートファジーによるユビキチン化基質(ユビキチンタンパク質、ユビキチンオルガネラ、ユビキチンバクテリア)分解仮説。p62やNbr1はユビキチン化基質のレセプター・アダプタータンパク質として機能する一方、Alfyはスカフォールドタンパク質としてAtgタンパク質を基質周辺に集める。p62およびNbr1はオートファジーにより代謝されます。

2)選択的オートファジーの破綻は疾患と関係するの?

オートファジー選択的タンパク質の中で特に病態との関連が注目されているのがp62/A170/Sqstm1(以後、p62と省略)です。p62は遍在性に発現する細胞内タンパク質であり、真菌や植物には存在せず多細胞動物に保存されています。この分子は、オートファゴソーム形成部位に局在し、LC3-Interacting Region (LIR)を介してLC3と相互作用し、オートファジーにより代謝されます。すなわち、オートファジーの選択的基質です。p62のN末端のPhox1 and Bem1p (PB1)ドメインはオリゴマー形成能を持つことから、オートファジー欠損細胞や組織においてp62は大量に蓄積し、p62およびp62結合タンパク質陽性の凝集体が形成されます。この様なp62陽性凝集体は、アルコール性肝炎や脂肪肝で確認されるマロリー小体や肝細胞がんで確認される細胞内硝子体と酷似しています。重要なことに、オートファジー欠損マウス肝臓においてp62を同時に欠損すると、凝集体形成は完全に抑制されます。ヒト疾患で確認されるp62陽性凝集体はオートファジー不全、それに引き続くp62の過剰蓄積に由来するのかもしれません。タンパク質凝集体は病態発症に深く係ることから、更なる解析を進めています。詳しくはこちらへ

3)選択的オートファジーの破綻と病態発症

p62やNbr1は、ユビキチン化タンパク質、ユビキチン化タンパク質凝集体、ユビキチン化ミトコンドリア、ユビキチン化バクテリアをオートファゴソームに選択的に輸送するレセプター、ないしはユビキチン化基質をオートファゴソーム形成部位に集めるアダプター分子であると提唱されています。その一方、これらの分子は免疫シグナル、アポトーシスそして転写制御を制御するスカフォールドタンパク質としての機能も知られています。オートファジーの不全により選択的基質が異常に蓄積すると、シグナル伝達異常、過剰転写活性化が起こることが分かってきました。オートファジーによるp62やNbr1の代謝はシグナル伝達や転写を制御しており、その破綻が病態発症に関与する可能性があります。詳しくはこちらへ

研究室の課題

1. 新たなオートファジーの生理機能の探索

私達の研究室では、オートファジー関連遺伝子の遺伝子改変マウスを作出し、その解析を通して高等動物におけるオートファジーの生理機能の解明を目指しています。

2. 選択的オートファジーの分子メカニズム

オートファゴソームが選択的基質を認識するメカニズム(何時?どのようにして?)はほとんど分かっていません。私達の研究室では、生化学、細胞生物学そして構造学を駆使して、選択的オートファジーの分子メカニズムの解明を目指しています。

3. オートファジーの破綻とヒト病態発症機構の解明

私達の研究から、オートファジーの破綻による病態発症機序、つまり細胞内恒常性維持の破綻による酸化ストレス亢進やゲノム不安定化に起因とした肝障害、腫瘍化、そして抗ストレス活性化による腫瘍促進作用が明らかになってきました。ヒト疾患とオートファジーの異常について更なる解析を進めています。

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