JST 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)
「災害など危機的状況から住民を守るレジリエントな広域連携医療拠点」のキックオフシンポジウム開催

令和5年度JST 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の選定を受け、2024年2月2日、「災害など危機的状況から住民を守るレジリエントな広域連携医療拠点」のキックオフシンポジウムが、順天堂大学を代表機関とし、順天堂大学有山登メモリアルホール(本郷・お茶の水キャンパス)にて開催されました。連携する5大学をはじめとして多くの参画する企業および自治体が集まり、活発な議論が繰り広げられた当日の模様をお届けします。

災害後も中長期的に身体面・精神面の健康を守るための仕組みづくり

JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)とは、大学等が中心となって未来のありたい社会像を策定し、その実現に向けたバックキャスト型の研究開発を推進するとともに、産学官が連携して自律的かつ持続的な拠点を形成することをめざしたプログラムです。順天堂大学が代表機関を務めるのは、「災害など危機的状況から住民を守るレジリエントな広域連携医療拠点」の形成に向けた取り組み。これに千葉大学、山梨大学、群馬大学、福島県立医科大学の4大学、および企業、自治体が参画し、災害後の亜急性期から中長期における住民の健康課題を解決する技術の開発を検討しています。今回は多くの参画機関が一堂に会し、プロジェクトのキックオフに際したシンポジウムを開催しました。

その後、プロジェクトの研究開発責任者である福島県立医科大学医学部の坪倉正治主任教授、山梨大学医学域の大塚稔久教授が続けて登壇し、災害に備えた広域連携医療拠点が求められる背景を説明。坪倉主任教授は東日本大震災における経験を踏まえ、災害時に広がりうる健康被害の実態を具体的なデータを用いて伝えました。大塚教授は能登半島地震の被災者の声を紹介。避難所での健康面、精神面でのケア不足についてエピソードを交えつつ、災害時のレジリエントな体制の重要性を示唆しました。両名の背景説明から、救急医療のみならず、在宅診療を含め、中長期的な視点に立った医療連携体制の重要性が浮き彫りとなりました。

これらの課題の提示を受け、プロジェクトリーダーである順天堂大学大学院医学研究科の隈丸加奈子准教授が、拠点ビジョンの概要を説明しました。「ポイントは、地震に限らず豪雨や台風など、いずれの災害においても医療にアクセスできない、周囲から孤立してしまうといった状況に陥らないための対応策を考えることです。そのため、共通して起こりうる二次的、間接的な健康被害にもフォーカスしています。危機的状況にあっても人々が中長期的に健康でいられる社会を実現するため、企業や自治体を交えつつディスカッションを重ね、健康被害の種類とその要因を分析してきました。そこでの知見を活かして設定したのが、『人・モノがつながる』『心がつながる』『不調を予測・予防する』『正しく知る・育てる』という4つのターゲットです。これらに沿って、身体、精神の健康保全、およびそれらを中長期的に実現するための体制づくりに努めます」

続いて、医薬品や食品、ドラッグストア向け日用品の流通を手掛ける株式会社メディセオの若菜純常務取締役が登壇し、災害時における医薬品安定供給の現状と課題について説明。順天堂大学健康データサイエンス学部の満塩尚史准教授(2024年4月就任予定)は、デジタルガバメントで培ったノウハウも活かしながら、情報セキュリティにおける情報通信技術(ICT)のレジリエンスについて言及しました。

危機的状況に備えた具体的なデジタル技術の活用方法について説明したのが、研究開発課題リーダーである山梨大学大学院総合研究部の柏木賢治教授、および研究開発実施者である群馬大学大学院保健学研究科の齋藤貴之教授です。柏木教授はクラウドベースの健康情報管理システムによる不調の予測、オンラインと対面を併用した緩やかなコミュニティの形成による孤立の防止について発表。齋藤教授はLoRaWANを用いたヘルスモニタリングシステムの社会実装がもたらす効果について話すとともに、データ活用技術を有した保健医療人材の育成が求められていると強調しました。産学官連携マネジメントリーダー兼外部リソース獲得ビジョナリーリーダーである順天堂大学URAの松田七美氏は、5大学の弾力性に富んだ連携をイメージし、ビジョンを可視化したロゴの意図について解説しました。

未来の社会を見据えて準備を進めることが重要

その後、登壇者7名にモデレータとして進行を務めてきた副プロジェクトリーダーであるInnoJin㈱代表取締役社長、順天堂大学大学院医学研究科の猪俣武範准教授を加え、これまでの発表を踏まえた総合討論を実施。会場から挙がった「緊急時に高齢者の健康状況をモニタリングするために、平常時よりウェアラブル機器を普及させるための仕掛けについて考えをお聞かせください」という質疑に対し、はじめに齋藤教授が回答しました。「健康に関心がある高齢者は多いため、自ら測定できることにはメリットがあります。今後は不足の事態を感知した際にアラートを表示するというようなメリットを付け加え、普及を促進したいと考えています」。

続く柏木教授は、「実証検証を続けていますが、実際に機器による管理を楽しんでいる人もいれば抵抗を感じている人もいます。ご指摘のポイントは我々としても課題意識を持っており、今後の検討を続けたいと考えています」と述べました。また、同様の研究に携わる猪俣准教授もこれに続いてコメント。「現状ではこちらから働きかけて機器を普及する必要がありますが、プロジェクトが見据えている10年後の社会では、誰もがこうした機器を使用している未来になっていると予測しています。そのような時代を考え、現段階から準備を進めておくことには意義があると感じています」と伝えました。

また、猪俣准教授より投げかけられた「災害に対応する医療人材、データサイエンス人材の育成」というテーマに対し、登壇者がそれぞれの考えを話しました。隈丸准教授は「大学としても災害医療データサイエンス講座を展開し、企業や地域住民にも開かれたものにしたい」と今後の展望を語り、他の登壇者からもIT分野と医療人材の接続に対する行政、企業への期待が相次いで述べられました。猪俣准教授は特色を持った多くの大学が広域で連携することの重要性を改めて強調し、テーマの尽きない総合討論を一度結びました。

災害待ったなしの日本。広域ネットワークの形成とデジタル活用をめざして

総評として、プロジェクト参画自治体である南アルプス市の担当者・河野氏と、大学間・官学間ビジョナリーリーダーである順天堂大学革新的医療技術開発研究センターの菱山豊客員教授がコメント。続くJST共創の場形成支援プログラム第 1 領域の副プログラムオフィサーを務める吉田輝彦氏が挨拶を述べました。

約3時間にわたって示唆に富んだ発表と活発な議論が行われた今回のシンポジウム。閉会の儀では社会実装ビジョナリーリーダーである順天堂大学医学部長・医学研究科長の服部信孝主任教授が登壇。「今回のプロジェクトは構想から育成型として採択されるまで約7年を要しました。日本が災害待ったなしの状況であることは、全国民が認識している状況だと思います。私自身、本シンポジウムでの議論を通じ、広域ネットワークの形成とデジタル活用の重要性を再認識しました。今後は育成型から本格型への移行をめざし、実際のシステムづくりについても議論を深めたいと思います。5大学が多様性を活かし広域連携することが、プロジェクト成功の鍵を握ると考えています」と述べ、場を締め括りました

(登壇者一覧)※敬称略、順不同
新井一
順天堂大学 学長
代表機関長

 

坪倉正治
福島県立医科大学 医学部 主任教授
研究開発責任者

 

大塚稔久
山梨大学 医学域 教授
研究開発責任者

 

隈丸加奈子
順天堂大学 大学院医学研究科 准教授
プロジェクトリーダー

 

猪俣武範
InnoJin株式会社 代表取締役社長
順天堂大学 大学院医学研究科 准教授
副プロジェクトリーダー

 

若菜純
株式会社メディセオ 常務取締役
ロジスティックス本部 本部長

 

満塩尚史
順天堂大学 健康データサイエンス学部 准教授(2024年4月就任予定)

 

柏木賢治
山梨大学 大学院総合研究部 教授
研究開発課題リーダー

 

齋藤貴之
群馬大学 大学院保健学研究科 研究科長
研究開発実施者

 

松田七美
順天堂大学 URA
産学官連携マネジメントリーダー 兼 外部リソース獲得ビジョナリーリーダー

 

河野佑介
南アルプス市
保健福祉部 介護福祉課 高齢者福祉担当

 

菱山豊
大学間・官学間ビジョナリーリーダー
順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター 客員教授

 

吉田輝彦
JST 共創の場形成支援プログラム 第1領域 副プログラムオフィサー

 

服部信孝
順天堂大学 大学院医学研究科長/医学部長
社会実装ビジョナリーリーダー