静岡災害医学研究センターは、文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の地方強化枠に選定され、2015年に、順天堂大学医学部附属静岡病院の敷地内に開設されました。同病院は伊豆半島に立地し災害拠点病院に指定されており、大規模地震や台風、富士山噴火などの自然災害発生時には中心的な機能を発揮することが求められます。この地の利を生かし、災害医療についてさまざまな角度から研究を行っています。同センターの現状と展望について、センター長の佐藤浩一順天堂大学静岡病院長にお聞きしました。
地域行政との連携を図りながらプロジェクト推進
静岡災害医学研究センター設立時に、文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の選定を受けた研究テーマは大きく2つあります。「大規模災害に備えた組織体制構築」と「災害・救急時の傷病に対する予防・治療開発に関する基礎研究による研究基盤の拠点形成」です。災害に強いシステム、医療技術を発信し、優秀な人材を育成することを通じて防災・減災に貢献することを目的としています。地域行政との連携を図りながら、順天堂大学の持つ医療資源や静岡病院の立地条件を最大限に生かした研究を行っています。
日本全体の災害医学研究の中心的存在を目指して
自然災害はもちろんのこと、人的要因の環境破壊による気候変動や野生動植物の異常出現、新型ウイルスの出現をも災害ととらえることができます。これら災害は人体に激しいストレス暴露を侵し、病気を発症したり、後天的に影響を及ぼしたりすることがあります。当センターでは災害と臨床を結びつけた研究活動を推進しています。日本全体の災害医学研究を牽引する存在として、研究成果を地域社会に還元し、優秀な人材の育成、災害に対応できる安心な暮らしへの貢献のために、順天堂大学の総力を挙げて取り組んでいます。
今後も「災害・救急時の傷病に対する予防・治療開発に関する基礎研究」、「順天堂大学全学部の知恵を集結した自然災害に対する医療技術的観点からの防災・減災に関わる教育技法を含む研究とシステムの構築」、「産学官民の協力による医療に関する地域防災情報ネットワークの形成をはじめ、地域の防災計画やリスクマネジメントへの医療分野での協力と支援」、「大規模災害勃発時の現地調査、情報提供、医療、健康維持への取り組み」、「競争資金獲得による研究設備・施設・人材の充実による研究の活性化」を目標としています。
3研究室体制で研究を推進
当センターは、「防災システム研究室」、「災害医学研究室」、「災害医学疾患モデル研究室」の3つのテーマ別研究室に分類して活動しています。
防災システム研究室(室長:柳川洋一副センター長/救急診療科教授)では、災害医学に関わるシステム運用や新技術の開発、教育・訓練の普及についての検証や組織体制の構築に関わるような研究を進めています。救急隊員が患者さんを見ている画像を遠隔の搬送先病院に送ることができるスマートグラスの実証試験は、防災システム研究室の課題の1つです。災害医学研究室(室長:佐藤浩一センター長/外科特任教授)では、災害時に多く発生すると考えられる外傷患者への治療などの臨床的な対処方法、災害時における疾病・合併症の病因・病態解明について研究しています。外傷やストレスによって体内にどのような物質が増えるのか、それがどのくらいの高値になると生命にどんな影響を及ぼすかを動物実験を通して研究しているのが、災害医学疾患モデル研究室(室長:土至田宏眼科先任准教授)となっています。設備としては、動物実験室、動物飼育室、細胞実験室、共同研究室2部屋を備えており、BSL2エリアとしています。
静岡病院の全診療科から研究計画を募集
当センター設立時の研究プロジェクトは2019年度までの5年間の活動でしたが、この5年間の実績に基づき、「大規模災害に対応する包括的医療提供体制の構築」に関する研究活動を2020年度からも継続して推進しています。毎年度、順天堂大学医学部附属静岡病院の全診療科を対象に研究計画申請の募集を実施し、医師に限定せずに、幅広く研究者を受け入れており、施設・設備の最適化や研究・実験体制の強化など改善活動にも積極的に取り組んでいます。また、スタッフによる試験・実験サポート数は、現在、センター設立時の6倍の19テーマ(12研究者)に増え、活気ある研究活動を遂行できる体制が構築されています。
2023年度の代表的研究として、プログレスミーティングで報告された2つの課題が挙げられます。1つは、病院前救急活動に「医療×消防×企業」が連携し通信機能付きスマートグラスを活用した本邦初の研究です。これは、救急隊が傷病者を救急車内に収容してから病院に到着するまでの救命活動中に、隊員にスマートグラスを装着してもらい、傷病者の病態やモニター波形、受傷部位を搬送先病院へ伝送するものです。1回目の試験では通信環境の不安定さが明らかとなったものの、病院前救急活動時間を短縮することができ、搬送先では傷病者受け入れ態勢を早期に構築することができ、救命の一助となることが検証できました。2回目の試験では、通信環境を安定化させた改良版スマートグラスを用いて実施し、災害が発生した時にも導入することを見込み、活用が期待されています。
2つ目は、災害時に生じると予想される、さまざまな外傷による広範な皮膚潰瘍に対する新たな治療法開発を目指す研究です。比較的容易に多量の採取が可能な、脂肪組織由来幹細胞から表皮角化細胞様細胞への分化誘導法を開発しました。この細胞の有効性を検証する目的で、VII型コラーゲン遺伝子変異により表皮と真皮を結合する係留線維に異常を生じ、全身の表皮が容易にむける難治性疾患である栄養障害型表皮水疱症のモデルマウスの皮膚に投与した結果、水疱形成が抑制されて、係留線維の発現がみられ、治療実験に成功し、特許取得に至りました。順天堂大学革新的医療技術開発研究センターの支援を受け、臨床応用への実現に向けて、検証実験を継続中です。
静岡病院の全診療科から研究計画を募集
当センター設立時の研究プロジェクトは2019年度までの5年間の活動でしたが、この5年間の実績に基づき、「大規模災害に対応する包括的医療提供体制の構築」に関する研究活動を2020年度からも継続して推進しています。毎年度、順天堂大学医学部附属静岡病院の全診療科を対象に研究計画申請の募集を実施し、医師に限定せずに、幅広く研究者を受け入れており、施設・設備の最適化や研究・実験体制の強化など改善活動にも積極的に取り組んでいます。また、スタッフによる試験・実験サポート数は、現在、センター設立時の6倍の19テーマ(12研究者)に増え、活気ある研究活動を遂行できる体制が構築されています。
2023年度の代表的研究として、プログレスミーティングで報告された2つの課題が挙げられます。1つは、病院前救急活動に「医療×消防×企業」が連携し通信機能付きスマートグラスを活用した本邦初の研究です。これは、救急隊が傷病者を救急車内に収容してから病院に到着するまでの救命活動中に、隊員にスマートグラスを装着してもらい、傷病者の病態やモニター波形、受傷部位を搬送先病院へ伝送するものです。1回目の試験では通信環境の不安定さが明らかとなったものの、病院前救急活動時間を短縮することができ、搬送先では傷病者受け入れ態勢を早期に構築することができ、救命の一助となることが検証できました。2回目の試験では、通信環境を安定化させた改良版スマートグラスを用いて実施し、災害が発生した時にも導入することを見込み、活用が期待されています。
2つ目は、災害時に生じると予想される、さまざまな外傷による広範な皮膚潰瘍に対する新たな治療法開発を目指す研究です。比較的容易に多量の採取が可能な、脂肪組織由来幹細胞から表皮角化細胞様細胞への分化誘導法を開発しました。この細胞の有効性を検証する目的で、VII型コラーゲン遺伝子変異により表皮と真皮を結合する係留線維に異常を生じ、全身の表皮が容易にむける難治性疾患である栄養障害型表皮水疱症のモデルマウスの皮膚に投与した結果、水疱形成が抑制されて、係留線維の発現がみられ、治療実験に成功し、特許取得に至りました。順天堂大学革新的医療技術開発研究センターの支援を受け、臨床応用への実現に向けて、検証実験を継続中です。
災害対応に長けた人材育成・地域との連携を重視
当センターは順天堂大学医学部附属静岡病院内にあり、薬剤部のスタッフや看護師などを含め本病院の全職員がセンターを利用できます。研究そのものも重要ですが、職員と災害に関する研究を共に行い、情報を共有することで、災害対応に長けた人材育成も重要と考えています。前述した通信機能付きスマートグラスの導入試験や皮膚潰瘍の新規治療法開発のほか、「災害時被災者におけるロコモティブシンドロームおよび運動器不安定症患者の診断」、「教育工学に基づいた災害看護教育プログラムの開発」など災害・救急時における診断や教育に関する研究にも力を入れています。
順天堂大学静岡病院は、救命救急センター、総合周産期母子医療センター、ドクターヘリ(管轄範囲:静岡県中部・東部・伊豆半島)を擁する県の災害拠点病院でもあり、地域住民参加型の公開講座などを積極的に開催しています。これからも当センターは、災害・救急時の傷病に対する予防・治療に関する研究成果を地域住民と共有し、災害医学研究の中心的存在として人材育成や社会貢献に取り組んでいきたいと考えています。
研究者Profile
佐藤 浩一
Koichi Sato
大学院医学研究科静岡災害医学研究センター
センター長