05 活動報告

2015.01.22

NIH短期研究留学に、坂入伯駿君が参加しました

基礎研究医養成プログラムでは、老人性疾患病態・治療研究センター平澤恵理先任准教授の紹介により、本年度より夏季休暇を利用したアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)への短期研究留学の支援を行うことになりました。今回、2014年7月28日~8月18日の22日間、当プログラム登録学生であるM5 坂入伯駿君がNIDCRのDr. Mark Hoonに研究指導を受けました。

留学体験記

坂入伯駿君

私は神経に関する研究を行いたいと考え、NIHでの短期研究留学を希望しました。2014年7月28日~8月18日の22日間、NIHのDr. Hoonの研究室(Laboratory of Sensory Biology)にて研究を行いました。Dr.Hoonの研究室では、TRPチャネルに関する研究を展開しており、今回の留学ではその研究に少し関わらせて頂きました。

私たちの皮膚には、様々な刺激を検知する為の小さな装置(“受容器”といいます)が全身に分布しています。私たちが温かい・冷たい・痛い・痒いといった皮膚感覚を適切に感じるには、これらの受容器が正しく刺激を検知し、その刺激の性質や強さといった情報を末梢神経、脊髄、そして脳へと正しく伝達していく必要があります。皮膚感覚に関する病気(手で触られただけで激痛を感じてしまう、等)には、この情報伝達の異常が原因と考えられているものもあるのです。このような情報伝達は、神経同士での様々な物質のやり取りで成り立っていることが知られていますが、どんな物質がどのような働きをしているのか、未だ解明されていない部分も多くあり、世界中で盛んに研究が行われています。“TRPチャネル(Transient Receptor Potential Channel)”とは、そんな感覚の情報伝達に関わっている、“受容体”のひとつです。神経細胞の表面に存在し、外からやってくる物質を受け取ったりイオンの通り道を作ったりする働きを持っており、これによって神経の働きを制御していることが知られています。

今回私が留学したDr. Hoonの研究室では、TRPチャネルのいくつかに注目し、それらが神経細胞で発現するタイミングを操作できる特別なマウス(“トランスジェニックマウス”といいます)の作製を進めておりました。そこで私は、同研究室のポスドクにご指導頂きながら、そのトランスジェニックマウス作製に必要な遺伝子のセット(“プラスミド”といいます)の作製を行いました。Dr.Hoonの研究室はつい最近建てられたばかりの研究棟内にあり、はからずもNIH内で最も綺麗で新しい研究環境の中で過ごすことが出来ました。興味が先行するばかりで技術的経験が少ない私に、ポスドクの方は根気よく指導をしてくださいました。短い留学期間の中で、思うような結果が出なかったときは少なからず焦りましたが、その度に「大丈夫、もう一度考えてみましょう」と言ってくださったことが印象に残っています。

また、今回留学の手筈を整えてくださったNIDCRの山田吉彦先生を始め、NIH内の日本人研究者の方々にもたくさんの助言を頂きました。また、日本食が買えるスーパーを教えてくださったり、休日にはテニスの試合観戦に連れて行って頂いたりと、オフの時間も楽しく過ごすことが出来ました。宿泊は、多くの留学生を受け入れている個人宅へのホームステイでした。今まで海外旅行さえしたことがなかったため最初は緊張しましたが、ホストファミリーも他の留学生も温かく迎えて下さり、とても楽しく快適に過ごすことが出来ました。夕方頃に帰宅してから、ホストマザーや他の留学生と談笑したり、励ましてもらったりしたことも良い思い出です。

今回の留学で、アメリカ最先端の研究環境の空気を肌で感じることが出来ました。真剣で真摯な研究姿勢の中にもどこか遊び心やおおらかさがあるような雰囲気がとても印象的でした。その一方で、研究の具体的な手法は私が日本の研究室で目にするものと殆ど変わらないという、ある意味では当然のことに改めて気づきました。NIHというだけで漠然とした憧憬を持っていた僕にとって、「NIHでも順天堂でも世界中どこでも研究の手技や手法は共通なのだ」という実感は、研究に対する見方を変え、自信を与えてくれるものでした。更に、技術的には、DNAを扱う実験の集中的なトレーニングを受けることができました。現在所属している薬理学講座でもDNAを扱う実験をしばしば行うため、スキルアップをはかれたことはとても有意義でした。

私は現在、「痛みや痒みの刺激はどのようにして全身から脳へと伝わるのか」ということに興味を持っています。今回プラスミド作製を行ったTRPをはじめ、温度感覚と痛み/痒み感覚の両方に関与する物質が明らかになってきており、またこれらの物質の相互作用についても様々な報告が相次いでなされています。今回の留学を通して、温度感覚の観点から感覚神経に対する理解を深めることができました。この知識や経験を今後の研究にフィードバックしていけたらと考えています。

  • 活動報告写真(1)