小児外科学講座
山高 篤行 主任教授×有井 瑠美 特任准教授
Vol.6「常に創意工夫を求められる小児外科の手術に魅せられて。
多様な働き方を認める医局で更なる高みを目指す女性医師!」

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1968年、国内初の小児外科学講座として誕生した順天堂大学小児外科学講座。患者さんの年齢や身体の強さによって異なる対応が求められる「型にあてはまらない手術」が特徴です。山高篤行主任教授が牽引し最先端外科医療を推し進める順天堂小児外科には、女性医師を含む多くの若手医師が集まっています。今回は特任准教授に就任した有井瑠美先生と主任教授の山高先生に、平澤恵理男女共同参画推進室副室長がお話を伺いました。

 

臨床実習で小児外科に心を奪われて

平澤 まずは先生方が小児外科を選ばれた理由をお聞かせください。 

山高 私はもともと、ものごころがついた頃から外科医になろうと決めていたんです。医学部6年生のとき、ポリクリ※で小児外科へまわった際に「これはすごい!」と一気に心を持っていかれましたね。とにかく、おなかも肺も体表も全部担当する、とても面白い診療科だと思いました。
その後、外科研修医として小児外科に入ったとき、毎朝6時集合だったのですが、全く苦になりませんでした。手早く雑用を済ませて、「早くオペ室に入りたい!」という一心(笑)。いろいろな外科を回った後も、「やっぱり小児外科だ!」と思いました。

※ポリクリ…医学部高学年の学生が病院の各診療科を回って受ける臨床実習。 

有井 私は高校時代に同級生の影響で生命に興味を持つようになり、医学部を受験しました。進学した大学には当時小児外科講座がなく、たまたま5年生の終わりに麻酔科のポリクリで市中病院の手術に入らせていただいたのが、小児外科との出会いでした。そのとき、術野にかなり興味を惹かれ、「自分がやりたいのはこれだ!」と思いました。

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小児外科学講座 有井 瑠美 特任准教授

 

平澤 お二人とも手術の魅力から入って、すっかり心を奪われたということですね。 

有井 大人の手術との違いが面白いと感じました。偶然にも同級生のお父様が小児外科分野で有名な大阪府立母子保健総合医療センターの小児外科医でしたので、6年生の春にホームステイをし、毎日同センターに通って手術を見学させていただきました。
その後、千葉西総合病院で臨床研修を受けていたとき、順天堂大学出身の小児科志望の方と一緒になり、そこで「順天堂ってすごいんだよ!」と教えられて。地元の大学病院も考えていましたが、順天堂大学の方が症例数が多い。また女性医師は、どこかのタイミングで妊娠・出産の中断が入る可能性がありますから、年間10例ほどしか経験を積めないところより、30例、40例、50例と少しでも多くの経験を積めるところがいいと考えました。
 

山高 確かに症例数がないと、なかなか経験を積めないですよね。それにカンファレンスで見聞きするだけでも全然違う。「耳学問」というように。これは、どの科でも同じことが言えると思います。 

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小児外科学講座 山高 篤行 主任教授

平澤 先生方が魅せられた小児外科の魅力とはどのようなものですか? 

山高 全身を診られるということですね。そして、手術自体が非常にクリエイティブです。大人の外科手術ではある程度「型」がありますが、小児外科の場合は新生児から15歳までが対象となるため同じ臓器でも年齢によって全くサイズが違いますし、「型」にあてはめた対応が難しい。患者さんの年齢や身体の強さによって手術のタイミングを変えることもあれば、複合的な疾患を持つ場合にはどちらを先に治療するべきかなど、教科書に載っていないことを自分なりに考えなくてはいけないことが多いんですよ。そういう意味で、型にあてはまらないクリエイティブな手術を求められるのが小児外科の特徴といえます。 

平澤 工夫することに非常にやりがいがあるわけですね。有井先生も「わかる、わかる」というお顔をされています。

着実に増加する女性医師。
外科医も仕事と家庭を両立できる時代

平澤 本学小児外科学講座は有井先生が入局されたとき、すでに女性医師が複数いらっしゃったそうですね。今も女性医師の割合が高いとか。 

山高 当科の医師は24人中8人が女性ですから、全体の33.3%となります。ちなみに、小児外科学会の会員が1,583人いて、そのうち女性は301人で全体の19%です。小児外科全体でも、当科でも、女性医師は着実に増えています。

平澤 なぜ小児外科でこれほど女性医師が増えているとお考えですか? 

山高 大人の患者さんの身体を動かしたり、おなかを閉じたりするときには、結構力がいるんですよ。その点、お子さんなら軽いので女性でも対応しやすい。それに大人の手術に比べて、小児外科のマイナー手術は1~3時間程度で終わるものが多いんです。手術内容もバリエーションに富んでいますし、女性が携わりやすいと思います。ちなみに、小児泌尿器外科学会では会員850人のうち女性が151人で、全体の17.8%。小児外科以上に女性の増え方が早いんです。 

有井 泌尿器科はもともと男性のイメージが強かったのですが、私が学生の頃に「女性泌尿器科」という枠組みができました。女性泌尿器は女性医師が診たほうがいいということで、母集団が増えたのではないでしょうか。その中で小児泌尿器科という分野も確立され、女性医師の方が取り組みやすいという流れになったのだと思います。

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平澤 女性医師が小児外科にいることのよさを教えていただけますか?

山高 小学校高学年~中学生の女の子の患者さんの場合、男性医師では恥ずかしがる子が多くいます。つい最近も13歳の女の子の膀胱の検査で、「男性医師はいやです」と言われました。思春期の女の子が患者さんの場合、女性医師を担当にしたり、女性医師に一緒に診てもらったりすると、患者さんのストレスを軽減できます。 

有井 私は患者さんが男の子の場合、お母さんから「男の子のことはよくわからない」と相談を受けることが多いです。私自身が8歳・5歳・3歳の男児の母親なので、自分の経験を話すと理解していただきやすいと感じます。 

平澤 では反対に、女性医師であることの難しさはありますか?

有井 やはり家事・育児という時間的制約がある中で、手術の技術などを継続的にスキルアップしていくことに難しさを感じます。ただ、私自身は「女性もずっと仕事を続けなさい」と親から言われ、共働きの両親の背中を見て育ちましたので、働くことが当たり前。夫も私の働き方を知った上で結婚しているので、暮らしの中に自然と仕事と家庭がある印象です。ですから、いちばん下の子どもが卒乳したタイミングで、メジャー手術も含めて「手術やります!」と宣言をしました。

4医局のカンファレンス

平澤 いちばん下のお子さんの卒乳が、ひとつの目安だったのですね。 

有井 私は比較的マイペースにキャリアを積んできたんですが、男性医師のほうが先に技術を身につけ、専門医資格を取得して医局内でのポジションが上がって行く姿を見ると、「私もなりたい!」という気持ちが湧き上がってきました。それに次々に女性医師が入局し、やはり「追い抜かれたくない」という気持ちも生まれます。今年も女性医師が4人入局しましたが、目指しているレベルは本当に人それぞれです。なにか客観的な基準を設けて、「〇〇をクリアすれば、△△に到達できる」とわかれば、目標もライフプランも立てやすいのではないでしょうか。 

平澤 なるほど。今回、有井先生は女性医師の就労支援やご自身のキャリアアップを目的の一つとして、特任准教授に就任されました。ここはひとつ、医局員の意見を集約して客観的な基準を設定し、山高先生にお示しできるといいですね。こうした基準ができると、最初からどんどんクリアしていく人もいれば、ある程度タイムラグを設けて挑戦する人も現れるでしょうし、ライフプランが立てやすい。よいアイデアですね!

山高 これからは医局も小児外科学会も医学生も、ますます女性が増えていくでしょう。私が主任教授になった頃は、「初代教授の駿河敬次郎先生や、2代目の宮野武先生を超える教室を作るんだ!」と厳しく教室運営をしましたが、今の時代はそんな昭和のやり方では通用しません。今の若い男性医局員を見ると、奥さんに対してすごく理解がありますね。ですから若い優秀な先生方や医局長に僕の仕事の一部を任せて、僕は手術や研究に集中する。その結果、どんどん女性医師が増えました。

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平澤 山高先生の医局長を選ぶ目が正しかった、ということではないでしょうか? 

山高 確かに、医局長にも向き不向きがあります。全体を見ながら体制づくりをするのが好きな人材を選び、任せるようになってから女性医師が増え、みんな楽しそうです。当科に入局してくれた人に「見学をしたとき、楽しそうだったから選んだ」と言われたことがありましたし、この方がいいと思っています。 

有井 山高先生が講座のあるべき姿をビシッと示してくださり、医局長が働き方に多様性を持たせてくださっています。私より上の世代の女性外科医はスーパーウーマンばかりで、ひたすらキャリアを突き進まれた方が多いのですが、当時はそうしないと医局に残れなかったのだと思います。今は仕事も家庭も両立できる時代になりましたね。

初心を忘れず
常に新しい挑戦を!

平澤 では有井先生、今後の目標をお聞かせいただけますか? 

有井 昔は「専門医資格が取得できればそれでいい」と考えていた時期もありましたが、今後はもっとイニシアティブをとって手術などに取り組み、学術的な部分も広げたいです。無理をしなくても、もっともっとできるはず。活躍の場や職位が与えられれば、責任感ややる気が増す女性は多いと思います。

5手術に取り組む有井特任准教授

山高 有井先生の仕事ぶりを見ていると、心配をすることは全くありませんね。先日の膀胱手術でも、事前にち密に計画を立てて私に報告してくれ、「あ、これはもう大丈夫だ」と思いました。若い先生方の手術計画を見ると、「これは僕が入るよりも、ひとりで任せたほうがいい」とわかる瞬間がある。横について教えるより、自分で考えるほうが伸びが違う。有井先生の手術計画は素晴らしいので、チャンスがあればまた挑戦してほしいと思っています。 

平澤 最後に、これから外科医を目指す方へのメッセージをお願いします。 

有井 私は日々の仕事に追われると、自分の目標が狭まっていくのをよく感じます。外科医を目指す方も、日々の仕事の中で閉塞感が出ても、ときどき初心を思い出すと新しいことに挑戦できると思います。

山高 私もよく初心を思い出していますね。手帳にも「初心忘るるべからず」と書いています。優れた手術技術を身につけるには、大変な修行が必要です。でもそれを軸に、手術で人を治すのが外科医の仕事。「そのためになにをすればいいのか?」を考え続けてほしいと思います。

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山高 篤行(やまたか あつゆき)

順天堂大学大学院医学研究科
小児外科・小児泌尿生殖器外科学 主任教授

1985年、順天堂大学医学部卒業。同医学部附属順天堂医院外科研修医。1987年、同小児外科医局員。1990年、英国、オーストラリアへ留学。1992年、順天堂大学医学部附属順天堂医院小児外科助手。1994年、獨協大学医学部附属病院小児外科助手。1995年、順天堂大学医学部小児外科学講師。1996年、ニュージーランドへ留学。1999年、同助教授。2006年、同主任教授。2012年、東京医科大学消化器・小児外科学分野兼任教授。小児医学川野賞、東京都医師会医学研究賞など、受賞多数。

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有井 瑠美(ありい るみ)

順天堂大学医学部小児外科学講座 特任准教授

2006年、金沢大学医学部医学科卒業。千葉西総合病院にて臨床研修医。2008年、順天堂大学医学部小児外科・小児泌尿生殖器外科学講座専攻生。2012年、順天堂大学にて医学博士号取得。2013年、順天堂大学医学部小児外科・小児泌尿生殖器外科助教。2018年、日本外科学会外科専門医資格取得。2019年、同特任准教授。2020年、日本小児外科学会小児外科専門医資格取得。