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2021.02.25 (THU)

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コロナ禍の大学生の体格・体力と運動・スポーツ活動に伴う生活の変化を調査

緊急事態宣言期間中でも8割以上の学生が自主的に運動を実施と回答
一方でスマホ・PCなどの視聴時間は昨年よりも著しく増加

順天堂大学スポーツ健康科学部(学部長:吉村雅文)は、コロナ禍であった昨年10月、同学部に在籍する学生を対象とした体格・体力測定(1年生のみ対象)と運動・スポーツ実施状況等に関するWeb調査(1~4年生までの全学生対象)を実施しました。
調査結果のポイント
  1. 緊急事態宣言期間中であっても80%以上の学生が自主的に運動・スポーツを実施
  2. スポーツ活動が制限されたことで、食事量や栄養バランスを意識
  3. ディスプレイ視聴時間が著しく増加。6時間以上と回答した学生の割合が昨年と比べて約4倍に
  4. 運動・スポーツ活動の変化から、60%以上の学生が筋力と持久力の低下を実感
  5. 測定結果は例年並み。宣言期間中の自主的な運動の実施や解除後の活動で回復か

調査概要

1)調査日:2020年10月21日(水)

2)対象および測定・調査の内容について
① 体格・体力測定
  • スポーツ健康科学部の1年生(対象:男性253名、女性166名、参加率:90.7%)
  • 測定項目は、体重(ロードセル式重量計)、握力(スメドレー式握力計)、立ち幅とび・反復横とび(スポーツ庁新体力テスト準拠)について、十分な感染予防対策を講じたうえで実施しました。

② 運動・スポーツ実施状況等に関するWeb調査
  • スポーツ健康科学部の1~4年生:1635名(対象:男性999名、女性636名、回答率:74.2%)へのアンケート調査
  • 調査内容は、例年実施している運動・スポーツ活動や生活習慣に関する項目に加え、今回はコロナ禍であったことを鑑み、新たに緊急事態宣言期間前と期間中(4月から5月頃)の運動・スポーツ活動に関連した変化(運動・トレーニング:量、強度、内容、環境)、食習慣の変化(量、バランス)、TV・スマホ・PC・ゲーム等のディスプレイ視聴時間の変化(授業外・授業内)、運動・スポーツ実施状況の変化(組織的活動、自主的活動)についても調査しました。

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立ち幅とび

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反復横とび

調査背景/目的

順天堂大学スポーツ健康科学部では、同学部の全学生(1年生~4年生)を対象とした体格・体力の測定(体格体力累加測定)を1969年から毎年実施し、スポーツ系大学生の基礎体力および形態データを蓄積してきました。2016年からはスポーツ健康医科学研究所の研究プロジェクト(順天堂大学体格体力累加測定研究:Juntendo Fitness Plus Study、略称J-Fit+ Study)として位置づけ、青年期の体格・体力、運動・スポーツ実施、ケガの経験や遺伝情報などと成人期以降の健康やスポーツキャリアの関連性について、蓄積データを活用した研究を進めています。現在1万人を超える同窓生の大規模な追跡調査の結果から、これまでに多くの研究成果を報告しています。
(J-Fit+ Study 業績リスト:https://www.juntendo.ac.jp/jfit/ja/result.html
しかしながら、2020年はコロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により、体格体力累加測定の実施が危ぶまれました。同学部のあるさくらキャンパス(千葉県印西市)でも、4月~5月の約2ヶ月間は学生のキャンパス立ち入りを禁止し、インターネットを活用した遠隔授業を実施、6月以降も運動施設の利用は制限されました。例年とは異なる状況の中、COVID-19に起因する学生の体格・体力や運動・スポーツ実施への影響を調べることの社会的価値などを鑑み、緊急事態宣言期間前・期間中の運動・スポーツ活動や食習慣などに関連した変化についても新たにWeb調査項目に加えて、現地測定の対象者の限定(1年生のみ)、測定場所での3密回避など十分な感染防止策を講じたうえで、例年通り10月に測定・調査を実施しました。本測定・調査の報告書は「順天堂スポーツ健康科学研究」第12巻に早期公開されました。
(報告書URL:https://www.juntendo.ac.jp/hss/library/research/pastV12.html

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Web調査の画面
調査結果の詳細

【1】緊急事態宣言期間中であっても80%以上の学生が自主的に運動・スポーツを実施

Web調査結果より、緊急事態宣言期間中(4月から5月頃)の運動・スポーツ実施状況については、学内外の施設を利用した運動部や同好会の活動が完全に禁止されていましたが、84.3%(男性85.2%、女性83.0%)の学生が自宅や自宅周辺の限られた環境の中で自主的に体を動かしていました(平均で週3日、1日あたり1時間程度の活動:図1)。また、運動部や同好会では、施設を利用した活動が禁止されていた中でも、27.5%(男性25.0%、女性31.1%)の学生は何かしらの方法を用いて組織としての活動を維持していました。回答から、インターネットを用いた通話アプリ(LINEやZOOM)を利用して学生同士の自宅をつなぎ、筋力トレーニングなどを行っていたことがわかりました。

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【2】スポーツ活動が制限されたことで、食事量や栄養バランスを意識

緊急事態宣言期間前と期間中(4月から5月頃)における食習慣の変化については、食事量が増えたと回答した割合よりも減ったと回答した割合の方が多く、それは男性(29.0%)よりも女性(44.0%)で多い傾向にありました。栄養バランスについては、悪化したと回答した割合(18.4%)よりも改善したと回答した割合(27.3%)の方が多い結果となりました。運動・スポーツ活動の制限によるエネルギー消費量の減少を考慮して、食事量や栄養バランスを意識していた学生が一定数いたことがうかがえます。

【3】ディスプレイ視聴時間が著しく増加。6時間以上と回答した学生の割合が昨年と比べて約4倍に。

1日のTV・スマホ・PC・ゲーム等のディスプレイ視聴時間(表1)については、インターネットを利用した遠隔授業開始前の時期(4月から5月11日)は1日平均5.4時間、遠隔授業開始後の時期(5月12日から5月末)は授業外で1日平均4.1時間、授業内で1日平均3.6時間の視聴時間でした。前年度に行った調査では、6時間以上が9.5%、2時間以上6時間未満が82.4%、2時間未満は8.0%であったことを鑑みると、今回の調査ではディスプレイ視聴時間が著しく増加していることが分かります。例えば、6時間以上の割合で見ると、授業開始前の時期が40.3%であり、昨年度と比べて約4倍に増加しました。

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表1:緊急事態宣言期間中の1日のTV・スマホ・PC・ゲーム等のディスプレイ視聴時間

【4】運動・スポーツ活動の変化から、60%以上の学生が筋力と持久力の低下を実感

緊急事態宣言期間中の運動・スポーツ活動に関連した変化については、運動・トレーニングの量、強度、内容、環境、いずれについても減った、下がった、悪化したといった回答が60%以上でした。体力の変化については、筋力や持久力の低下を実感している学生が60%以上いるのに対して、調整力や柔軟性についてはその低下を実感している学生は過半数を下回りました(表2)。したがって、緊急事態宣言期間中の運動・スポーツ活動の制限は、調整力や柔軟性よりも筋力や持久力の低下に影響していた可能性がうかがえます。

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表2:緊急事態宣言期間前後の体力の自覚的変化

【5】測定結果は例年並み。宣言期間中の自主的な運動の実施や解除後の活動で回復か

体格・体力測定を実施する10月までに、例年の1年生は入学直前の3月末に全員が寮生活を始め、その大半が大学の運動部や同好会等の活動に参加していました。一方、今年度は入寮を8月末としたことから、例年よりも5ヶ月程度、活動の開始が遅れ、体力の低下が想定されましたが、体格・体力測定の結果から、昨年度と今年度の体格・体力を比較しても、その差は必ずしも大きくないことがわかりました(表3)。理由として、緊急事態宣言期間中に筋力や持久力の低下を実感している学生が過半数を超えていたものの、80%以上の学生が自主的に運動・スポーツを実施していたことや、入寮以降に運動部や同好会等の活動に参加することを通して、体力を維持・回復させることができていたと考えられます。
また、体重の変化については、男女で異なる傾向を示しました。男性では体重が昨年よりも増加したのに対して、女性では低下しました。女性では、緊急事態宣言期間中に食事量を減らした学生が男性よりも多くいたことから、食事量の減量が体重の減少に影響を及ぼした可能性があります。

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表3:2020年度と2019年度の体格・体力:平均値<1年生>
調査結果を受けて ~調査グループからのコメント~
COVID-19に起因する運動・スポーツ環境の変化は様々な人々の意識と行動を変えています。研究の視点では、COVID-19の世界的蔓延とそれに伴うロックダウンなどでの行動制限が、身体活動量や心理面に及ぼす影響を検討した研究が学術雑誌で多く報告されました。しかし、携帯端末やインターネット調査を用いて行うことができる行動調査とは異なり、体力テストは対象者と接触して測定せざるを得ないため、感染者の医療機関内での回復過程を観察した研究を除けば、体力に及ぼす影響を検討した研究報告はこれまでにありませんでした。したがって、コロナ禍における一般学生の体格・体力を報告した本調査は資料的価値があるといえます。また、2020年は文部科学省による全国体力・運動能力、運動習慣等調査(全国体力テスト)も中止されるなど、COVID-19の感染拡大の影響を大きく受けた年でしたが、このようなコロナ禍においても、スポーツ健康科学の高等教育機関として体格・体力測定が実施できる方法を示した意義も大きいと考えています。
この体格体力累加測定は、今後も継続して実施していくことから、COVID-19の長期的影響についても追跡調査を通して検討することが可能となります。また、本データは順天堂大学スポーツ健康医科学研究所のJ-Fit+ Studyの一環として、匿名化したうえで広く研究等に二次利用することを想定しており、他研究機関との共同研究としても発展が期待されます。
※体格体力累加測定の実施や運営に関する詳細は、別途報告予定です。
<関連リンク>
順天堂大学スポーツ健康科学部:https://www.juntendo.ac.jp/academics/faculty/hss/
スポーツ健康医科学研究所:https://research-center.juntendo.ac.jp/hss/
J-Fit+ Study:https://www.juntendo.ac.jp/jfit/ja/
JUNTENDO SPORTS:https://www.juntendo.ac.jp/sports/

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