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脳の可視化による病気の診断と機能解明

放射線画像診断技術は
どこまで進化したのか?
CT、MRI研究の第一人者が語る最前線

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代表研究者

青木 茂樹

大学院医学研究科放射線診断学 教授

疾患や外傷(けが)の診断においてCT、MRIは必須の医療機器であり、国内だけで年間3,000万件以上も行われています。これらX線CT(コンピュータ断層撮影装置)、MRI(磁気共鳴画像診断装置)による画像診断技術は、近年、急速な進化を遂げており、脳機能の可視化が進み、診断できる疾患の種類も飛躍的に広がっています。CT・MRI画像診断技術研究の第一人者である順天堂大学大学院医学研究科放射線診断学・データサイエンスコース長の青木茂樹担当教授にCT・MRI技術の最前線をお聞きしました。

脳研究や診断に欠かせないCTとMRI その違いとは?

病院で患部をCTやMRIで撮影し、診断を受けた経験がある方は多いでしょう。CTとMRIはどちらも体内の情報を撮影して取り出し、コンピュータで画像化して体の断層像を見ることができる医療機器です。CTはX線を使い、MRIは強い磁場やテレビと同じ程度の周波数の電波を使って体内の情報を取り出します。CTはわずかながらX線被曝があるため限定的に行う必要がありますが、MRIは体への影響が全くないといわれています。 CTが世に出たのは1973年。『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ラジオロジー』という英国の学術誌に発表されたことが最初です。現在のCTの原型となる装置を開発したゴッドフリー・ハウンスフィールドとアラン・コ―マックは1979年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。 MRIはCTに5年ほど遅れて1970年代後半~1980年代前半に急速に普及し、国内では80年代末には全国の大学病院に設置されました。MRI開発の基礎を築いたポール・ラウターバーとピーター・マンスフィールドもまた、2003年にノーベル医学生理学賞を獲得しています。

肺、心臓血管、肝臓などの体部の撮影に向くCT
脳や脊髄などを得意とするMRI

では、CTやMRIはどのような疾患の診断に特に役立つのでしょうか。
CTもMRIも開発そのものは頭部の診断を目的に始まりました。CTは比較的短時間で撮影できるので、体の動きがあっても呼吸で止められるような部位、例えば肺のような場所の撮影に有効です。ただし、骨で囲まれた場所はX線が通りづらいため多少苦手で、それを補うこともあってMRIが開発された経緯があります。疾患でいえば、肺がん、大動脈瘤、冠動脈の狭窄などの心臓血管、肝臓のほぼ全ての疾患、胆のうや腎臓も手術する際に必ずCTを撮ります。
MRIは骨に囲まれた場所が得意で、特に頭部や脊髄の撮影で有用です。そのため、大部分の脳の病気の診断にMRIを使います。脳腫瘍、脳梗塞、脳出血、脳性麻痺、脳の萎縮がある認知症など形状に変化がある疾患はもちろん、形状に変化が起きない疾患でも他の疾患でないことを確認するために一度は利用します。
MRIは形だけでなく、組織の性質や状態を色(信号値)の違いで詳しく評価できるため、疾患による臓器や組織の変化の詳細な評価に使えます。特に脳や脊髄では詳細な評価が必要なので、MRIを用いて形だけでなく機能を評価する試みがなされています。

定量的な数値を測定できるMRIも登場
形状変化の乏しい精神疾患の診断や健常人の脳機能も対象へ

形状変化の乏しい疾患にMRIが利用されるようになったのは、画像ではなく定量的に数値を測定できる機能が加わり、微妙な変化が視覚的評価ではなく客観的に評価できるようになったためです。例えば、臨床ではすでに海馬の体積を計ることで認知症の診断に活用されていますし、認知症の薬の治験でも客観的な数値が広く使われるようになりました。というのも認知症の患者さんの症状はさまざまで、症状だけでは判断がつかないところに客観的なデータを提供できるようになったからです。また、パーキンソン病でも新たな知見が見つかりつつあります。
まだ疾患群での研究レベルで臨床の個別診断には使われていませんが、うつ病や統合失調症などの形状変化より機能変化が目立つ疾患の診断にもMRIが今後有効となるだろうといわれています。特に統合失調症は、20世紀後半を通じて脳そのものに物理的変化はないとされてきましたが、定量MRIで詳細に評価することで物理的変化があることを示せるようになりました。そのため、そう遠くない将来、精神科の診断にも利用されるようになると考えています。
また、MRIを利用した血管撮像(以下、MRA)では、微小な変化についても撮影が可能になりました。例えば脳の血管障害の場合、これまでは血管造影検査を行うしかなかった細い血管もMRAで検査ができるようになり、血管のどの部分が狭くなっているのか、どれほどの動脈瘤があるのか、発症する前から診断が可能になりました。カテーテルを用いた血管造影検査は侵襲性が高いため、MRAでできれば患者さんのご負担をかなり減らすことができます。

順天堂のCT、MRIは質・量ともに国内トップクラス!
脳関係の診療科が充実し、診断の知見が集積

私たちの研究室がある順天堂大学医学部附属順天堂医院は1910年、日本で最初にレントゲン科が創設された病院です。CT、MRIとも次々に最先端の診断機器が導入され、2021年5月現在、CT6台、MRI7台を保有しており、国内トップの台数・検査数を誇ります。MRIの性能は磁場の強さにより異なるのですが、順天堂のMRIは7台中5台を磁場が強い3テスラのタイプが占めており、まさに質・量ともに日本一の陣容といえます。 また、脳関係の診療科が非常に充実しているのも順天堂の特徴です。世界有数のパーキンソン病の診療拠点である脳神経内科、国内で最も長い歴史を持つ脳神経外科、精神病棟を持つ精神科などにさまざまな疾患の患者さんが訪れ、数多くのMRIを撮影されるため、その診断に精通していくことができます。私は放射線診断学のなかでも神経系を担当しているのですが、順天堂は半世紀前に脳神経外科が発足した1年後に早くも神経放射線科の教授職を設置した点が画期的といえます。 医学部以外の学部、例えばスポーツ健康科学部と密に連携し、順天堂でしかできない研究を行っているところも強みでしょう。世界トップクラスの体操選手の脳をMRIで調べ、トレーニング効果の把握や競技適性の予測などの研究も進んでいます。

地域住民の健康状態を追う文京ヘルススタディ―
全国からCT画像を集めて提供するデータベース事業に参画

他に「文京ヘルススタディー研究」にも参加しています。「文京ヘルススタディー研究」とは、文京区在住の65歳以上の方およそ1,600名を対象に、認知機能や運動機能を測定。「いつから・どのような人が・どんなふうに」介護に直結しやすい疾患(認知症・脳卒中・関節疾患・骨折など)になるのか、10年以上に渡って追い続けているものです。私たちは参加者全員の頭部MRIを撮影し、うち約200名に精密なMRI検査を実施。どれくらいの割合で隠れ脳梗塞があるのか、既往症のある方の脳がどうなっているのか、激しいスポーツをする人の脳がどのようになっているのかなど、細かく調査を続けています。
また、私が理事長を務める日本医学放射線学会では、2016年より画像診断ナショナルデータベース(J-MID:Japan Medical Image Database)という大規模データベースを構築しています。順天堂以外に九州大学、京都大学、岡山大学、大阪大学、慶應義塾大学、東京大学などが携わり、2021年5月時点で約2億枚もの匿名化したCT画像が集まっています。情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)などにも協力していただいて、研究者が自由にデータを利用し、AI研究などに使える体制を整えました。

最先端MRIの開発やCOVID-19の画像識別技術など
社会貢献に直結するMRI研究

CTやMRIの研究は実際に臨床で使用する実機で行うため、基礎研究から社会実装までが非常にスピーディであることが特徴です。例えば、2015年に国内で発売されたGEヘルスケア社製のMRI「MAGIC」では、私たちの研究成果が活かされ、従来の3分の2程度の時間で大量撮影が可能になりました。キヤノンメディカルシステムズ株式会社でも、音が小さく、これまであまりよく見えなかった金属の周辺まで確認できるMRIの開発に貢献しました。順天堂の脳神経外科では動脈瘤や血管奇形をコイル、クリップ、ステントなどの金属を用いて治療していますが、金属周辺までつぶさに見えるMRIは非常に好評です。このようにすぐに臨床に貢献できるのがMRI研究のやりがいでもあります。
前述のJ-MIDのデータベースでは、COVID-19肺炎のCT画像を迅速にAI解析するプラットフォームの開発・整備が進みました。炎症などによりCT画像上で肺の形状が識別しづらい場合でも、AIが的確に推定できる手法も実現。この手法を用いたところ、COVID-19肺炎が疑わしい症例とそうでない症例を、おおよそ83.3%の精度で識別可能になりました(2020年8月時点)。J-MIDには普段からCT画像が集積されているため、例えばCOVID-19の変異型が登場しても、登場前のデータと登場後のデータを速やかに集めて解析するAIを製作することができます。すると放射線科医の教育もスムーズに進みますし、どのような変異型が来ても画像解析ができるAIを作れるようになります。いつでも使える画像データベースを持つ利点はここにあり、今後もさまざまなAIの実装化が進むと考えています。

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