循環器内科学講座
南野 徹 教授×宮﨑 彩記子 特任准教授
Vol.10「循環器内科で新境地を切り拓く!大学病院という環境で成長を続ける女性医師」

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心臓や血管を通して全身を診る循環器内科では、生活習慣病など患者さんの生涯に関わる病気の治療に取り組む一方で、救急車で運ばれてくる重篤な患者さんの劇的な回復に立ち会えるといった感動があります。
2020年6月に順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学に着任した南野徹教授と、宮﨑彩記子特任准教授が循環器内科の魅力と、新たな取り組みについて語ります。

循環器内科医として一人前になるベストチョイスとして順天堂に!

平澤 まず、循環器内科の特徴や魅力についてお話いただけますか? 

南野 循環器内科は、多くの方が苦しまれている心臓病・がんの二大疾患を治療できることや、病気の性質上、患者さんと生涯にわたって関わっていけること、場合によっては家族ぐるみで診療することも多くやりがいを感じる科です。 

宮﨑 私も救急車で運ばれてきた患者さんが笑顔で帰って行かれることを何度も経験し、充実感を持っています。

南野 加えて、市場での売上が大きい薬を扱うこともあって、研究資金が集まりやすく、診療や研究の発展につながりやすいのがこの分野の特徴といえます。 

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循環器内科学講座 南野 徹 教授

平澤 先生方が循環器内科医を目指されたきっかけを教えていただけますか? 

南野 僕は医者家系に生まれたので自然と医師を目指すようになっていました。親類縁者のほとんどが開業医だったので、最初は開業医を考えていたんですよ。循環器内科は全身を診るので、開業するのにちょうどいいだろう、と考えて選択しました。ただ、学ぶうちに研究・教育・先進医療に興味を持つようになり、アカデミアに残りました。

宮﨑 学部時代は現場に出てみないと向き不向きがわからないと思い、内科にすることすら決めていませんでした。卒業後、広尾にある日本赤十字社医療センターで初期研修をしていたとき、上司が「宮﨑は循環器内科が向いている」とアドバイスをくださって、自分でも魅力を感じていたので循環器内科を選択しました。順天堂に戻ったのは後期研修からです。母校でもあり、横のつながりや科同士のつながりが非常に良いですし、何よりも症例も多いこと、大学病院なので研究にも取り組みやすい環境であることが魅力でした。「循環器内科医として一人前になるには順天堂がベスト」と考えました。

2循環器内科学講座 宮﨑 彩記子 特任准教授

南野 僕は順天堂に来てまだ7か月ですが、みんながひとつの目標を持ち、同じベクトルに向いて仕事をしているので、非常に仕事がしやすいと感じています。女性医師も多くて、面談していると皆モチベーションも高く、留学希望者も多いんです。そういう人材がこれから成長していくのが楽しみですね。

腫瘍循環器学、成人先天性心疾患外来など
先進的な取り組みに挑戦!

平澤 宮﨑先生が担当されている「腫瘍循環器学」についてもお聞かせいただけますか? 

宮﨑 がんと心疾患は内科領域の非常に重要な2つの柱ですが、腫瘍循環器学はその2つの柱の重なり部分を扱う領域で、比較的新しい学術領域です。がんを治療することに伴う心血管合併症や、もともと心疾患を持っている人の悪化を防ぐためのサポートをしています。はじめは乳腺科とのコラボレーションで関わるようになりましたが、現在は血液内科や呼吸器内科など、さまざまながん関連の診療科と協力しています。 

南野 腫瘍循環器学はがん患者さんの予後をQOLも含めて改善する研究・診療領域です。非常にロジカルで深い学問領域ですし、重要視されています。

平澤 宮﨑先生は、2019年4月から成人先天性心疾患外来も立ち上げられたと伺いました。 

宮﨑 生まれつき心臓に何らかの異常がある先天性心疾患に関しては、これまでは患者さんが成人しても小児科が継続して担当することが一般的でした。最近は、治療技術の向上とともに複雑な心奇形でも成人に達する患者さんが増えている一方で、心疾患を患いながら高血圧や糖尿病、妊娠・出産などに直面する患者さんも増えていて、新たな視点での対応が求められています。そのような状況もあって、小児科から少しずつ成人を対象とする外来へ患者さんが移れる体制を整えるべきと考え、成人先天性心疾患外来を立ち上げました。小児科の先生方とは月1回ミーティングを実施し、情報交換をしています。腫瘍循環器学もそうですが、他の科の先生方とコラボレーションすることは私にとって非常に魅力的で、やりがいを感じます。

3心臓超音波室での検査の様子

いくつになっても新しいことを学び、
成長できるのが大学病院の魅力

平澤 宮﨑先生のように高い専門性をもって臨床と研究に取り組めるのは、大学病院ならではのメリットかもしれませんね。 

宮﨑 大学病院は新しい情報が次から次へと入ってきますし、自分からもアクセスしやすい環境です。40代になっても、まだ新しいことを勉強できるし、昨日よりも知識が増えていることを実感します。いつまでも刺激があるのが、非常に魅力です。 

南野 大学は診療だけでなく、新しい医療を生み出すための研究をしなければなりませんし、そのモチベーションを持つ者が集まる場だと僕は思っています。臨床をやりながら問題点を見つけて検証し、臨床にフィードバックする「知の循環」をさせることが、すべての大学、とくに臨床系の教室の目標だと考えています。医学の分野はどれもとても面白いので、どんな分野であってもポジティブに捉えてサポートできる医局にしたいですね。
また、医局で働くメンバーはそれぞれ想定しているゴールが異なるので、ゴールに合ったキャリアパスを考えてあげる必要があります。医学はサイエンスなので、ある時期はロジックを身につけることに没頭することが非常に重要です。それにより開業医になっても患者さんに論理的にわかりやすく説明できますし、自信にもなります。

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平澤 ほかに宮﨑先生は公衆衛生大学院で公衆衛生学修士(MPH)を取得されているんですね? ここで学んだことは現在の研究にも活かされていますか? 

宮﨑 大学院在学中、公衆衛生学的視点から心臓病をどう見るのか興味を持ったことから、大学院修了後、公衆衛生大学院でもう1年勉強することにしました。公衆衛生大学院では、医学統計学をみっちりと勉強できたことはもちろん、精神医学について学んだり論文をクリティカルに読むトレーニングなどを積みました。今、いろいろな科の先生方とコラボレーションする際に、公衆衛生大学院でMPHを取得したことが非常に役立っています。 

平澤 南野先生からご覧になって、宮﨑先生の印象はいかがですか?

南野 基本的にハードワーカーでアグレッシブですね。医局のメンバーにも話したのですが、研究や仕事は1分野だけに取り組んでいても、なかなか進まないものです。「マルチタスク」で複数のことを少しずつ進めてみることも重要で、その中から最終的にライフワークになるものを見つけていくといいと思います。その点、宮﨑先生はいろいろな分野にチャレンジされていることが素晴らしいですね。 

宮﨑 特任准教授となり、その役割のひとつとして、医師が働きやすい環境づくりを進めていくことが求められていますが、女性だけが「働き方改革」をすることは不可能で、男性も含めた全体での改革が必要だと思います。今後は「女性」にこだわらず、男女ともに継続的に働ける環境づくりのアイデアを出していきたいです。

仕事を分担し、プロジェクトをまとめる力
新たなポジションでさらなる成長を

平澤 ここで宮﨑先生からリーダーという立場になって現在お感じになられていることなどをお聞かせいただけますか? 

宮﨑 私自身は、リーダーに向いている・向いていないに性別による差はないと思います。リーダーというポジションについて、それまで「自分のことだけ考えていればよかった」「言われたことだけやっていればよかった」という立場から、「仕事を仲間に分担する」「プロジェクトをまとめる」立場になることで、人間的に成長が遂げられるのではないでしょうか。上司の考え方や言葉がより深く理解できるようにもなるでしょう。女性も「女性だから無理」「家庭があるから無理」と最初から決めつけるのではなく、1度はトライしてみたら成長につながるのだと思います。
 

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平澤 南野先生から宮﨑先生へアドバイスをお願いできますか? 

南野 宮﨑先生はすでに十分に頑張っていると思います。ひとつだけ付け加えるとすれば、たくさん抱え込んでいる仕事を若手に振るようにしてもらうことでしょうか(笑)。もちろん宮﨑先生がやる方が早いことはわかっているのですが、そこをあえて若手に任せてみてもらいたい。そうすることで彼らの成長・教育につながると思います。 

宮﨑 そうですね(笑)。ありがとうございます。

平澤 非常に重要なポイントでしたね。では最後に、次世代の若手医師へのメッセージをいただけますか? 

南野 循環器内科は画像技術や治療効果の進歩が目覚ましく、ライフワークにできるテーマがたくさんある診療科です。必ず自分のやりたい分野が見つかりますので、ぜひ挑戦していただきたいです。 

宮﨑 特に女性にとっては、将来のライフイベントを想定して進路を考えることはもちろん大事です。しかし、人生は予定通りにはいかないもの。若いうちは「今、ここ」に集中して経験を積むことが将来の選択肢を広げることに繋がると思います。

平澤 ありがとうございました。

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宮﨑 彩記子(みやざき さきこ)

順天堂大学医学部
循環器内科学講座 特任准教授

2000年、順天堂大学医学部卒業。医師国家試験合格。日本赤十字社医療センター臨床研修医。2002年、順天堂大学医学部附属順天堂医院後期研修医。2003年、順天堂大学医学部循環器内科学講座専攻生。2004年、日本内科学会認定内科医。2005年、同助手。順天堂大学医学部附属静岡病院勤務。2009年、日本循環器学会認定循環器専門医。2011年、順天堂大学にて医学博士の学位授与。2012年、東京大学にて公衆衛生学修士の学位授与。日本超音波医学会認定専門医。2013年4月~2015年3月、イタリア・サンラファエル大学留学(リサーチフェロー)。2014年、Euro Echo Imaging学会High score Abstract賞。2015年、順天堂大学医学部循環器内科学講座助教。順天堂大学医学部附属浦安病院勤務。2016年、順天堂大学医学部附属順天堂医院勤務。2018年、月刊『心臓』優秀査読者賞。2019年、同特任准教授。

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南野 徹(みなみの とおる)

順天堂大学大学院医学研究科
循環器内科学 教授

1989年、千葉大学医学部卒業。同内科研修医。1991年、国立習志野病院内科医師。1992年、東部地域病院循環器科医師。1994年、東京大学医学部研究生。1997年、東京大学にて医学博士号取得。米国ハーバード大学医学部へ留学(リサーチフェロー)。2000年、帝京大学医学部第3内科助手。2001年、千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学助教。2007年、科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)。2010年、千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学講師。2011年、科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)。2012年、文部科学省学術調査官(兼任)。新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科教授。2015年、北里大学大学院客員教授(兼任)。2017年、新潟大学医歯学総合病院検査部部長(兼任)。2018年、日本学術振興会学術システム研究センター研究員(兼任)。2019年、新潟大学医歯学総合病院副病院長(兼任)。2020年、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授。