現在の治療法

標準治療法

1型糖尿病および膵全摘術後の患者さんに対しては、現在、インスリン補充療法および膵島移植が主な治療法として用いられています。インスリン補充療法は血糖コントロールを維持するために不可欠ですが、日常的な注射や自己管理の負担が伴います。一方、膵島移植は内因性のインスリン分泌機能の回復を目指す治療法であり、一定の効果が報告されているものの、ドナー不足や免疫抑制の副作用など、普及には課題が残されています。

インスリン注射
インスリン注射とは

1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が破壊されることでインスリンの自己分泌が著しく低下または消失し、体内での血糖調節が困難になります。このため、外部からインスリンを補充する治療が不可欠となります。
インスリン補充療法の中心となるのがインスリン注射であり、血糖値を適切な範囲に保つために、日々の生活の中で継続的かつ計画的にインスリンを投与する必要があります。これは、血糖変動を抑え、合併症のリスクを低減させるための重要な治療手段です。

インスリン注射の課題

インスリン注射による血糖管理は、日々の自己測定、食事、運動、ストレス管理といった多岐にわたる要因を考慮しながら、インスリンの投与量を適切に調整する必要があります。この自己管理の負担は患者さん本人だけでなく、ご家族や介護者にも大きな影響を及ぼします。
さらに、インスリンの過剰投与は低血糖を引き起こすリスクがあり、重篤な場合には意識喪失や昏睡、さらには生命に関わる危険を伴います。こうしたリスクを回避するには高度な知識と日常的な注意が求められ、生活の質(QOL)にも大きく影響します。
そのため、多くの1型糖尿病の患者さんとそのご家族は、より安全で簡便、かつ負担の少ない治療法の開発を強く望んでいます。これは医療現場だけでなく、再生医療や細胞治療技術の革新によって解決が期待される重要な課題です。

膵島移植
膵島移植とは

膵島移植は、インスリンを分泌する膵島(ランゲルハンス島)細胞をドナー膵臓から分離し、レシピエント(主に1型糖尿病の患者さんや膵全摘術後の患者さん)の肝門脈へ点滴注入する再建術です。移植された膵島は肝臓内で血流を得て生着し、内因性インスリン分泌機能の回復をめざします。外部インスリンに依存しない血糖コントロールを実現できれば、低血糖発作や日常的な自己注射による負担を大幅に軽減できる可能性があります。

膵島移植の課題

膵島移植は、度重なるインスリン注射が必要なくなるメリットがありますが、ドナーが不足していることと免疫抑制剤の長期の服用が必須となることの課題があげられます。免疫反応で細胞が拒絶されるため、免疫抑制剤を長期間使う必要があります。しかし、免疫抑制剤の服用は、副作用、がん化、腎障害が問題点としてあげられます。また、移植時の炎症により約6割以上の膵島細胞が死滅する問題点もあります。
なお、小児患者さんには免疫抑制剤が適用できないなど、すべての患者さんに適した方法ではありません。
従って、膵島移植治療は、全ての1型糖尿病の患者さんに対して血糖管理負担の低減など、満足のいく治療を提供するには課題が残されています。

top