当研究室は2016年10月に新設された新しい組織です。
医学の基礎である分子生物学・細胞生物学のいろいろな領域の中で、糖鎖の科学を基盤とする糖鎖生物学は異色かつ未開拓です。ヒトゲノムの全構造が解明され、分子生物学のセントラルドグマ(遺伝子→タンパク質→細胞→多細胞生物)に基づいて生命現象や疾患の理解が可能になった今日でも、多細胞生物のなりたち、恒常性維持のしくみ、異常事態の起こり方、それらに対する防御と修復がどのように進むかを理解するには、多細胞の高等動物で特に多様で細胞の外側に豊富に存在する糖鎖に注目する必要があります。このような考えに基づく糖鎖生物学の成果が、ようやく難病の診断と治療に応用できるようになってきました。
私たちヒトが持つタンパク質で細胞外において働いているものは、ほとんどすべてに糖鎖が付加していることが、従来あまり注目されていなかったセリン・スレオニンに直接結合するO-結合型糖鎖も考慮すると事実であると考えられます。またこれらの糖鎖は構造的な多様性は限られていても、タンパク質が異なる細胞や異常が起こった細胞で産生される時、付加位置や構造が異なる可能性が高いと考えられます。このような糖鎖とタンパク質との組み合わせがもつ特徴を、難病の診断と治療に役立てるためには、病理標本からの糖鎖-タンパク質複合体解析技術の微量化や、糖鎖とタンパク質の複合体を認識する新しいタイプの抗体の開発が必要とされています。
このような、生化学や免疫学を背景とする世界に類を見ない新しい試みを、順天堂の診療科でデマンドの大きい難病の診断と治療に解決法を見出すことを念頭に、診療科との協力のもとに進めていきたいと考えております。
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