整形外科学講座
石島 旨章 主任教授 × 坂本 優子 准教授 × 金子 晴香 准教授
Vol.2「研究力を通して専門分野を確立!
整形外科学領域でパイオニアとして活躍する二人の女性准教授」

seikeikagaku

順天堂大学整形外科学講座では、坂本准教授、金子准教授のお二人の女性上位職が活躍をしています。主任教授の石島先生と坂本先生、金子先生による座談会に先立ち、整形外科学領域の魅力や女性医師へのニーズなどについて伺いました。

運動器を診る整形外科学領域は、「外科」いう名称はつくものの、手術を行わない医師がいたり、手術を行う場合でも、技術の進歩により長時間手術は減少し、術後管理に時間を要しないため、他の外科系診療科に比べると「オン・オフがはっきりしている」、「自分のスタイルで働きやすい診療科」だと感じている医師が多くいます。これからますます長寿化が進む日本においては社会的ニーズの高い分野であり、特に坂本先生が専門とする小児整形や骨代謝領域や金子先生が専門とする膝関節やスポーツ医学領域などでは、女性医師へのニーズもあります。整形外科学領域は、外科系を希望する女性医師にとって活躍しやすい領域といえます。
また、整形外科学領域は、学内での臨床や教育そして研究活動に加え、チームドクターなど学外での活動も行っている医師が多くいるという特徴があります。そのため、病院の勤務時間以外の時間の使い方 ―チームドクターとしての活動や子育てなど― を、どう周りが認めサポートするかが重要となってきます。

整形外科学領域での女性の活躍と働き方-現状と課題-

平澤 整形外科学領域は、女性割合が低い領域ですが、順天堂大学整形外科学講座では、2人の女性上位職が活躍していますね。これは、とてもすごいことだと思います。 

石島 坂本先生はお子さんがいるので周りがサポートをしていた時期もありましたが、二人とも自分なりの働き方で成果を上げてきました。

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整形外科学講座 石島 旨章 主任教授

 

平澤 坂本先生は練馬病院で女性上位職としてご活躍されていますが、いかがですか。

坂本 練馬病院は他の関連病院と比較して女性医師が多いのが特徴です。また、本院ほど人数が多くないため、コンパクトに「ワンチーム」という感覚で仕事をしており、お互いの状況が常に把握できる状態にあります。そうすると、「あの仕事に人が足りていない!今は私が動くときだ!」と自分も周囲もすぐに理解ができ、行動に移すこともできます。そのため、不公平感が生まれにくい環境だと感じています。上位職になってからは、女性医師が働きやすい環境をつくるために、組織に自分の意見を伝えることができるようになりました。物事が決まっていく場に参画でき、他科の科長などとも話し合いをする機会が増えました。 

平澤 本院で病棟医長・外来医長をされていた金子先生はいかがですか。

金子 本院は、練馬病院とくらべて規模が大きくなります。そのため、子育て中の女性医師だけでなく、さまざまな立場、考え方の医師がいます。緊急手術や病棟業務などが、一部の人に偏ることなく、協力してうまく時間をシェアしながら働く環境づくりが、整形外科学領域を問わず、医療界全体の課題だと感じています。当科でも「子どもが熱を出したから帰ります」と言う男性医師も増えてきました。この先、女性医師が増え、それに伴い子育てをしながら働く女性医師が増えた場合、どのように運営していくか検討をしていく必要があります。 

平澤 人数が多いことのメリットはありますか。

金子 大学病院では、その人数の多さを活かして、何が起きても運営ができるようなシステムが構築されています。 

石島 整形外科学領域は、もともと女性医師の人数が少ない領域でした。そこに少しずつ女性医師が増えてきて、ようやく、何年か前に女性医師が多い診療科で課題となっていたことが当科の課題になりつつある状況です。

平澤 そのような整形外科学講座で女性上位職が2名もいることは、心強いことです。 

坂本 私が上位職に採用いただくに当たって、石島先生が本学の整形外科学講座にリサーチマインドを植えつけてくださったことがとても大きいと思っています。石島先生がいらっしゃる前は、キャリアアップには臨床のみではなく研究も教育も大事なはずなのに、研究を行う土壌がありませんでした。石島先生のお陰で、研究を通して自己確立ができ、その分野で認められた女性たちが活躍できるようになりました。また、専門分野という「強み」があると、出産や育児休暇後も戻ってくる場所があります。

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整形外科学講座 坂本 優子 准教授

 

スポーツ領域における女性整形外科医の活躍とその可能性

平澤 金子先生は陸上競技の20歳以下日本代表のチームドクターとして、ご活躍されたと伺いました。 

石島 最近、スポーツに興味があって、かつ、医師を志す学生が多くいます。そのような学生のなかで、整形外科学領域を選択する人が大勢います。スポーツもそうですが、まずは男性が先行するケースが日本は多いですよね。そのため、スポーツドクターを目指して整形外科学領域に入ってくる女性医師が最近増えています。

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平澤 女性アスリート支援をされている立場から、金子先生の女性医師のさらなる活躍に向けてのお考えや女性医師へのニーズについて教えてください。 

金子 仕事に関しては、ジェンダーレスやジェンダーフリーが大事ですが、スポーツ疾患については性差も大事だと考えています。実際、性差にあまり注目をすることなく強化をしてきたことで、女性アスリートが、けがが原因で競技を続けられなくなることが問題になっていたりします。アメリカではスポーツ医学という分野が整形外科学領域とは別に存在していますが、日本では「けがをしたから病院に行く」というように整形外科が入り口になるケースが多いのが実態です。そのため、女性アスリートの支援の分野では女性医師が存在する意味は大きいと感じています。

平澤 順天堂医院にある女性アスリート外来も、そのような役割を担っているのでしょうか。 

金子 順天堂医院本院の女性アスリート外来は、婦人科が中心になって立ち上げ、整形外科を含む関係科が参画し、運営しています。科の垣根を超えた医師との協力により、さまざまな視点で診ることができるので、個別の診療科にかかるよりも解決できることが多いと考えています。しかし、スポーツにさまざまな側面でアプローチすると、病院での診療業務、スポーツ現場での活動、家庭での生活と3つをバランス良くやることはとても難しいと思います。今後は、この3つを両立できるシステムの構築が必要です。

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整形外科学講座 金子 晴香 准教授

石島 今回の東京オリンピックでも、メディカル分野は圧倒的に男性社会でした。スポーツをしていてけがをした経験のある女子学生は、医師ではなくリハビリの分野を選択するケースが多いように感じています。順天堂は、今後新しくできる学部を含めて、すべてスポーツがキーワードとなってつながっています。順天堂でスポーツ医学が盛り上がらないはずはありません。ぜひ、この座談会の記事を見た女子学生に、順天堂でスポーツドクターを目指してもらいたいと思います。

性別・年齢を超えてシームレスに診る整形外科へ

平澤 これから社会的なニーズが増えてくる整形外科・運動器医学の領域では、金子先生がお考えになる今後のキャリアや身に着けたいスキルなど、希望があれば教えてください。 

金子 石島先生がいつもお話してくださっていますが、今後、超高齢社会になると、やはり疾患の予防が大事になってくると思います。スポーツにおいても予防が必要で、子どものころからの成長過程での蓄積が大事になります。「長い流れでひとつの疾患をみる」と石島先生がおっしゃっているように診療、あるいは研究を行っていくことが今後の課題だと思っています。
また、上位職として医局を運営していく立場から言えば、多様化した職場をうまく働き方改革につなげられるようにすることが重要だと思っています。男性も女性も一緒になってどのような仕組みが良いか考えていける診療科にしていきたいです。

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平澤 坂本先生は「小児・AYA世代ボーンヘルスケアセンター」のセンター長をされていますね。 

坂本 「小児・AYA世代のボーンヘルスケア」という考え方自体が、石島先生のもとで研究をするなかで出てきたものです。骨粗鬆症外来に携わり、「ここって穴だな」と感じたことをきっかけに、私自身が骨粗鬆症で骨の代謝を考えることを小児の分野に持ち込みました。「中高生のころの、骨が強くなる時期が一番大事だ」ということが多くの人に知られていませんでした。しかも、元気な中高生は病院に来ません。来ないからわかっていない。入院しているお子さんのなかにも、例えばがん治療やステロイド治療、栄養障害を抱えるような疾患があったり、ホルモン分泌障害があるなど、潜在的に骨が弱いだろうということがわかっている子どもたちがいます。けれども、通常では原疾患の治療に当たるだけです。「原疾患だけでなく弱くなっている可能性のある骨にも注目をしよう」という視点が抜け落ちていました。このような視点を広めるために、その名前を掲げたセンターを立ち上げました。けれども、私自身はまだ手探りで行っている状況なので、関係領域の先生たちに声をかけて、潜在的な患者さんを探し出しているところです。この経験を積みながら、最終的にはベストなタイミングで、「こういう検診をすれば捉えられる」、「こうやって経過観察すればいい」、ということをセットで提示していきたいと考えています。

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整形外科学講座のメンバーと(右が坂本准教授)

平澤 ありがとうございました。「センター」として確立すると、発信力が出てきますね。石島先生、最後にもう一度、全世代型の運動器の健康を支える診療科としての、整形外科の魅力をお話しください。 

石島 学生と話していると、「ある診療科には女性だから行かない(行けない)」と考えている人はもういません。学生たちは、ある診療科に対して、「本当に興味があるか」ということだけで決めています。そうすると、私たちはそのような学生の「受け皿」にならないといけません。特に、今の学生は、その診療科の「環境」が整っているかどうかに興味を持っています。整形外科学講座は、男子学生はもちろん、女子学生にもぜひ来てもらいたいと思っています。女性医師へのニーズは様々な場面でありますし、順天堂では活躍する場があることをぜひ伝えたいと思います。整形外科学領域は、女性医師の割合が低い診療領域ですが、女性医師を受け入れる環境を早くつくりたいし、「移動機能の維持」という観点から、子どもから大人までをシームレスに運動器の健康と疾患を考えることができる講座にしていきたいと考えています。整形外科学領域の、男女の差もなく、年齢の差もなくできることに魅力を感じてほしいです。この座談会の記事を読んで、ぜひ、学生のなかにある整形外科学領域のイメージ刷新できればと思います。

平澤 本日はどうもありがとうございました。

石島 旨章(いしじま むねあき)

順天堂大学大学院医学研究科
整形外科・運動器医学 主任教授

1996年、順天堂大学学部卒業。同年、同大医学部整形外科学講座。東京医科歯科大学研究員、私立学校共済組合東京臨海病院医員を経て、2003年、順天堂大学医学部整形外科学講座助手。2005年、NIH Visiting Fellow。2007年、順天堂大学医学部整形外科学講座助教。2012年、順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学准教授。2020年同、主任教授(医学部整形外科学講座主任教授併任)。日本整形外科学会代議員(2017年~)、日本骨代謝学会評議員(2008年~)など、国内多数の学会で評議員等を歴任。OARSI:Board member for Board of Directors(2018年~)など、国際学会にも多数所属。

坂本 優子(さかもと ゆうこ)

順天堂大学医学部
整形外科学講座(練馬病院) 准教授

2000年、群馬大学医学部卒業。同年、順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修医。2002年、順天堂大学医学部整形外科学講座(東京江東高齢者医療センター)助手。2007年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。同年、順天堂大学医学整形外科学講座助教。2008年、同(練馬病院)助教。2016年、Texas Scottish Rite Hospital for Children留学。2018年、順天堂大学医学部整形外科学講座(練馬病院)准教授。2020年、小児・AYA世代ボーンヘルスケアセンター設立、センター長。日本整形外科専門医(2009年)、日本骨粗鬆症学会認定医(2017年)。日本骨粗鬆症学会研究奨励賞(2019年度)。

金子 晴香(かねこ はるか)

順天堂大学医学部
整形外科学講座 准教授

2003年、筑波大学医学専門群卒業。同年、順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修医。2006年、順天堂大学整形外科学講座助手。同年、同(練馬病院)助手。2011年、Hospital for Special Surgery, New York, USA留学。2012年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。2013年、順天堂大学医学部整形外科学講座助教。2019年、同講師。2021年、同准教授。日本整形外科学会専門医(2011年)、日本スポーツ協会公認スポーツドクター(2014年)、日本リウマチ学会専門医(2021年)。日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会評議員(2020年~)、日本臨床スポーツ医学会代議(2020年~)。国際関節病学会(OARSI) Scholarship Award(2011年)、第36回公益財団法人 整形災害外科学研究助成財団「日本シグマックス賞」(2019年)。日本オリンピック強化スタッフ(2017年~)、ユニバーシアード(ナポリ)陸上競技帯同ドクター(2019年)、東京オリンピック陸上競技メディカルボランティア(2021年)。