順天堂大学 研究ブランディング
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医学・スポーツを融合したメタボ・介護予防

長く健やかな老後を過ごすために!
運動習慣と骨粗鬆症リスクの関連を
疫学調査により解明

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研究代表者

田村 好史

国際教養学部国際教養学科 教授

医学の進歩とともにさまざまな病気が予防できる可能性が明らかとなりつつあり、日本人の平均寿命も延び続けています。しかし、健康寿命の延びは平均寿命の延びに追いついておらず、最晩年の不健康期間に大きな変化は見られません。「ヘルスクリエーション」は現状よりもさらなる健康を手に入れるためのコンセプトで、この不健康期間を少しでも短縮させることが大きなテーマのひとつです。順天堂大学スポートロジーセンターで研究を進める国際教養学部の田村好史教授は「ヘルスクリエーション」をコンセプトに研究を進め、日本人女性に多い骨粗鬆症リスクと運動の関係などの研究成果を精力的に発表し続けています。

10代に骨量を上げておくことが骨粗鬆症の予防につながる

「令和元年版高齢社会白書」(内閣府)によると、日本人が要介護になる原因の約12.5%を「骨折・転倒」が占め、特に女性の場合は6人に1人が「骨折・転倒」をきっかけに要介護状態になっています。骨折の原因となる疾患のひとつが骨粗鬆症で、日本は先進国の中でも骨粗鬆症の有病率が高いことで知られています。そこでスポートロジーセンターでは東京都文京区在住の高齢者約1,600名を対象とした「文京ヘルススタディ―」のデータを活用し、運動習慣と骨粗鬆症リスクの関連などについて、研究を進めています。 骨粗鬆症は、主に加齢とともに骨量が低下して発症し、骨折のリスクとなる疾患です。特に女性の骨量は10代に一気に増加し、最大骨量に達します(図1)。その後は横ばい状態が続き、閉経後に急速に下がって行くことがわかっており、「10代のうちに、いかに骨量を上げておくか」が後々の骨粗鬆症の予防につながると考えられます。骨量を上げるためにはしっかり栄養を摂ることと適度な運動を行うことが必要といわれており、当センターでは「文京ヘルススタディ―」の参加者に中学・高校時代の運動習慣と骨粗鬆症の関係について調査し、次のような研究成果を発表しました。

中学・高校時代に運動部活経験者は 高齢期に骨粗鬆症になりづらい

まず、私たちは約1,600名の高齢者を対象に、「中学・高校時代に運動部活動をしていたか」により10代の頃の運動習慣の有無を判断、「現在運動習慣があるかどうか」により高齢期の運動習慣の有無を判断しました。そして、中学・高校時代の運動習慣の「あり」「なし」、高齢期の「あり」「なし」の4群に分け、骨密度や骨粗鬆症の有病率と比較しました。すると中学・高校時代と高齢期の両方に運動習慣「あり」と回答した女性は、両方とも「なし」と答えた人よりも骨粗鬆症のリスク(オッズ比)が35%も低いという結果になりました(図2)。その次に骨粗鬆症リスクが低いのは、中学・高校時代「なし」・高齢期「あり」の群でした。
 このことから、10代に運動することが後々の骨粗鬆症の予防に役立つ可能性や、さらに高齢期にも継続的に運動することの重要性が明らかとなりました。このように、その時点では気づかなくても長い目で見ると判明する健康効果を「レガシーエフェクト」と呼ぶことがあります。中学・高校時代の部活動はまさに「レガシーエフェクト」として、高齢期になっても骨粗鬆症の予防効果を発揮しているのかもしれません。(関連記事: https://www.juntendo.ac.jp/news/20220125-01.html)

社会構造から生まれる 女性の運動習慣の二極化を解消するために

私は2016年より3年間、スポーツ庁の鈴木大地長官(当時)の元で参与としてお手伝いさせて頂き、「スポーツを通じた女性の活躍推進会議」など様々な会議に参加させて頂きました。その際に気づいたことの一つが、「女子中高生の運動習慣が二極化している」という事実と、それが将来の疾患発症につながる可能性がある、ということです。女子中学生の調査から、活発に運動をしている人がいる一方で、全体の約2割が1日平均10分足らずしか運動をしていないことが明らかとなっています(図3)。
 二極化の原因は、運動が好きな女子中高生は運動部に入る一方、運動が苦手な女子中高生は文化部を選ぶ、ということがあるのではないかと推測しています。それでは、運動部を選択しない理由は、運動が苦手だから、ということだけなのでしょうか?私は、むしろ女子中高生が運動部を避ける要因として、学校の部活動が競技会への参加のために作られて来た歴史が大きく影響していると考えています。例えば東京都文京区の学校なら区民大会・都大会・関東大会・全国大会などの競技会に参加する可能性がありますが、多くの大会が学校単位で出場することになると思います。そこで競技会での勝利を目指して部員は切磋琢磨するわけですが、その一方で行き過ぎた勝利至上主義も問題視されています。
 そもそも、スポーツは楽しむためにあるもので、その観点でいうと好きなスポーツを部活として楽しむスタイルが本来の部活動の在り方と言えます。例えば、女性が新たに始めたい運動としてウォーキングやヨガなどがあり、それに取り組む部活があれば、「ちょっとやってみたい!」と思えることも多いのではないでしょうか。むしろ、一生涯競技スポーツを続ける人はまれで、このようなゆるいスポーツが生涯に渡る運動につながり、健康寿命の延伸につながるかもしれません。実際に、そのような議論を経て「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、「生徒の多様なニーズに応じた運動部を設置する」ことを推奨する一文が付け加えられるに至りました。その後、少しずつヨガ同好会やレクリエーション部などの「ゆる部活」が学校現場でも増えつつあり、従来の学校スポーツとは異なるスポーツ文化が育まれていく可能性が広がっています。また、このような新たな試みをさらに広めるには、明確なエビデンスが必要ですので、「文京ヘルススタディ」を活用した研究をさらに進めたいと考えています。

やせている若い女性の増加に危機感 高齢期まで健康を保つためにも運動を!

今後の日本女性の骨粗鬆症リスクがさらに高まる可能性があります。「若い時期にやせている女性が昔よりも増えている」からです。ご存じのとおり、日本は世界的に見てもやせている女性の割合が多い国です。「やせている女性に骨粗鬆症リスクが高い」ことは先行研究でも明らかになっており、これが日本に骨粗鬆症の患者さんが多い理由のひとつになっていると考えられます。さらに、「若い頃にやせていた女性は高齢になってもやせている」ということを示唆するデータもあります(図4)。今の高齢者の方は若い頃、現代女性ほどやせていませんでしたが、それでも日本は骨粗鬆症の有病率が先進国中トップクラス。今後は、高齢者の中に、若い頃からずっとやせている、つまり低栄養状態で骨量が少ない女性が増えていくことが予想されますので、骨粗鬆症リスクから見ると大変危険な状況です。若いうちにしっかり食べて運動をし、骨量を上げ、高齢期まで健康を保つ「エネルギー高回転型」にいかに近づけていくかが、生涯を通じた健康へのアプローチになりそうです。

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