ダイレクトリプログラミングとは
What is Direct Reprogramming ?
What is Direct Reprogramming ?
「ダイレクトリプログラミング」とは、体の中にある体細胞1)を目的とする全く性質の異なる細胞へ直接変える「直接分化転換」と呼ばれる技術です。この技術は、iPS細胞2)やES細胞3)などの未分化な幹細胞を経ることなく、既に分化した細胞を別の種類の細胞に直接変換する方法です。特に転写因子4)を用いて特定の細胞を直接別の細胞に変換するアプローチが注目されています。
今後、病気で傷ついた臓器や細胞を治療するために、この技術を使って健康な細胞を作り出すことができると期待されています。
私達は、線維芽細胞などの体細胞から超高効率でグルコースに応答してインスリンを分泌する細胞の作出に成功しました。このとき、私達が同定したK因子が体細胞と膵β細胞の間に立ちはだかる壁(垣根)を下げる能力を発揮します(上の図の上側参照)。この現象は、ダイレクトリプログラミングと呼ばれ、画期的な細胞の運命を変換する技術です。
転写因子の導入
特定の転写因子(遺伝子の発現を制御するタンパク質)を分化した細胞に導入することで、細胞の運命を変える方法です。この転写因子は、細胞を他の種類に「リプログラム(プログラムされた情報を書き換える)」する役割を果たします。
Direct ReprogrammingまたはDirect Conversion(直接変換)、Trans differentiation(分化転換)、直接分化転換、細胞運命変換と呼びます。
ダイレクトリプログラミングの現象は、遺伝子情報を司る核内に存在する凝集したクロマチン5)構造をダイナミックに変換させて、オープンクロマチン構造を作り出して、特定の目的とする遺伝子の発現を誘導することに裏付けられます(上の図の下側参照。紫色の線:遺伝子(DNA)、グレー色:クロマチン、左側:凝集したクロマチン構造、紫色・青色・緑色:転写因子、転写因子がインスリン遺伝子の制御配列に結合しているオープンクロマチン構造を示しています)。
iPS細胞のように一度未分化の多能性幹細胞を作り直さなくても、必要となる目的の細胞を直接作ることができるので、治療までの時間を短縮し、コストも抑えることができます。また、未分化な状態に戻す作成プロセスをスキップすることができるため、造腫瘍性リスクを低減させることができます。
ES細胞の作製には倫理的な問題や技術的な課題が伴いますが、ダイレクトリプログラミングではそのような問題を避けることができます。
既に分化した体細胞から必要となる特定の機能や表現型を有する細胞を直接作り出すことができるため、機能が失われた遺伝子、細胞や臓器の機能回復や新たな治療法の開発に大きな可能性を秘めています。
1) 体細胞
体を構成しているすべての細胞のことを指します。
2) iPS細胞
iPS細胞(人工多能性幹細胞、Induced Pluripotent Stem Cells)は、成人の体細胞に特定の遺伝子を導入することで、初期の胚性幹細胞のような状態に戻すことができる細胞です。
3) ES細胞
ES細胞(胚性幹細胞、Embryonic Stem Cells)は、受精卵が最初に分裂してできた胚の段階から取り出した細胞です。あらゆる種類の細胞に分化することができる「多能性」を持っています。
4) 転写因子
遺伝子の情報を使って細胞内で特定の遺伝子の発現(働き)を調整するタンパク質です。
5) クロマチン
DNAにタンパク質(ヒストン)が巻き付いている複合体です。クロマチンは、遺伝子発現の調整、細胞分裂の準備、DNAの保護などの重要な役割を果たしています。