渡邉 玲 主任教授 × 吉原 渚 准教授 × 加賀 麻弥 准教授 Vol.7「大学人として働く皮膚科医の魅力とキャリア構築
‐研究・臨床・教育の意義と実践‐」
「医師としての鮮度」を保ちながら、患者さんを笑顔に
平澤 本日は、皮膚科学講座で上位職として活躍されている女性教員の皆様に集まっていただきました。主任教授を筆頭に複数の女性教員が上位職として活躍されていることは、大変素晴らしいことだと思います。渡邉先生は、伝統ある本学の皮膚科学講座にはじめての女性主任教授として、2023年12月に着任されました。本日は、順天堂皮膚科学講座ならではの魅力的なお話を伺えたらと思っております。まず、渡邉先生に皮膚科学領域の魅力をお話しいただきたいと思います。
渡邉 皮膚科学領域については、まずなにより「皮膚」という組織に魅力を感じてもらいたいと思っています。皮膚は体全体を包んでいる、生体のなかで最大の表面積を持つとても大きな組織です。加えて、体の「内と外」を区別するという、免疫学的にも重要な組織です。皮膚科医のプライドを表す言葉に「皮膚は生体の鏡である」というものがあります。皮膚は皮膚で完結しているわけではなく、全身の症状の現れとして皮膚の問題となっていたり、別の病気のヒントを得ることができたりします。これが皮膚科の特徴であり、魅力だと思っています。
平澤 ありがとうございます。吉原先生、加賀先生にもそれぞれ皮膚科医のやりがいについてお話しいただきたいと思います。
皮膚科学講座 渡邉 玲 主任教授
吉原 私は、患者さんに寄り添えることが皮膚科医のやりがいだと考えています。皮膚疾患は症状が見た目にあらわれてしまいます。そのため、症状が強く出てしまうと患者さんの心の負担になることが多いと感じています。大学病院は患者さんにとって「最後の砦」だからこそ、腰を据えて難しい症状の治療にも取組みます。その結果、治療の効果が表れ、患者さんが喜んでくれることが私にとってはやりがいであり、医師としての喜びを感じる瞬間です。
平澤 加賀先生は、市中病院での科長として勤務された経験があると伺っています。そのご経験も踏まえて、皮膚科の特徴をお話いただければと思います。
加賀 皮膚科には、内科と外科、両方の要素があると考えています。理論に基づいて診療を行う一方で、自分で手を動かして治療をすることもあります。私も吉原先生と同じで皮膚が目に見える形できれいになって患者さんの表情が明るくなった瞬間は、とてもうれしいです。また、市中病院で勤務をした経験を踏まえると、大学病院はそこが起点となってさまざまな働き方を医師に提供し、加えて医師の「鮮度」を保つことができる場所だと感じました。
渡邉 「医師の鮮度が保てる」ということは、大学病院で働くことの大きな魅力だと私も思っています。大学には多くの医師が所属しているので、ほかの医師とかかわることで学術的な面も含めて、自然とアップデートされる機会が提供されます。クリニックの非常勤などとして勤めることは、臨床面としては興味深いと思いますが、どれほど自分から新しい医療にキャッチアップしようと努めても限界があると感じます。
10年後の未来を見据えて-女性医師のキャリアの構築-
吉原 渡邉先生がお話された、「大学病院には多くの医師が所属している」ということは、女性が働き続けるうえでも重要な点だと思っています。私自身もそうでしたが、女性としての生き方と仕事を両立させることに悩んだとき、ロールモデルを見つけやすいという利点があります。自分より少し先を歩いている先輩方を見ると、たくさんの輝いている先輩方がいらっしゃるので、働き方だけでなく、診療における考え方についても含めて、多くの人が所属するからこそ学べることが多いと感じています。
皮膚科学講座 吉原 渚 准教授
渡邉 全国的な統計を見ても、「病院勤務医」として皮膚科は女性医師が残りやすい診療科だと言えると思います。特に、本学は他大学と比べて女性比率が高い状況です。一方で、最近、学生や若手医師と接していて、「大学に残り続けよう」というビジョンを持っている人が少ないことを心配しています。自分のことを振り返ると、若いころ、「10年先の自分」は想像することすらできませんでした。けれども、「こんなふうに頑張っていけたらいいな」と思える複数の女性医師が身近にいることはとても重要で、複数の先輩の背中を眺めているうちに20年以上過ぎていました。その点では大学病院は多くの医師が所属している分、ロールモデルが見つけやすいと思います。長期的な視野を持って、そのとき自分がいるライフステージにおいて何に重点を置くのか考えながら働くことができれば、女性医師の活躍がさらに進んでいくと思います。
平澤 今、ちょうど女性医師のキャリアについてのお話になりましたが、加賀先生は研究留学のご経験もあると伺っております。先生のこれまでの皮膚科医としてのキャリアについてお聞かせください。
加賀 臨床医として5年ほど勤務してから研究を始めましたが、基礎研究はまったく新たな発想の出どころであることや、診療科という分類がない点に魅力を感じました。世界の優れた研究論文に触れると、単純にその研究者と会って一緒に働きたいと思いましたし、学問的な探求心を大切にする文化がある国に、優れた研究が生まれやすいことを感じ、研究で留学することを目標とするようになりました。私は稀少疾患と言って、患者数がとても少ない遺伝性の皮膚病(ダリエー病、ヘイリー・ヘイリー病)の研究を専門としていますが、患者数が少ないため、利潤から考えれば、治療法開発の対象となりにくいことになりますが、留学先で多くの患者と実際に出会ったときに、時には患者や家族会が、直接、研究資金を提供したり、製薬会社に働きかけて研究を促したり、といった活動があることを知りました。研究所の実験室の階下が診察室になっていて、研究者と患者が話す機会も多かったのですが、まさしく基礎研究と診療がダイレクトにつながっている感覚で、このイメージは、今、臨床をしていても忘れないようにしようと思っている事でもあります。市中病院に出た際、学会発表や論文執筆がほとんど重視されないことに驚きました。当たり前のことかもしれませんが、市中病院で重視されることは、売り上げや地域・近隣の医師からの紹介を受け入れた件数など、これまで大学で重視されてきたものとは全く異なるものでした。加えて、大学病院のように多くの診療科で医師がきちんと確保されている市中病院は少ないため、皮膚科としてできる治療にも制約がありました。他科の先生がリスクのバックアップをしてくれるから皮膚科としてリスクのある治療が可能になる、逆に皮膚科もバックアップができるという、助け合いの矢印が大学病院は双方向に強いことを市中病院に出て初めて実感しました。やはり、大学病院は恵まれていると思います。
皮膚科学講座 加賀 麻弥 准教授
渡邉 順天堂大学の特徴として、臨床へのウェイトの置き方が他大学に比べて高いと感じています。医師になった早い段階から現場に出て、「自分がやらなくては」という環境に置かれることはとても良いことだと思います。ぜひ、多くの若手医師に、順天堂で市中病院ではなかなか経験のできない症例を経験し、自らのスキルを向上させていただきたいと思います。
平澤 吉原先生は、今、医局長をされていると伺っています。そのなかで、「大学病院ならではの経験できること」を感じることはありますか。
吉原 そうですね、医局長になって他科とのつながりが増えたのですが、他科の先生とのつながりがあると、悩みや良い点などの情報共有ができたり、他科の先生の医療に対する考え方を知ることができたりしました。このような経験ができるのも、さまざまな診療科があり、多くの医師が所属している大学病院だからだと思っています。また、「大学病院ならでは」ということで言えば、学生との関わりがあります。学生と接していると、初心を思い出したり、自分が医師になりたかった新鮮な気持ちを思い出したり、改めて「皮膚科医として頑張ろう」と思わせてもらえます。
渡邉 吉原先生はありとあらゆる面でバランスの良い力を持っている方だなと感じています。学会活動などを通して外から見ていても気づきませんでしたが、順天堂に着任をして「すごい方がいる!」と思いました。大学病院という多くの人がいる場所で、身近な場所で一緒に働いているからこそ、その人のことを知ることができると思います。加賀先生は、働き盛りの若手の先生にいつも気を遣ってくれています。しかも、論文を書くことの重要性について話しつつも臨床の話もされていて、後進の育成に尽力をしてくれています。いろいろな人がいろいろな力を発揮できるのが大学病院の良いところです。主任教授として、医局員一人一人の良さを見つけて、十全に発揮してもらう、大学のソフトとハードをうまく使えばもっと大学病院はとても楽しい場所になると思っています。ただ、人数が多い分、例えばライフイベントのタイミングなども皆さん異なりますので、勤務時間や当直の調整が大変なのは実際にあったりします。
平澤 その点は、医局長の吉原先生が心を砕かれているところでしょうか。
吉原 現在、私自身、子育てをしながら常勤教員として医局長を担当させていただいています。そのため、「みんなの多様な悩みに一様に共感できる立場」として自分がいるのだと考え、片一方の意見などに偏らないことで、それぞれの先生の考え方に対し中庸な立場で接するように心がけています。
それぞれの理想に向けて-自分の存在感を持つ-
平澤 それでは、最後にお一人ずつ、今後のキャリアに対するお考えや目指したいことなどをお話しください。それでは、まずは吉原先生お願いします。
吉原 現在、皮膚科のなかのサブスペシャリティとしてアレルギーに興味を持っています。そのため、今後はアレルギー疾患の指導医の取得を目指したいと考えています。そして、もし今後、アレルギーセンターのようなものができるのであれば、ぜひ、そこに関わっていきたいと思っています。臨床で得た経験を発信していきたいです。加えて、日々、自分が学んだことを周りの医師たちに共有していきたいと考えています。私は順天堂大学の出身ですが、教員が学生に「一緒に学ぼう」というスタンスでかかわってくれていたと感じています。そのスタンスを、今度は医局のなかに広めていきたいです。
座談会の様子
平澤 ありがとうございます。確かに、順天堂大学には「みんなで一緒に頑張ろう」という文化があるかもしれませんね。次に、加賀先生、お願いします。
加賀 私は、医師は「職人・技術者」のような存在だと考えています。患者さんの体をメンテナンスし、ともに歩んでいく存在というイメージです。そのため、「先生にお願いしたい」と選んでもらえるような医師になりたいと思っています。それが、私にとっての医師としての今後の理想像です。
平澤 皮膚科は身近な診療科ということもあり、患者さんに頼られる医師はこれからますます求められると思います。
加賀 順天堂は、患者さんや学部生の声をきちんと聞こうとする姿勢があるので、大学全体としてもそのような医師を目指すよう後押ししてもらっていると感じています。
平澤 おっしゃるとおりですね。それでは、最後に、渡邉先生、お願いいたします。
渡邉 大学という場の貴重さを活かしたいと思っています。臨床、研究、教育、どの面においても、各自が異なるスペシャリティを持ち、「このことについては、あの人に相談しよう」という関係性が網羅できる講座にしていきたいと考えています。そのため、医局員の皆さんには、早い段階から皮膚科のなかの、あるいは、皮膚科と他科とのサブスペシャリティを持ってほしいと考えています。サブスペシャリティは、自分がやりたいものでも偶然出会ったものでも良いと思います。自分のサブスペシャリティを持ち、育てていくとそれがその人の存在感になっていきます。主任教授として、皆さんが存在感を持てる「種まき」をしていきたいです。加えて、臨床の経験は重要ですが、臨床経験から言えることにはいつか限界がきます。そのため、特に基礎医学をアップデートするような研究に関する視点を持ちながら、精進していってもらいたいです。大学は、そのような視点を身に着けるためには、まさにぴったりの場所だと思います。
平澤 本日は、ありがとうございました。

渡邉 玲(わたなべ れい)
順天堂大学医学部大学院医学研究科
皮膚科学・アレルギー学 主任教授
2001年、東京大学医学部医学科卒業、東京大学医学部附属病院・東京厚生年金病院皮膚科研修医。2003年、東京大学大学院医学系研究科外科学専攻博士課程入学。2007年、同修了(医学博士)。2007年、東京大学医学部附属病院皮膚科助教、国立国際医療センター皮膚科医系技官。2009年、Research fellow, Brigham and Women’s Hospital, Department of Dermatology。2014年、東京大学医学部附属病院皮膚科講師。2015年、筑波大学医学医療系皮膚科講師。2020年、大阪大学大学院医学系研究科アレルギー免疫疾患統合医療学寄附講座准教授。2023年、同皮膚免疫疾患治療学共同研究講座特任准教授。2023年12月、順天堂大学医学部皮膚科学講座主任教授。

吉原 渚(よしはら なぎさ)
順天堂大学医学部皮膚科学講座 准教授
2007年、順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部附属順天堂医院初期研修医。2009年、順天堂大学皮膚科入局。2010年、順天堂大学大学院医学研究科入学。2014年、同修了(医学博士)。2014年、順天堂大学医学部附属順天堂医院助教。2018年、順天堂大学医学部附属順天堂医院皮膚科准教授。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医。日本皮膚科学会、日本アレルギー学会、日本研究皮膚科学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本小児皮膚科学会など多数の学会に所属。

加賀 麻弥(かが まや)
順天堂大学医学部皮膚科学講座(医学部附属練馬病院) 准教授
2003年、群馬大学医学部卒業。2005年、順天堂大学皮膚科入局。2012年、順天堂大学大学院医学研究科終了(医学博士)。同年、同皮膚科学助教。2018年、仏国立保健医学研究所イマジン研究所Laboratory of Genetic Skin Diseases常勤研究員としてDarier病、Hailey-Hailey病の研究に従事。2019年、順天堂大学皮膚科学准教授。2020年、関連病院皮膚科部長。2023年、順天堂大学医学部附属練馬病院皮膚科准教授。日本皮膚科学会専門医。厚生労働省難病研究班 皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班 研究協力者。
※所属・役職等は全て座談会実施時のものです