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科研費採択者インタビュー:スポーツが生み出す「感動」を科学する。人と社会を豊かにするスポーツの価値を探究
順天堂大学スポーツ健康科学部/順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
和田 由佳子 先任准教授
【科研費採択者インタビュー特集】研究の原点をたずねて ―スポーツ健康科学をひらく研究者たち
順天堂大学は、科研費の「スポーツ科学、体育、健康科学およびその関連分野」において、過去5年間に新たに採択された研究課題の累計数で全国第1位となりました。順天堂大学の採択実績
本特集では、科研費に採択された経験をもつスポーツ健康科学部の教員に焦点を当てます。どのような研究に取り組んでいるのかだけでなく、「なぜその研究に取り組むようになったのか」「研究成果がスポーツや健康、教育、社会にどのようにつながるのか」を、研究者自身の歩みや問題意識とともに紹介します。第4回は、スポーツマネジメントやスポーツマーケティングを専門とする和田 由佳子先任准教授です。
※科研費(科学研究費助成事業)とは:大学などの研究者が、新しい発見や社会の課題解決につながる研究を進めるために、国から交付される研究費です。研究者が提出した研究計画をその分野の専門家が審査し、研究の新しさや重要性、計画の実現可能性などが評価された研究課題が採択されます。詳細(JSPS)
#4 和田 由佳子 先任准教授
スポーツが生み出す「感動」を科学する。人と社会を豊かにするスポーツの価値を探究
スポーツを観戦して、思わず涙を流したり、興奮したり、誰かと喜びを分かち合ったりした経験はないでしょうか。同じ試合を観戦していても、人によって心を動かされる場面や、その理由は異なります。では、私たちはスポーツの何に感動し、その感動はどのように生まれるのでしょうか。
和田由佳子先任准教授は、スポーツマネジメントやスポーツマーケティングを専門とし、スポーツが人々や社会にもたらす価値について研究しています。特に近年は「感動」に着目し、人の心が動く仕組みを科学的に明らかにすることに取り組んでいます。
2026年度には、スポーツ観戦における感動の構造と、それが生まれるメカニズムの解明を目指す研究が、科学研究費助成事業(科研費)の基盤研究(C)に採択されました。スポーツビジネスの現場で経験した課題を原点に、スポーツの価値を学術的に解き明かそうとする和田先任准教授。その研究への思いと、スポーツが持つ可能性について聞きました。
*科研費 基盤研究(C)
「スポーツ観戦における「感動」の構造化とメカニズムの解明」
(小区分59020:スポーツ科学関連)
研究代表者:和田 由佳子(順天堂大学スポーツ健康科学部)
研究期間:2026年度~2029年度
研究課題番号:26K14347
研究テーマの概要
―現在取り組んでいる研究について教えてください。
私の研究の中心にあるのは、「スポーツが人や社会にどのような価値をもたらすのか」という問いです。これまで、スポーツチームのブランディングやスポーツと地域社会との関わりなど、スポーツビジネスやスポーツマーケティングの観点から研究を進めてきました。
現在、特に注目しているのが、スポーツ観戦における「感動」です。2026年度に科研費に採択された研究では、スポーツ観戦で生まれる感動がどのような要素から構成され、どのような仕組みによって生じるのかを明らかにすることを目指しています。
スポーツを観戦して感動したという経験は、多くの人にあると思います。しかし、何に感動したのか、その感動がなぜ生まれたのかを説明することは、意外に難しいものです。同じ試合を観ても、選手のパフォーマンスに感動する人もいれば、選手が積み重ねてきた努力、あるいは観客同士の一体感に心を動かされる人もいます。
こうした感動の構造と、それが生まれるメカニズムを科学的に明らかにすることで、スポーツ観戦が持つ価値を新たな視点から捉えたいと考えています。

現在の研究に取り組むようになったきっかけ
―スポーツの価値や「感動」に関心を持つようになったきっかけを教えてください。
私が研究するようになった原点には、スポーツビジネスの現場での経験があります。1990年代後半には、企業スポーツの活動が次々と休廃部になる状況を目の当たりにしました。企業がスポーツを支援する意義とは何なのか。なぜスポーツが必要なのか。休廃部に至る理由は、企業の経営状況だけではなく、競技面での成果だけでは測れない企業スポーツの意義について、十分な議論やそれを踏まえたマネジメントがなされていなかったことも一因だったと捉えています。
スポーツが持つ価値を感覚的に語るだけではなく、研究によって明らかにしたいと考え、社会人として働きながら大学院に進学しました。そして、「感動」という言葉に関心を持つようになったきっかけの一つに、プロ野球の監督を歴任された梨田昌孝さんのマネジメントに携わっていた時の経験があります。梨田さんは、サインを書く際に「夢と感動」という言葉を添えていました。あるとき、「夢と感動は英語で何と言うのか」と尋ねられ、感動という言葉を英語で表現することの難しさを感じました。
スポーツの世界では、「感動」という言葉が頻繁に使われます。例えば、男子プロバスケットボールのBリーグは、「感動立国」をビジョンとして掲げています。また、東京2020オリンピックのモットー「United by Emotion」は、参考和訳として「感動で、私たちは一つになる」と表現されました。しかしながら、「感動とは何か」の答えは容易ではなく、スポーツがもたらす「感動」とは何なのだろうか、という疑問が現在の研究につながっています。
感動という体験が人々の生活や人生を豊かにするならば、スポーツ観戦における感動の正体を明らかにすることは、大きな意味があると考えています。

プロ野球の監督を歴任された梨田昌孝さんのサイン色紙
研究を通じて明らかにしたいこと
―スポーツ観戦における感動について、具体的に何を明らかにしたいと考えていますか。
まずは、スポーツ観戦においてどのような感情や体験が感動という言葉で表現されているのか、感動の要素を明らかにしたいと考えています。感動の構造を整理したうえで、感動がどのような条件で生まれるのか、そのメカニズムを解明したいです。
スポーツ観戦の醍醐味は、何といっても勝敗の行方や選手のパフォーマンスにあります。しかし、これらはスポーツ組織やイベントの運営者がコントロールできるものではありません。楽しみにしていた試合でも、応援しているチームが負けたり、好きな選手が出場しなかったり、天候が悪かったりすることがあります。スポーツ観戦は、期待していた体験が得られない可能性が非常に高いのです。
近年では、飲食サービスやさまざまな演出、ラグジュアリーな観戦環境など、スタジアム・アリーナで試合以外の体験を充実させる取り組みが進んでいます。これらは重要ですが、一方で観戦チケットの価格が高騰し、誰もが気軽に観戦することが難しくもなっています。だからこそ、改めてスポーツ観戦の中核となる勝敗や選手のパフォーマンスそのものが生み出す感動に目を向けることが重要だと考えています。
例えば、素晴らしいパフォーマンスを目にした瞬間に感動することもあれば、その記録がどれほど優れているのかを後から知ることで、感動がさらに大きくなることもあります。また、選手の背景やこれまでの経験を知っているかどうかによっても、受け止め方は異なるでしょう。
こうした感動の違いや、それを生み出す要因を明らかにすることで、スポーツ観戦の価値をより深く理解できるのではないかと考えています。

スポーツ、健康、教育、社会へのつながり
―研究成果は、スポーツや社会にどのようにつながると考えていますか。
スポーツ観戦が人々の幸せや健康、ウェルビーイングにどのように貢献できるのかを考えることは、私たちにとって重要な課題です。観戦チケットの価格が上昇しているにもかかわらず、チケットの入手が困難な試合もあります。それだけ、その試合の観戦は人生において特別な価値をもたらす経験なのでしょう。しかしながら、スポーツ観戦が社会にもたらす価値はもっと多様なはずです。その価値を誰がどのように享受できるのかということを考える必要性を感じています。
高齢の方や、試合会場から遠く離れた地域に住んでいる方など、会場に足を運ぶことが難しい人もいます。デジタルや情報通信技術が劇的に進化する今日、スポーツ観戦における感動のメカニズムの解明していくことは、必ずしも試合会場に行かなくても、それぞれの生活環境に合った新しい観戦体験を提供できる可能性があります。
自宅でのメディア観戦に加え、単に試合会場の雰囲気を別の場所で再現するだけではなく、そこに暮らす人々の状況に合わせた観戦のあり方を模索することで、スポーツ観戦が人々の日常を豊かにし、人生の思い出となり、さらには地域や社会を元気にすることにつながってほしいです。
研究によって明らかになった知見を、スポーツビジネスの実践に携わる方々とも共有しながら、社会のさまざまな課題と結びつけていきたいと考えています。

これから挑戦したい研究
―今後はどのような研究に取り組みたいと考えていますか。
これからも、スポーツが人や社会にどのような価値をもたらすのかというテーマを追究していきたいと考えています。現在の感動研究については、まず感動の構造やメカニズムを明らかにすることが重要です。その先には、研究で得られた知見を生かして、人々の心を動かす新たな観戦体験を生み出すことにもつなげていきたいです。
感動を捉えるには、スポーツマネジメントだけでなく、生理的・認知的指標など、他の学問領域との連携も必要になると考えています。順天堂大学には多様な専門領域があるので、本学において研究領域を融合させた研究にも挑戦できるのではないかと思っています。
また、もう一つ関心を持っているのが、日本独自のスポーツの発展のあり方です。日本では、学校体育や企業スポーツなど、欧米とは異なる形でスポーツが発展してきた歴史があります。近年、日本の代表チームや選手が世界のトップレベルで活躍するようになっています。その背景には、長年にわたりスポーツを支えてきた企業や組織の存在があります。
これまでスポーツビジネスの研究や実践では、欧米の先行事例から多くを学んできました。しかし、日本が歩んできたスポーツの発展の過程にも、世界に示すべき価値があると考えています。我が国の国際競技力が高まる中、日本のスポーツ文化の中で発展してきたスポーツビジネスの在り方を研究によって可視化し、国際的に発信していきたいです。
私自身は、スポーツの現場に長く携わり、アカデミックの世界に身を置くようになりました。だからこそ、スポーツが人々や社会にもたらす価値を明らかにし、その成果を実践に還元することは、これからも私の研究の中心にあります。

学生に伝えたいこと
―スポーツ健康科学を学ぶ学生に、どのようなことを伝えたいですか。
「将来はスポーツに関わりたい」と研究室を訪ねてくれる学生も多く、とても嬉しく思っています。その一方で、学生の皆さんには、「スポーツに関わる」とはどういうことなのかを、自分なりに考えてほしいと思っています。
スポーツチームで働くことやスポーツイベントに携わることをイメージしている人も多いようですが、スポーツをマネジメントするということは、単に好きなスポーツや選手の近くにいることとは異なります。例えば、人はなぜスポーツを観戦するのか、今社会では何が起きているのか。そうしたことを自ら調べ、課題を発見していく姿勢が必要です。
また、スポーツの現場には、人生をかけて競技に取り組む選手や、それを支える監督、コーチがいます。彼らは、最初から大きな記録を残せるわけではありません。日々の小さな積み重ねが大きな記録、大舞台へとつながっています。私が携わる研究領域は、試合の臨む彼らがいるからこそ成立します。スポーツをマネジメントするということは、そうした人々と向き合うことでもあります。その重みを理解し、選手たちと同じように目の前の一つひとつのことに向き合い、その中で自ら感じ、考え、学んでいく、そうした積み重ねを大事にしてほしいです。
スポーツは社会のさまざまな分野とつながっており、その関わり方は無限です。「スポーツチームで働きたい」、「スポーツイベントに携わりたい」という思いは大切ですが、そこだけに自分の可能性を限定してほしくありません。
私自身、社会人として働きながら大学院に進学しました。現在もスポーツビジネスの実務に携わる方々が、改めて大学院で学ぶケースが増えています。実際にスポーツの世界で働いている人たちも学び続けているのですから、学生の皆さんにも、大学生活のなかで積極的に学び、さまざまな知識や経験を吸収してほしいです。
スポーツに関わりたいという気持ちを出発点に、自分自身の可能性を広げてください。答えが一つではないから難しく、だからこそ自分自身を豊かにする問いだと思います。
高校生・受験生へのメッセージ
―スポーツ健康科学に関心を持つ高校生や受験生に、メッセージをお願いします。
スポーツマネジメントという学問に興味を持ってくださる高校生が増えていて、この分野への興味が広がっていることを実感しています。スポーツ観戦が好きだったり、応援しているチームや選手がいたり、スポーツの大会で感動したり、そうした経験が興味を持つきっかけになっているのではないでしょうか。
スポーツマネジメントが具体的にどのような学問なのか、まだよく分からなくても構いません。「面白そう」「もっと知りたい」という気持ちが、大切な入り口になると思います。例えば、応援しているチームが負けたり、期待していた選手が活躍できなかったりして、スポーツ観戦はがっかりすることが多々あります。それでも、また試合を見たい、応援したいと思う人たちがいます。それはなぜなのでしょうか。そうした身近な疑問から人々の心や行動を理解し、その背景にある仕組みを考えていくことが、スポーツマネジメントにおける研究の面白さの一つです。
人がスポーツ観戦によってワクワクしたり、感動したりする経験には、その感情が生まれる理由や仕掛けがあります。スポーツマネジメントでは、そうした仕組みを研究し、実践の場で新たな価値を生み出す可能性を秘めています。大学では、スポーツを楽しむだけでなく、人々をワクワクさせる仕組みについても学んでください。
「スポーツでワクワクする人から、スポーツを通じて人や社会をワクワクさせる人へ」。
そのプロセスを楽しみながら、一緒に、スポーツを通じて感動を創造できる人を目指しましょう。

■教員紹介
スポーツ健康科学部 和田 由佳子 先任准教授
https://www.juntendo.ac.jp/academics/faculty/hss/staff/00470.html
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