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順天堂大学シンポジウム
幸福寿命を延ばす医療イノベーション ~ロコモ予防(スポーツ・健康・医療)を考える~ より

パネルディスカッション
「次世代のロコモ予防(スポーツ・健康・医療)を考える」(1/3)

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○開催日
:平成26年8月30日(土)
○会場
:順天堂大学10号館 1階カンファレンスルーム
○モデレーター
:内藤久士(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科長)
○パネリスト 
:大江隆史(ロコモ チャレンジ!推進協議会委員長/社会医療法人蛍水会名戸ケ谷病院院長)
伊坂忠夫(立命館大学スポーツ健康科学部教授)
濱田千江子(順天堂大学大学院腎臓内科学准教授)
石島旨章(整形外科・運動器医学准教授)

以下成果報告に係る内容は、論文発表、特許関係の都合上、割愛しております。

招待講演1

「ロコモの概念と次世代のロコモ予防」
大江隆史(社会医療法人蛍水会名戸ケ谷病院院長)

招待講演2

「運動を生活カルチャー化する健康イノベーション拠点の取り組み」
伊坂忠夫(立命館大学スポーツ健康科学部教授)

パネルディスカッション
「次世代のロコモ予防(スポーツ・健康・医療)を考える」

内藤:今回のパネルディスカッションの進め方ですが、最初におふたりの先生からお話をいただき、その後休憩を取って、4人の先生に、前にお揃いいただいて、質問やパネリストの先生方の相互の意見交換という形で進めていきたいと思います。ご協力のほどよろしくお願いいたします。
それでは最初は大江先生について、石島先生からご紹介をいただければと思います。

パネルディスカッション写真

石島:順天堂整形の石島と申します。皆様のお手元にある青いパンフレットの一番下をごらんください。ロコモのパンフレットは日本整形外科学会が作成しています。今日、この数時間で数百回、皆様から「ロコモ」というキーワードが聞かれますが、ロコモは誰が作ったかご存知でしょうか。ロコモとは、大江先生の師匠である東京大学整形外科前教授の中村耕三先生がお作りになった言葉です。これが、この数年間にやっと皆さんに口にしていただけるようになったのです。ロコモ協議会は日本整形外科学会の下部組織として、ロコモの普及のために活動してきました。大江先生の今までのすべての道程をご存知の方です。本日はロコモのここまでの道程と今後の方向性についてご説明いただけるものと楽しみにしております。大江先生、よろしくお願いいたします。

大江:過分なご紹介をありがとうございます。ロコモと言い出した最初の頃から、関わっているものですから、その頃からのお話、ロコモの成り立ちと概念を含めたお話と、それに沿って、ではどのように対策をしていくかという話をしたいと思います。よろしくお願いいたします。
今のところ、日本整形外科学会が決めているロコモティブシンドロームの定義は、「主に加齢による運動器障害のために、立ったり歩いたり上ったりする移動機能の低下をきたした状態」です。そして、「進行すると要介護状態を招くもの」と定義しています。
ロコモティブシンドローム自体は、日本で作った言葉です。「ロコモーション」は移動機能であり、「ロコモティブ」は移動機能があるという意味の英語です。SLはSteam Locomotiveであり、これは「蒸気で移動能力を持つ」という意味で、もともとある英語です。そこから「ロコモティブシンドローム」という言葉を作りました。
ロコモは2008年ぐらいから、日本整形外科学会が提案しています。それから6年ぐらい経ちました。先日、うちの協議会で行った認知度調査として、インターネットで全国調査したところ、「名前は知っている」という人がようやく36%、つまり1/3ぐらいになったということです。

ロコモティブシンドロームを提案した意義は、今日、前半はこの話だけになりますが、5つあると考えています。
1つ目は、運動器障害に対処しないと、その先に要介護があるということに世の中の人に気づいてもらう手段。
2つ目は、高齢者の運動器障害は、いろいろな障害や疾患が複合したり連鎖したりすることに気づいてもらうこと。
3つ目は、前東大総長の小宮山先生が言われている「知識の構造化」という考え方がありますが、これを運動器科学に応用しようということ。
4つ目は、高齢者の運動機能障害の中で、骨粗鬆症、変形性関節症、脊柱管狭窄症などの、種類の限られた疾患の割合が多い。そうしたコモンディジーズへ努力を集約しようということ。
5つ目は、運動器への一般の理解を深める手段としよう。
この5つだと、私は考えています。

このようにロコモを定義しましたが、ここから考えるロコモの予防、将来の考え方。
高齢者の運動器障害がこのような構造になっているということがだんだんわかってきて、いろいろな資料からも裏付けされていて、知識が整理されてきました。
では、次世代のロコモ予防はどのようにしたらよいか。
「自分の移動能力は年齢相応だと思いますか」。8割ぐらいの人は「年齢相応だ」と思っています。しかし、「運動器検診を受けたことがありますか」と聞くと、実はほとんどが学校卒業以来、運動器の検査を受けたことがない。体力測定などしたことがない。
つまり、客観的な検査を受けたことがないのに、自分は年齢相応だと思っている。これが人々の意識なのです。便利な世の中では、運動器の衰えに気がつかない。エスカレーターはありますし、買い物に行かなくてもクリック一発で配達してくれます。これに気がつかない。気がつかないので、日本整形外科学会では、ロコモに早く気づいてもらうために、ロコモ度テストを去年開発しました。
「ロコモに気づくための7つのロコチェック」と2010年から言っています。それはたとえば、「階段を上るために手すりが必要」「横断歩道を青信号の間に渡りきれない」といった、要介護者に近い人をディテクトするためのテストでした。しかし、これでは若い人はディテクトできないので、もう少し若い人にも気づいてもらえるためのロコモ度テストを開発し、お手元のパンフレットにもありますが、去年発表したのです。若い人から気づいてもらおう、ということです。

では、次の10年先を見たとき、何回も骨が折れてしまう人や、次々と運動器の障害を複合する人を、どのようにして防ぐか。運動器障害はこのように起こるので、こうしたところに「自然の流れではない介入」をすべきではないかと、私見ですが、考えています。たとえば、骨粗鬆症は今や、早く介入すれば、骨密度が上がるようなお薬がたくさん出ているので、若い人の60%ぐらいに落ちた骨密度を頑張れば80%に上げられるという段階に来ています。世の中にはあまり知られていませんがそのような段階に来ています。また、年齢とともに起こる筋量、筋肉、筋力の低下、サルコペニアは介入できます。

ロコモは総合的な移動機能に注目することが大切です。
そして、運動器の衰えに早く気づくこと。気づかないと、人間は行動を変容しません。
そして、運動器の衰えを自然の流れに任せない。これは少し変な言い方ですが、これほど長く生きている動物は、人間しかいません。女性の方には申し訳ありませんが、閉経後のメスが生きているのは人間と動物園くらいです。
女性は2倍生きる世の中になったのです。2倍生きる世の中になったので、自然の流れに任せていると、少し難しいのではないかと私は思います。どこかで考えを変えます。自然の流れに任せると、今の状態を大きく変えるのは難しいのではないかと思います。 また、技術的な開発で、運動器を移動機能の低下に向かわせない工夫もできるのではないかと思います。
ご清聴ありがとうございました。

内藤:ありがとうございました。それでは伊坂先生について、私から簡単にご紹介させていただきます。
立命館大学スポーツ健康科学部。我々順天堂大学と同じ学部名称です。伊坂先生は立命館大学のご卒業ですが、お話によると附属の中、高からということで、ミスター立命館と呼ばれているとのことです。そのあたりも含め、宣伝もしていただいて。楽しいお話が聞けるのではないかと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。

伊坂:宣伝する機会をいただき、ありがとうございました。
本日はこのような素敵な部屋に呼んでいただき、木南学長先生以下、順天堂関係の皆様、本当にありがとうございます。それでは、我々がビジョン1のCOI-Tでさせていただいている内容を、20分間だけお話しさせていただきます。
運動を生活カルチャー化する健康イノベーション拠点というタイトルでやっておりまして、プロジェクトリーダーは東洋紡の石丸さんです。私もリサーチリーダーをさせていただいています。

パネルディスカッション写真

我々の思いは「健康な人をより健康に」ということです。前半の基調講演では、高齢の人の話、ロコモの話、ロコモ予備群の話がありました。私たちはその前の「元気なところ」から始めたいと思います。元気な人をより健康に、ということで、我々は「生活カルチャー化」というキーワードを考えました。我々は「健康増進」「コミュニティ形成」「安全安心」。この3つのキーワードを「生活カルチャー化」というところで。先ほどから言っているように、運動は続きません。「それ以上たばこを吸うと死ぬよ」と言ってもやめる人はなかなかいませんし、「食べたら太るから我慢しろ」と言ってもなかなかできない。そこをなんとか、こうしたキーワードで変えたい。

「なくてはならないもの」に、どうしたらできるか。
今、学生達はほとんどスマホを持っています。スマホを1ヶ月没収すると言うと、たぶん、彼らは気が狂うのではないかと思います。「なくてはならないもの」になっていて、あると便利で、なければ生活できないし、楽しい、かっこいい。そういうものを、運動をカルチャー化するためにやりたい。
そのために考えたものの1つが、スマートウェアです。

スマートウェアは、こうしたものが計測できます。心電図、呼吸、関節運動。曲ったか、伸びたか。血圧はまだですが、発汗、体温。ほとんどここまでできています。
これを肌着にしたい。柔らかい、ユニクロで売ってくれるようなものに最終的にしたいと思います。
使い方によっては、心電図では呼吸の問題がありますので、居眠りや酒酔い運転の検知をしたり。将来的には「ちょっと心電図がおかしい」といった場合に、半径500m以内にいる人にICTでデータが飛んで、「近くに危なそうな人がいるから助けて」と、皆さん自身が緊急医になれるということで、安全な町にもなるのではないかと思っています。

スマートウェアだけではなく、コミュニティ形成についても我々は考えています。それは、空間と時間と仲間の3つの「間(ま)」が共有されて初めてできます。皆さんはここにいて、私と空間と時間を共有していただき、もうお仲間ですから、これでコミュニティができるわけです。それが仲良くなるための1つのきっかけです。それをどのようにやるかが大事です。その1つのきっかけに、スマートウェアを我々は考えましたが、それだけでは不十分です。接点を持つための空間シェアリングという技術を今、考えています。

その特徴的なものの1つが、超音波スピーカーです。超音波は非常に高い指向性があります。もちろん、音は聞こえません。その指向性をうまく利用して、キャリア波として使います。音をキャリア波に変調させて持っていくと、超音波は聞こえず可聴音だけが残ります。たとえば、ここにこれだけ大勢の方がいらっしゃいますが、それぞれの先生に向かってピンスポットで音を変えることができます。ですから、私の声を聞くのはひとりだけ、後は全然違う音楽を聴く、ということもできます。 空間シェアリングは分けるということではなく、そこからコミュニケーションへ、という発想です。空間を同じくするというのは、非常に大事だと感じます。 将来的には、こうした健康コミュニティ公園も事業化して、実証実験はこちらで確保しております。こうした町の中で、子ども達や運動をする人たちが元気で、そして周りでそれを見ている人たちも元気になれるようなものにしたいと思います。

もう1つ。やはり、楽しくなければ続きません。それにはどうしたらよいか。
ゲームは達成感があったり、勝つと威張れるということがあったり。そうして運動を続けることで健康になる、という形でやってみてはどうかということで、実際にキャンパスの中で、実験をしてみました。運動の苦手な学生に参加してもらい、やっていくうちに「体が動くのは楽しい」「調子が良くなった」という形で気づいてもらうということをしました。BMI28.5の人が対象です。大学の検診で20名以上集め、本当はスマートウェアが完成していたらそれでやりたかったのですが、スマートウェアの代わりに別のソフトをスマホにインストールさせました。すると、歩数が出ます。キャンパス内に限っては、どのゾーンで滞留したかがわかります。すると、キャンパスで居心地良く彼らが過ごしているのはここかということもわかります。
そして、実際に歩いた歩数、キャンパスの滞留地点をオンライン上で見せていく。「あなたは3週間こうでした」「今日は何歩歩きましたね」「あなたが一番でしたよ」というような形で、ポイント制にします。目標を達成したら1ポイント。2週目にほとんどの学生さんがちゃんと歩けた。それにはもう1つ理由がありましたが。ポイントが貯まると生協のヘルシー弁当の食券がもらえるということで。このようにしながら、運動習慣を付けさせようとしました。
このような取り組みを我々はしています。

最後に映像を見ていただきます。彼は60歳を超えて、まだ140kmの球が投げられるという、我らが目指すべき人のひとりではないかと思います。
これは名誉総長の「未来を信じ、未来を生きる」という言葉です。10年後の未来、あるいは20年後の未来をイメージしながら、この事業に取り組んでいます。
ご清聴ありがとうございました。

内藤:大江先生、伊坂先生、ありがとうございました。今の発表で補足等ありましたら、お願いいたします。

大江:このパンフレットの04ページに流れ図のようなものが書いてあります。これが今のロコモの目指すところ。「運動器がだんだん悪くなって、青から黄信号になり、赤になり、最後は要介護で寝たきりになる」というのを流れ図にしています。黄色のあたりから矢印を出して「ロコチェック」としています。従来、ロコモは運動器の障害で、要介護の危険があるギリギリの方を対象にロコチェックをして、「これらが当てはまる方は要介護間近だよ」ということを2008年ぐらいからやってきました。それだけでは、その前の予防につながらないということで、去年、この黄色の前の、青から黄色へ変わる方、女性では40代後半、男性はもう少し遅め、それくらいの方に向けて、運動器の衰えに気がつく方法として、「ロコモ度テスト」を発表しました。
今日は、スポーツを日常化するというお話もありました。
ロコモのターゲットは要介護間近の人から、少し黄色信号の人までだんだん変わってきています。そこにも対象を広げて、ロコモの予防をしていきたい。発表では時間がありませんでしたが、そうしたところを今、やっています。

内藤:ありがとうございました。伊坂先生はよろしいですか。
立命館大学のプレゼンでは、今のお話で言えば青いところを中心に、重点にしています。それに対して順天堂大学はどちらかというと、黄色から赤いところ。我々の、本学の特性を生かすと、そちらがポイントになると思います。石島先生、いかがですか。病院から次世代のロコモを考えるというテーマで。

石島:大江先生がお話しされたとおり、整形外科医としての立場から課題は2点あると思います。
1点は、今後白内障の治療のために短期ですがご入院されたり、人間ドックで病院に滞在されたりする頻度が増すことが予想されます。このような一見短期で、しかも運動器疾患ではない場合の病院での短期の入院でもロコモ度が上がっている可能性はないのかと、最近考えています。つまり、大袈裟に申しあげれば、病院でロコモが発生する可能性についても考えていく必要があるのではないかということです。
もう1点は膝の痛みについてです。われわれの関節の軟骨は、一定程度摩耗していくことがわかってきました。しかし、軟骨にも合成能があります。摩耗しながら、合成しています。しかし、一部の人は合成能が落ちてきて、しかも痛くない。従って、知らないうちに進んでいく。予防というのは発症しないようにすること。糖尿病も発症する前から起きていることはよく知られていますが、運動器でも同じようなことが起きている可能性があります。痛みが出たときは、すでにある程度進行しているので、適切な対策が重要です。さらに、予防を考えた場合には、痛みがでる前からの対策についても考えていくこともまた重要と考えます。その2点で、我々ができることがあるのではないかと思っております。

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